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KallistoDreamProject  作者: LOV
その1:長閑な喫茶店の看板娘に関する事案
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第4話

 カリストは朗らかで愛想が良いし、人好きする性格の持ち主ではあったが、「施設」にいた時はもちろん、今の生活を始めてからも友達らしい友達はできなかった。

 学校に通っていないので出会いの機会が少なすぎるし、また、カリスト自身の趣味趣向が奇抜だったり幼すぎたりして、同世代の人たちと話題が噛み合いそうにないのだ。


 その点、エンケラティスは呆れたり小馬鹿にしつつもカリストの言う事を(それなりに)真面目に受け止め、話に付き合ってくれる。カリストの特殊な趣味……虫やカエルの観察、兵器模型や旧世紀の戦史、二輪車の改造、ツチノコ(?)、密造酒の仕込み(?)……そういった、余人からすれば充分に「くだらない」ような話題にもエンケラティスは積極的に対応しているのだが、場合によっては事前事後に下調べまでしてカリストの話に追従しようとしているらしい。文句を言いながらも、エンケラティスはエンケラティスなりにカリストの相手をするのが楽しいようであった。

『だ、だからって、べ、別にあんたのご機嫌取りしてるってワケじゃないのよっ!?』

 とは言え、他に目的があるとも真意があるともカリストには思えない。いつも話題を振ってくるのはエンケラティスの方なのだ。

『あんた、なぜか密造酒なんか造ってるけど、子供は呑んだらダメだからねっ!』

「わたしってば、お酒なんかぜんぜん呑めないよっ? ニオイ嗅いだだけでもフワフワしちゃうんだよねぇ」

『……じゃあ何のために造ってるのよ……』

 カリストは自作の蒸留器やリカーポットで酒を密造している。もっとも、ドイツでは酒類の自作は禁じられてはいないので密造という訳ではないのだが、そう呼んだ方が楽しそうだからという理由で、カリストは自ら密造酒と呼んでいるだけだ。

 もちろん自分で呑むためではなく単なる好奇心から始めた事だった。ワイン、ビール、シードル、ウイスキー、ウォトカ、日本酒、焼酎……何でも造ってみた。糖分さえあれば何でも酒にできるため、メロンソーダ酒や砂糖水酒も造ってみた。

 できあがったものは酒好きである喫茶店のオーナーに呑んでもらって、その意見を参考にして密造の腕を磨いているのだ(砂糖水酒は非常に不味かったらしい)。ノホホンとしているカリストではあるが、そういう事には実に器用である。

「今はワイン造ってるんだよね~♪」

『ふ~ん……ウチのディオネが聞いたら喜びそ……って……いま私なんか言った?』

「ふぇ? ウチの誰々が~ とかって言ったのかなっ?」

『あ~それ忘れて。ここには私しかいない。あんたが知ってる“施設”の人は私だけ』

「ちゃあんと聞いてなかったから、もぉ忘れちゃったよっ♪」

 どうやら「施設」にはエンケラティスの他にもディオネという名前の、お酒の好きな人がいるらしい。お酒を呑めるという事は、まあ、適当な年齢なのだろう。

 だが、実際にカリストは翌日には綺麗サッパリ忘れてしまったのだった。


 例によって昼頃に起きたカリストは、昨晩から手がけ始めた仮組み途中のプラモデルを安全な場所に片付けると、買い物に出かける事にした。食べ物を買うのだ。

 食べ物、と言ってもカリストの場合ほとんどがお菓子である。料理も得意で何でもよく食べるカリストだが、コレといった主食を摂る事は少なく、食事の大半はスナック菓子をダラダラ食べ続ける事で済ませるという困った習性があった。そういう体質なのか幸運にも太ったりニキビが出たりはしないのだが、育ち盛りの娘の食生活としては少々不健康である。

「そなことゆわれたって、お菓子だあ~い好きなんだも、しかたないよねっ?」

 まったく仕方なくない。エンケラティスも事ある毎に窘めてはみたが、なにせ言葉だけで言って聞かせても効果は薄い。

 結局その日、カリストは電子レンジで加熱するタイプの冷凍フライドポテトの大袋、チョコレートケーキ、ウエファース、アイスクリーム、メロンソーダなどをゴッソリ買い込んできて、それらをプラモデルを作りながら食べ続けたのだった。


『数字にしたら異常な摂取カロリーよね?』

「んう~? 5000キロカロリーくらいかなっ?」

『うーん、それじゃカロストじゃない』

(注:ドイツ語でカロリーのスペルはKalorie、カリストのスペルはkallistoである)

「でも、ずっと体重かわんないよっ?」

『……そういう問題じゃないと思うんだけどな~』

 年頃のふたりの話題は、やはり食べ物に関する事が多くなる。

『お菓子で満腹にするなんて、なんかもったいなくない? 私は普通に三食キッチリ食べた方が満足できるから、あんたの食生活は理解できないわ』

「んう。でもねぇ、わたし、普通のゴハンも大好きだよ~? おイモとかパスタとか」

『……あんた、ホントによく食べるわ……』

 MTのスピーカ越しに大きな溜息が聞こえたが、カリストは気にもしない。

「あ、そゆえば……前から訊きたかったんだケド……エンケラティスってば、どんな髪型してるのかなっ? それもヒミツ~?」

『ん……そんなの秘密にする意味がないわよ……私の髪型? その……なんて言うか……いわゆる姫カットっていうのかな? ストレートロングの前髪を厚めに揃えた感じで……なによ? イメージと合わない?』

「そなことないよ~♪ 女のコっぽくてカワイイねぇ♪」

『女のコっぽいって、私、元かられっきとした女のコなんだけど……。私は髪色がくすんだ亜麻色だから、まっさらなあんたのプラチナブロンドが少し羨ましいかも』

「へえ~♪ 亜麻色の髪の乙女だねぇ♪ きっとカワイイんだろねぇ♪」

『なっ!? ほ、褒めたって何も出ないわよっ! じゃあオヤスミ!』

「えへへ~♪ オヤスミなさ~い♪」


 エンケラティスとの会話を終え、時計を見ればもう夜の10時を過ぎている。

 カリストは寝支度を済ませると、ベッドの上に腰掛けMTを起動して今日1日のニュースをチェックする。世界は今日も平和だったらしく、落雷で牛舎が燃えたとか、カリストが知らないような国の誰それが転んで死んでしまったとか、まるで町内会の回覧板のような牧歌的なニュースばかりだった。

 そんなニュースに紛れて、カリストの興味を惹く記事が技術面に掲載されていた。

「へえ~……新しいメイドロボットちゃんが発売されるんだ~♪」

 いくら科学技術が進歩したとは言え、人間と見分けが付かない外見を持ち、人間のように考え振る舞うロボットの開発は難渋を窮めているらしい。動作や見た目だけならば何とかなったが、疑似感情や自立思考を持たせるとなると、人間大のボディに収まりきらないとの事だった。

 このメイドロボットも精巧に出来ているとは言え、とても人間のように自力で思考して動作するレベルにまでは達していない。そもそもカリストは気付いていないが、明らかに特定の使用目的……主に男性向け……を企図して開発されたモノであろう。

「こんなに可愛いメイドロボットちゃんが増えちゃったら、わたし、喫茶店クビになっちゃうかもねぇ」

 確かに慢性的な高失業率の影にはロボットの存在があった。危険な作業や不衛生な作業はもちろん、事務、製造、医療、公共サーヴィス……ロボットは文句も言わずに何でもこなした。最近では性風俗業界にまで公然と投入されつつあるという。


「んう~、なんか他にすること探さないとダメかなぁ」

 カリストは時々、自分でも良く判らなくなる。自分の在り方や過去未来に不安はない。何度も言うように、そういうことを憂うような性格ではないのだ。

 しかし漠然とだが「何かしたい」と考える事はあった。

 たとえば自分には何ができるだろうか?

 このまま喫茶店でバイトをしながらのんきに暮らしていくのも悪くないだろうけど、世界はずっともっと広い。何か自分にしかできないような事があるような気がするのだ。

「……思春期だもんね……いろいろ考えちゃうよねぇ……」

 カリストも悩む事が時にはあるのだが、それは決して誰にも、エンケラティスにも相談する事はない。そういうのは自分で考える事だと思っているのだ。たまには自分の脳味噌を使わないと腐ってしまう。

「……まぁイイや……そのうちきっと何かあるよねっ♪」

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