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KallistoDreamProject  作者: LOV
その1:長閑な喫茶店の看板娘に関する事案
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第6話

 元から常に上機嫌なカリストではあったが、イオと出逢ってからはことさらハッピーな気分であった。

 もっともカリストがイオに関して知っていることといえば、その名前と、自分と同世代だということくらいなもので、どこに住んでいるのかさえまだ知らない。

 そもそも善良な人間であるかどうかさえ判らないのである。よく考えたら(よく考えなくても)、一方的にやってきて「知り合いになってくれ」とは余りにも非現実的な行為なのだが、カリストは裏を読むような良い意味での小賢しさは持っていない。

「えへへ~♪ あんなにカワイイ女のコが悪いヒトのわけないもんね~♪」

 こういう自信や確信がどこから湧いてくるのか、何を根拠にしているのかはカリスト自身にも判らないのだが、そう感じるのだからカリストは自分の直感を信じる。


 これといった目標や義務もなく気ままにのんびり生活しているカリストは、生まれて初めて「待ち遠しい」という気分を味わった。いつものように森でツチノコを探したり虫を見つけたりして遊んで過ごしたが、部屋に帰ってみるとまだ昼過ぎだったりしてヤキモキしたりする。

「うへ……なんか時間進むの遅いなぁ……」

 早く次のバイトの日にならないかと、それだけを考えながら数日を過ごした。


「あした、アルバイトなんだよね~♪」

『え、そうだっけ? 一週間は早いわ』

「イオに会えるんだよっ♪」

『……ねぇ、あんたさぁ……何か変だとか思わない?』

「どして~? なにが~?」

『……ん、いや別に……あんたが何とも思ってないならイイんだけどね……』

「あした、イオにケーキとかたくさん食べさしてあげるから、おなかペコペコにしてきてくれたらウレシイなっ♪」

『…………』


 翌日、カリストは珍しくバイトの出勤時間よりも早くに喫茶店へ出向いた。

「オハヨ~ございま~す♪」

「……お前さん……まだ5時前だぞ……?」

 遅刻こそしないものの、カリストが怠け者だということを充分に熟知しつつあったオーナーは、普段の出勤よりも1時間以上も早く出てきたカリストに驚愕する。

「何かあったのか? なにか相談でもあるのか?」

「ふぇ? なあんにもないよっ? あ、でもねぇ、ちょとキッチン使ってもイイかなっ?」

 カリストは大きな紙袋を抱えている。近所のスーパーマーケットのものだ。

「あぁ? それは構わんが……また何か変なことを始めるつもりじゃ……」

 今までにもカリストは喫茶店の厨房を借りて、拾い集めてきたドングリを炒ったり、何かの根っこを茹でてデンプンを作ったりしたことがあったのだが、それはオーナーからしてみれば何をしているのか理解不能で、単に悪戯しているようにしか思われていなかった。

「ちょとねぇ……えへへ~♪」


 本来の出勤時間である6時になり、カリストはすっかり着替えてカウンタに入った。今日も客は一人もいない。

「まいすた~? エプロンの後ろの結び目とか、ヘンになってないかなっ?」

「ああ、何ともない」

「まいすた~? ネクタイとか、ヘンになってないかなっ?」

「そうだな、何ともない」

「まいすた~? ホワイトブリム(メイドさんのカチューシャ)とか、ヘンになってないかなっ?」

「うむ、何ともない」

「まいす」

「何だ、どうした? 今日は妙に浮ついてるな? ……いつも浮ついてるが……」

「えへへ……だってイオが来るんだも~♪ ヘンになってたら恥ずかしいもねぇ」

 カリストは顔を両手で覆ってモゾモゾと身じろぎする。さすがのオーナーも苦笑いするしかない。

「あぁ……イオって先週来たお前さんの恋び、いや、友達のことか……まあ例によって店は開店休業中だ、客が来ない限りは好きにしていて構わんよ」

「えへへ~♪ まいすた、だあ~い好き♪」


 ややしてチャイムが鳴り、予告どおりにイオが顔を出した。カウンタにカリストがいることを確認し一瞬だけ顔をほころばせたが、そんな自分に気付いたのか気まずそうに取って付けたように無表情を装った。

「いらっしゃいませ~♪ えへへ♪」

 カリストはカウンタから出るとイオの傍に立った。改めて見比べてみると、イオの方が頭半分は背が高い。

「えへへ~♪ 絶対に来てくれるって待ってたんだよっ♪」

「ど、どうも。私は約束は破らないわ」

 初めて会ったときよりもイオは確実にリラックスしたような感じだった。初対面で名指しで知り合いになってほしいなどと言うのは、かなり根性を奮い立たせなくてはできないことだったろう。

 カリストは唐突にイオの手を握ると、もう一方の手を店の奥に指し示しながら言う。

「お客さま、お席までご案内いたしま~す♪」

「あ、ちょ……」

 少し戸惑うイオにカリストはフンワリした笑顔うを浮かべる。

「えへへ~♪ イイものあるよ~?」

 カリストはそのままイオの手を引いて店内の奥まった一角に通した。そこには2人用の小さなテーブルがあり、そのテーブルの上にはケーキが1ホール……ゆうに「小さめのウエディングケーキ」ぐらいの大きさはある……そんなケーキが用意されていたのだった。

「ぎゃっ!?」

 想像を遥かに超えた「イイもの」に思わず頓狂な悲鳴を上げるイオ。その様子に満足げなカリストはイスを引いてイオを座らせると、前と同じようにすぐ隣に自分も座り、ピッタリと肩を寄せた。

「これ、さっき作ったんだよっ♪ 上の段は生クリームのショートケーキ風で、真ん中の段はチーズタルトが台になってるんだよ。下の段は拾ってきたドングリで作ったマロン風クリームで、あとねぇ、生地は普通のスポンジじゃなくって全部シフォンなんだよねぇ」

「…………」

 イオは呆れるを通り越して畏敬の眼差しさえケーキに注いでいたのだった。

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