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KallistoDreamProject  作者: LOV
過去篇:鎧袖一触、今でも一撃必殺
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第4話

 さて、いつまで待っても何の音沙汰もなく密室に監禁放置されているイオとカリストであったが、カリストの正確無比な「腹時計」に依れば21時を回っているようであった。忘れられている、あるいは放置されているのではないかという懸念以上に、イオとカリストは酷い空腹感と喉の渇きに苛まれている。


「とほほ……おなかペコペコ~」

「……理不尽よ……ロボットなのに……お腹が空くなんて」

 先にはカリストを窘めたイオであったが、何もすることのない状況では空腹を忘れようにも忘れられなく、さすがに弱音を吐き始めていた。死なないと判っていても、空腹感は容赦なく意識の中を跳梁する。ふたりは部屋の隅に寝転がって、ついには譫言のようにブツブツと呟き始める始末。

「……ソーセージマフィンが食べたい……バターとチーズたっぷりの蒸かしイモが食べたい……ミルクが飲みたい……」

「……アイスクリーム食べたいよぉ……プリン食べたいよぉ……クリームソーダ飲みたいよぉ……」

「……あんた、お菓子ばかりじゃない?」

「そだよ~♪」

 そしてカリストはムクリと起き上がって言う。

「ねぇねぇ♪ イ~オ~? コレってば、コレが試験なのかなっ?」

「はあ?」

 カリストの言っていることの真意が汲めずに小首を傾げるイオ。しかし、カリストは朗々とした声で説明する。

「こやって、ずうっとほっとかれても頑張れるか……ってのが試験かなっ? って」

「…………」

 少し考えてから唐突に跳ね起きるイオ。手を叩いて快哉の声を上げる。

「そうよ! きっとそう! こうやってパートナーと協調して励まし合って忍耐する試験なのよね!? ほら、昔の宇宙飛行士の訓練とかにもあったアレよ! あんた、意外と冴えてるわっ!?」

「うん♪ うん♪ きっとそだよっ!」

 そしてイオのお腹がグウと鳴った。

「……試験の内容はさておき、お腹が空いてることに変わりはないけど……」

「いっしょにがんばろ~?」

「……う、うん」

 ふたりの距離が少しずつ縮まっていく。イオもカリストもそうとは気付かないまま、少なくともイオは「カリストがパートナーで良かった」と、ココロの深い部分で感じ始めている。誰かが傍にいるということが、どれほど心強いことか。ましてやそれがカリストのように朗らかで和やかな人物なら尚更だ。


 唐突に壁の一部が音もなく小さく開口した。約12時間ぶりの変化である。それが何なのか考えるまでもなく、ふたりは声も出さずに開口部に飛び付く。

「あっ!」「ふわあ!」

 ふたりは同時に叫んだ。そこにはビスケットが2枚と水の入ったボトルが2本あったのだ。

「ひとつずつ、ってことよね?」

「う、うん♪」

 目をキラキラ輝かせながら手に取ると、イオは少しだけ躊躇う。

「……ビスケットはともかく、水は全部飲まない方がイイわよね? 飢えや乾きで死ぬことはないけど、水くらい残しておかないと何かあった時に気力が維持できなくなるかも」

「うん、お水は半分くらい残しとこっ?」

 そしてふたりは記憶にある中で人生最初にして最低の食事を摂った。

「それにしても……なによビスケット1枚って……せめてパンくらい出しなさいよね……」

「うん♪ でもオイシイねっ♪」

 モサモサと嬉しそうにビスケットを頬張るカリスト。

「おクチの中パッサパサ~♪」

「笑い事じゃないわよ……余計に水を消費するわ。気を付けなさいよ……もう……」

 何をさせても考えの浅いカリストに(とても有効とは思えなかったが)苦言を呈しながら、きっとこのコと一緒にゴハンを食べたら楽しいんだろうなあ……などと内心で思うイオ。ほんの12時間ばかりを一緒に過ごしただけなのに、こんなことを考えている自分が不思議だった。

 この試験が終わったら、どこに配属されて何をするんだろうか? その時もカリストと一緒に仕事ができるのだろうか? 良く判らないけどカリストの傍にいると嬉しい気持ちになるし、せっかく友だちになれたんだから、できれはずっと一緒に……。

「……うわわわわ! なに考えてるのよっ! そんなバカなっ!?」

 唐突に恥ずかしさが湧き上がり、思わず両手をバタバタさせながら叫ぶイオ。

「こ、これは違うの! そ、そういう意味じゃなくって!」

「??」

 カリストは不審なイオの挙動に首を傾げてから、微笑む。

「イ~オ~? お顔まっか~♪ カワイ~イ♪」

「ば、バカぁ! なに言ってるのよっ! そんなこと言われたら、私……じゃなくって! だから違うんだって!?」



 この瞬間、ふたりの関係は決定的となった。イオがカリストの一挙手一投足を気に掛け、自己撞着して恥し入り、イノセンスに茶化してくるカリストに腹を立てる……そんな今となっては当たり前の関係が、僅か12時間で築かれたのである。

 それは今となっては記憶にも残っていないイオとカリストが初めてココロを通い合わせ始めた瞬間だった。もしバイオロイドに運命や宿命のようなモノがあるとすれば、これこそがそうだったのかもしれない。


「ずっとこのお部屋でイオと一緒だったら楽しいだろねぇ♪」

「冗談じゃないわよ!? 何て拷問よっ!?」

「ご本とお菓子がたくさんあればガマンできるんだけどなぁ」

「……あ、あとギターと音楽端末があれば……耐えられなくもない……かな?」

「えへへ~♪ やっぱしイオも、わたしといっしょに閉じ込められるのイヤじゃないんだ~♪」

「なっ!? ち、ちがっ……!?」

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