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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
53/150

Happy KALLISTO Xmas Edition

クリスマス用の特別篇です。

本篇には僅かに関係していますが、時系列的には本篇よりも後になります。

 クリスマスという単語を聞くと、なぜだかカリストはムネが苦しくなる。哀しいという気持ちではない……切ないとでも言うべき気分になるのだ。誰もがウキウキソワソワとココロときめかせるクリスマス。だのに、そういう「お祭りごと」が誰よりも好きなはずのカリストが、である。


 もちろんというか何というか、今年のクリスマスはイオと一緒にお祝いすることになっていた。夕方にイオが訪ねてくることになっているので、カリストは珍しく早起きして朝から部屋の飾り付けをしたりクリスマスに相応しい豪勢な料理を仕込んだり、それなりに忙しくしていた。

『そっ! そのっ! 特に何も用意しなくっても……あのその、ああああああんたさえ一緒にいてくれれば、わ、私はそれで充分だしっ……!?』

 何を考えているのか、イオの興奮たるや尋常ではなかった。カリストもイオとふたりっきりで過ごせるクリスマスの一夜に並々ならぬ喜びを感じている。

「クリスマスだからプレゼント交換しよ~?」

『じゃ、じゃあ何か用意していくわね。あんた貧乏だし、センスが奇抜すぎるし、正直あんまり期待できないわね……(あんたのカラダひとつで充分なんだけど)』

「そいじゃ、わたしの初めてのチュウあげる~♪」

『なっ!? ななななに言ってるのよっ!? バカぁ!』

 そんな気恥ずかしいやりとりをしている最中も、なぜだかカリストの気持ちの片隅には何とも言えない切なさが引っかかっているのだった。


 なんだろ……なんだかとってもサミシイ気持ちだよっ……?

 イオといっしょにいられるし、1年で一番、楽しい日なのに……。


 料理する傍ら、思わずフッと窓の外なんかを眺めてしまうカリスト。自分でもこんなにセンチメンタルな気分になる時があるのだなと少し驚いていた。

「…………んう!? フライパン焦がしちゃった~!?」


 珍しく調理にしくじったりもしたが、半月前からイオへのプレゼントを用意しておいたカリストの準備に抜かりはない。夕方を待たずに小さなツリーや部屋の飾り付けも終わり、今すぐにでもパーティーを始められる状態であった。

「……イオが来るまで、ちょとお昼寝しよ……」

 早起きした上に昼寝もしていなかったカリストは眠気を感じ、少しだけベッドに横たわることにする。自分でも気付かないほどすぐに眠りに落ちたのだった。


 カリストは夢を見た。

 見覚えのない部屋でカリストはテーブルに着いている。

 テーブルの上にはキャンドルと卓上ツリーが飾られ、幾つかの質素な、しかし品の良い料理が並べられているのだった。それは明らかにクリスマスの晩餐のようである。

 カリストはとても満ち足りた幸せな気分だった。

 テーブルの差し向かいの席には誰かが座っている。

 対角線上に置かれたキャンドルの灯火が眩しすぎて顔は見えないが、豪奢なメイド服を着ている女性であることは間違いなかった。ストレートロングの美しい白銀色の髪と豊かなムネが印象的で、カリストはワケもなくドキドキしているのだ。

 その女性は口元に微笑みを湛えながら何か言っている……顔も見えないし声も聞こえないのだが、何かを語りかけてきているのが不思議と判った。

(……ふぇ……いま何て言ったのかなっ……?)

 女性が僅かに顔を伏せたのが判った。とても哀しそうな、しかしそれを懸命に押し隠そうとしているのが言葉を聞くまでもなく伝わってくる。それと同時に、カリストもまた急激にムネが締め付けられるような哀しみを覚えた。

(……ふぇ? イヤだよっ……? そんなのイヤだよっ……!?)


 イヤだよっ……!

 ずっといっしょにいたいよっ……!

 大好きなヒトと離ればなれになるのイヤだよっ……!


「イヤだよぉっ!?」

 カリストは叫んでベッドから床に転げ落ち、したたかアタマを打った。

「むわあ!? ……ゆ、夢~?」

 涙と鼻水で顔がグシャグシャだ。カリストは顔を擦りながら立ち上がり時計を見る……昼寝を始めてから10分も経っていなかった。

「……何だったんだろ……?」

 嬉しくて、哀しい。不思議な夢だった。そして実際に体験したかのような現実感があった。

「……はぁ……せっかくイオといっしょのクリスマスなのに、こんな気分でいたらダメだよねぇ……」

 珍しく自省しながらふとツリーを見ると、その台座の下に見覚えのない小さな箱が置かれていることに気付いた。マヌケなカリストではあるが、自分が用意した物ではないことは疑う余地もない。

「なんだろ~?」

 ここで訝しがったりしないのがカリストの特性であるし、何よりカリストはサンタクロースの存在を頑なに(それこそツチノコの実在性と同じくらい)信じていた。

「もしかして……サンタさんからかなっ!?」

 カリストは小箱に飛び付き、その簡素なラッピングを解く。

 中には1枚のクリスマスカードと、カリストが常に身に付けているものと同じ黒いヘアバンドが入っているのだった。カリストは思わず歓声を上げる。

「ふわ……ヘアバンドだ~♪ スゴ~イ♪」

 カリストのヘアバンドは、カリストが「物心付いた時から」している物である。どこで手に入れた物なのか、会社の支給品なのかさえ不明なのだが、黒いビロードと銀糸で丁寧に創られたヘアバンドなのだ。このヘアバンドに対してカリストは原因不明の愛着を持っており、既製のヘアバンドには目もくれずに常に身に付けていたのであるが、実は近頃、さすがに傷んできていたため少し困っていたのである。

 そしてカリストはクリスマスカードを開いて、アッと息を飲んだ。

 そこには、アヴェ・マリアの祝詞が見覚えのある達筆なラテン語の筆記体で記されており、カリストへのメッセージの一文が添えられているのだった。


『佳いクリスマスを、そして佳い新年をお過ごし下さい』



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