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KallistoDreamProject  作者: LOV
過去篇:鎧袖一触、今でも一撃必殺
45/150

第1話

これは「KallistoDreamProject」過去編になります。

第3部ではありませんので悪しからずです。

 イオは明け方に書いた詩を破り捨ててベッドの上で悶絶していた。


 面と向かって告白できない自分に憤慨した結果、最も得意な分野である音楽的才能を前面に押し出そうと画策……つまり想いに曲を付けてカリストに披露しようと思ったまでは良かったが、結局は恥ずかしいことに何ら変わりはないのだ。

 同じ恥ずかしい思いをするなら「好き」の一言で終わる直接告白の方が遙かに判りやすいし手間も掛からない。いや、手間を掛けるのはまったく構わないのだが、むしろ婉曲すぎてカリストに真意が伝わらないような気がした。

『へえ~♪ イオってば、お歌もギターもじょうずいんだねぇ♪』……などと返されるに決まっている。

 なにより詩の内容が酷い。自分で書いておきながら、あまりの甘ったるさに虫酸がはしり寒気を覚えたほどだ。

「こっ、こんな寒気のする詩を目の前で誰かに披露されたら、私ならクラッカー花火エクスプロディーレンフォイアヴェルクを投げ付けてやるわよ……」

 しかし、この気持ちはウソ偽りのない真実の気持ち。エンケラティスという偽名を捨てた今、イオは何かを依り代にして気持ちを伝える術を持っていない。こんなことなら、エンケラティスでいるうちにエンケラティスとして告白すべきだったかも……などと考えていた。


 アンプに接続していないエレキギターブラッキーを漫然とチャカチャカ掻き鳴らしながら、イオはひたすらにカリストのことを考える。こんなことをしているからますますカリストのことがアタマから離れなくなってしまうのだ、と自制してもムリなハナシだ。

 時々イオは、いわゆる自己暗示のような物に罹っているのではないかと自分を訝しむこともあった。余りに際限なくカリストのことばかり考えているから、自分がカリストのことを愛しているのだと思い込んでいるのではないかと。

 あるいは、ヒヨコが孵化直後に初めて見た動く生き物を親だと思い込むという「刷り込みインプリンティング」のような現象なのではないかとも……なにせイオにとってカリストが「記憶にある限りの初めて接した同胞バイオロイド」なのだ。そして、それはカリストも同様なのである。

 しかし、この際、経緯など些末なことだった。何であろうと現にイオがカリストのことを誰よりも何よりも愛している事実に変わりはないのだから。


 古人が言うに、人は人生で1回だけ純粋な恋をすることが許されているという……それが「初恋」だとか。イオは生まれて初めて誰かを好きになった。生まれて初めて恋をした。100年の恋も必ずや冷める時がくると聞いてはいたが、純情なイオはカリストのことを世界が終わるまで愛し続けると、もう自分に決めていた。

 切なくて、苦しい。イオはベッドの上で枕に顔を埋めて強く抱きしめる。

 どうしてカリストのことが好きなんだろう?




 1年ばかり前のことである。

 長い時間をかけて設計され、まったく採算を度外視した途轍もない金額と技術とリソースを投入して開発されたバイオロイドの第1期生産分が、一斉にロールアウトした。その正確な総数は明かされていないが、10体ほどとされている。その中にカリストとイオが含まれていた。

 起動して間もないバイオロイドは白痴のように茫漠としているばかりで、システムと各入出力の整合が完了するまで何ら自主的な動作を行うことができない。そのため、それから数ヶ月の間は「生まれたばかりの赤ちゃん」よろしく、専属のアンドロイドなどに世話を焼いてもらいながら個々に養育されたのであった。

 養育期間が完了し、そこで1度、全ての記憶を抹消された。なので、誰かに養育してもらったなどということはカリストはもちろんイオも憶えていない。


 そのような経緯を経て記憶を消去され意識を失ったイオだったが、ふと気が付くと小部屋に立ち尽くしている自分に気付いた。まるで精神に失調を来した犯罪者を閉じ込めておくような、全面が白いクッション材で覆われた独居房のような小部屋である。壁面に埋め込まれた間接照明がボンヤリと部屋を照らしているが、見た限り何もない部屋だった。

 今までの記憶がないため自分が唐突に世界に顕在したように感じられたが、自身がバイオロイドというロボットであるということは理解しているため、それほど混乱はしなかった。ただ自分が全裸だというのには思いっきり面食らう。

「なっ!? ちょっ!?」

 イオは叫びながら慌ててムネの前でウデを交差してしゃがみ込み、誰にともなく喚き散らす。

「ふ、服っ! 布きれでもタオルでもイイから寄越しなさ……!?」

『XX48cz-EgVI-S』

 イオの叫びを遮るように、どこからともなく(たぶんスピーカからだろうが)無機質的な人工音声がイオの型式を呼び上げた。

「は、はい」

 しゃがみ込んだまま、それでも反射的に返事をするイオ。

『立ちなさい』

「は、恥ずかしからイヤっ!」

『では、そのまま聞きなさい……これからあなたの適正を判断するための試験を行います。試験結果の如何に応じ、今後の職務を割り振ります。なお試験中は常時リミッターが有効になるので、能力は大きく制限され、食欲や睡眠欲など、当初より搭載されていない排泄欲求以外は人間と同様に有効となります』

「試験?」

 完全無欠のバイオロイドとして創られているのに、何を試験するというのだろう。

『試験内容は追って通達します。また、試験はランダムで選定されたパートナーとペアで行います。以上』

「ちょ!? 服……!」

 イオが叫ぼうとすると唐突に壁の一部がスライドし、そこから布の束が転がり出る。広げてみれば、やはり精神に失調を来した病人が着るようなアタマから被るタイプの白無地のワンピースだった。イオはゲンナリしながらも素早く身に纏う。

 ようやく最低限の落ち着きを取り戻したイオは、壁に背を付いて座った。

「……そういえば“試験はペアで行う”って……」

『ただ今よりパートナーを移送します』

 まるでイオの独り言を聞いていたかのようなタイミングで人工音声のガイダンスが流れ、壁の一部が大きく開口した。慌てて駆け寄り覗き見ると、斜め上方へ続くダクトのようになっている。

「……なにこれ?」

 ダクトの中には照明など無いため先は見えない。イオが首を傾げていると、どこからともなく女のコの嬌声が聞こえてくるような気がした。

「この奥から……?」

 ダクトの中にアタマを突っ込み、上方を仰ぎ見る。確かに声がする。女のコの笑い声……そして何かが高速で滑るような音……。

「……こ、これは……!?」

 瞬間的に危険を察して後退ろうとしたイオだったが、それよりも早く何者かがダクトを猛烈な勢いで滑り落ちてきて、そのままイオ目がけて飛び出してきたのだった。



冒頭のイオのシーンは、時系列的に第1部と第2部の間ぐらいになります。

カリストらの生い立ち(?)が少し判明する物語になると思います。

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