intermedio
今回はインテルメディオ(幕間)です。
物語には直接関係しない(と思われる)挿話というか、ちょっとした小話です。
何の気ナシに会社に属するロボットの歴史などを調べていたイオであったが、偶然にもカリストの奇抜な趣味趣向……ツチノコやマリモを愛するという奇癖の手掛かりになりそうな資料を発見した。
それは会社に蓄積されている膨大なアーカイヴの奥深くに打ち捨てられていた、今となっては誰も見向きもしないような些末な資料であった。記された時代は20世紀初頭にまで遡る。
『ガクテンソク~?』
モニタの向こうでカリストが頓狂な声を上げる。
「そう、學天則……この名前に何か感じない?」
『なあんにも判んないや♪ 中国の食べ物かなんかかなっ?』
「う~ん……もしかしたら、あんたの先祖かもしれないんだけど……」
イオが発見した資料に依れば、學天則とは1928年にマコト・ニシムラという日本の、主に植物を専攻する生物学者が製造したアジア初のロボットであるとのことであった。
なぜ生物学者がロボットを造ったのか甚だ疑問であり、しかも圧縮空気で作動する自動人形の域を出ないシロモノで、上半身しか無い上にやたらと巨大であったという。何をするロボットかと言えば、占いのようなことをしたと言うが、詳細は不明だ。取り敢えずロボットと呼んでも差し支えはないかもしれないが、単なる見せ物や新技術のデモンストレーション用に造られたと思われる。
それがどいう経緯でか、1930年頃にドイツの某かに売却された。しかし思うように動作せず、その後の行方は知られていない。
「何だか東京に現れた悪魔だか魔人だかを打倒するのに一役買ったとかいう怪しげな情報もあるんだけど、コレはどうやらアラマタナントカとかいうヒトが書いた小説の創作みたいなのよね」
『ふう~ん』
「……あんた、あんまり興味ないみたいね……」
『そなことないよ~♪ で、ドイツに渡ったガクテンソクが巡り巡ってウチの会社に運び込まれて、それからロボットの研究が始まった~とかかなっ?』
「うん……それを裏付ける資料はないんだけど、何らかの情報の往来があったのは間違いないと思う。ただ、設計図や何かはドイツに来る以前に失われているみたい……正直、今に至るロボット開発には何も寄与してなと思う……個人的な意見だけど」
『それが、どしてわたしのご先祖さまなのかなっ?』
確かにロボットの原初を遡る興味深いハナシではあったが、どう考えても自分に結びつくような気がしない。しかしイオはハナシを続ける。
「えっと、それなんだけど……なんかオカルトめいてるって言うか、変なハナシだとは思うんだけど……この學天則そのものよりも、それを造ったニシムラって学者さんなのよ、問題は」
イオは手元の資料を捲りながら続ける。
「このニシムラさんって日本人の生物学者なんだけど、主に植物を研究してたらしいのよね。それで、特に研究していたのがマリモなのよ!」
『ふぇ~!? マリモ~!? わたしも大好き~♪』
相変わらず微妙にズレた驚き方をするカリストではあったが、少しばかりは感銘を覚えているようだ。イオも妙に興奮した様子で捲し立てる。
「マリモマニアの学者さんが造ったロボットがドイツに渡ってるのよ!? あんた、マリモなんか好きだって言ってるから変だと思ってたけど、絶対に何か関係してるんだと思う!」
『そだったんだ~♪ わたしってば、ニッポンにルーツがあったんだ~♪ そゆえば、おモチもツチノコも大好きだし、自分でもフシギ~って思ってたんだよねぇ♪』
「う~ん……ルーツってのとも違うとは思うけどね……」
------------------------
西村 真琴(にしむら まこと、1883年(明治16年)3月26日 - 1956年(昭和31年)1月4日)元・北海道帝国大学教授。
學天則(がくてんそく、学天則)は、1928年(昭和3年)、昭和天皇即位を記念した大礼記念京都博覧会に大阪毎日新聞が出品した、東洋で初めてのロボットである。制作者は同社の論説顧問だった西村真琴。
ちなみに西村氏の次男は「水戸黄門」で知られた俳優の西村晃。荒俣宏の書いた小説「帝都物語」、及び映画版には學天則と西村教授が登場しているが、映画版では西村教授を実子の西村晃が演じるという味な配役がなされている。