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KallistoDreamProject  作者: LOV
その2:ブランデンブルク門、及び近所の池での些細な事件
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第12話

 手の甲で顔を擦りながらイオはマンションの外に出る。ヴァレンタインも黙って追従しているが、懐から取り出した小型のMTを何やら操作していた。

「そんなのでカリストの居場所が調べられるっていうの!?」

「あ、いや。直接には判らないけど、オレは他に通信手段が無いんでね」

「あのコの行きそうな場所といったら……」

 喫茶店か、ショッピングモールか、郊外か……行動に一貫性のないカリストの追跡は容易ではないようにイオには思えたが、懸命に思案を巡らせる。

 と、MTを操作していたヴァレンタインがボソッと声を上げた。

「……あ」

「どうしたっていうのよっ!? カリストの居場所が判ったのっ!?」

「……通信が遮断された。と言うか、リモートでMTを壊された。復旧には10分ばかりかかる」

「つ、使えないわねっ!? 変態のくせにっ!」

 事態は急を要するというのに、やはりどこかトボケた口調のヴァレンタインに、思わず苦笑いして怒鳴るイオ。だが、和んでいる場合ではない。いよいよ自力と直感でカリストを探すより他なくなってしまったのだ。

「まだ猶予はあるのっ!?」

「そろそろ拙い。MTが壊されたってことは、“あのコ”にオレらの動きを気取られたってことだし、たぶん、もうすぐそこまで来ている」

 ヴァレンタインの婉曲な言い回しが少し気にはなったが、委細はともかく、カリストの身に何らかの危険が迫っていることは間違いない。小さい街だとはいえ、改造バイクを手に入れたカリストの行動半径は非常に広くなった上に、元から行動原理もチンプンカンプンなのだ。イオはムネの前で手を組んで小さく呻いた。

「あのコの行き先なんて、その日の風向きで決まるようなモノなのよっ……!?」

 つくづく気持ちを行き違わせてしまったことを悔いるイオ。いつものように連絡を取り合っていれば、素直なカリストは明日は何をするとかどこに行くとか、必ず知らせてくれるのだ。その途を断ったのは他ならぬイオ自身なのだ。

 この2日間、何かとカリストのことを考えながら内省し、何か判ったような気がしていた自分がバカのように思えてきた。結局はカリストの行き先ひとつ満足に判らないのだ。目に見えるモノが全てではない……が、目に見えないモノをどうやって理解しろというのか。

「カリスト……! ゴメンね……カリスト! 私、あんたのこと、何にも判らない!」

 失意を感じ、思わず声を詰まらせるイオ。だが、それを見たヴァレンタインは唐突に声を荒げた。

「何を言ってるんだ! カリストのことが大切なんだろう?」

「そ、そうだけど……そんな気持ちだけで、あのコの居場所なんか判らないし、護ることも……」

 まさかヴァレンタインに怒鳴られるとは思ってもいなかったイオは、クビを竦めて項垂れる。イオが泣くのではないかと思ったヴァレンタインは途端に声を和らげて続けた。

「……少しぐらいのムリでも、強く願えば通じることもあるよ。現に君はカリストを連れ去ろうとしたオレを翻意させたじゃないか。あの時、オレは君の誠意とカリストを想う気持ちに打たれたんだよ」

「ヴァレンタイン……」

「いいかい? 君とカリストは同じコンセプト、同じラインで創られた双子も同然だろう? それに何より誰よりもカリストと気持ちを通わせている関係じゃないか。誰でもない、君だけがカリストに一番近い存在なんだ。たとえ姿が見えなくても、いつでも互いを感じているはずなんだ」

 そしてヴァレンタインは自分のバイクに跨り、続ける。

「バイオロイドだから、ロボットだからといって、人間が持ってるような直感や霊感みたいなモノを持ち得ないとは言えない。それくらい世の中は不思議にできてると思うよ。さあ行こう、君にならカリストの居場所が判る……君にしか判らない」



 その頃、当のカリストはポツダム近郊の森の中にある小さな湖沼の、そのほとりに自生している芝草の上で俯せになって倒れていた。傍目から見ればそう見えた。実際には寝転がっているだけだった。

 とは言え、虫やカエルを観察しているわけではない。カリストはカリストなりに落ち込んで、こうやって独りでイロイロと反省しているのだ。

「……やっぱしイオに嫌われちゃったのかなっ……仲直りしたいなぁ……」

 正直なところ、カリストは謝る必要があるなら(あるいは必要が無くても)、謝って済む問題なら幾らでも素直に謝ることができる。照れくさいとか恥ずかしいとか負けるのがイヤだとか、そういう気持ちはない。ただカリストを躊躇わせているのはイオの気持ちだ。イオに嫌われてしまったかもしれないという懸念だけがカリストを責め苛むのだ。

 何があっても、私はあんたの味方だし、見限ったり裏切ったりしない……かつてイオはそう言った。その言葉を今でもカリストは信じている。今もカリストはイオを強く信じていた。だからこそ恐ろしい……もし、拒絶され、許されることがなかったら、どうすれば良いのだろう? 世界で一番好きな人に想いが届かなかったら、どうすれば良いのだろう?

「……で、でも、イオと仲直りしたいよっ……!」

 迷ってみたところでカリストの思考の行き着く先はひとつしかない。こんなところで呻いているのをヤメにして、今すぐに帰宅してイオに連絡してみよう、そう思ってムクリと起き上がって振り返って見れば、そこには見慣れないひとりのメイド服を着た少女が立っているのだった。

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