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KallistoDreamProject  作者: LOV
その2:ブランデンブルク門、及び近所の池での些細な事件
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第3話

 カリストは周囲の観光客への配慮からバイクを徐行モードに切り替えて、ブランデンブルク門を仰ぎ見るようにしてパリ広場に進入する。夕方の斜陽を浴びながら、高さ26メートル、幅65.5メートルのブランデンブルク門は、曰く言い難い威容を示している。

 門の上部では、四頭立て戦車クアドリガを操りながら栄光の鉄十字錫杖を高く掲げる勝利の女神ウィクトーリアが、ドイツ民族の誉れを長しえに謳っているのだ。

「……はぁ……♪」

 カリストは路肩にバイクを停め、門を見上げながら思わず溜息を漏らす。


 バイクを降りて門の内側へ入るカリスト。何度も修復や補修がされているとは言え、そこに感じられるのは4世紀に渡る近代ドイツの記憶そのもの。カリストは門の内に安置されているアテナ像ミネルウァの台座に指を伸ばし触れ、それから頬を寄せる。

 1791年に落成して以来、約350年間、今日までのドイツをずっと見守り続けてきたブランデンブルク門。フリードリヒ2世、ナポレオン、ヒットラー、多くの戦争や悲劇、ベルリン東西分断と再統一、21世紀半ば頃に発生した軍事クーデターや市民暴動(ベルリン動乱)……それらを、ただ黙って見守ってきたのだ。

「わたしってば……ドイツに生まれて、とってもとってもシアワセ~♪」

 どういうことのなかカリスト自身にも良く判らなかったが、ムネの奥から熱く込み上げるものがある。カリストはウンウン呻りながら、ついに嬉し泣きを始めてしまった。

「ずっとここにあって、これからもずっとずっと建ってるよっ♪ あと100年も、200年も、ずっとずっとベルリンとドイツと世界を見てるんだねぇ♪」

 昔からベルリン市民の心の拠り所と称されているブランデンブルク門だが、さすがにカリストの如く感激を露わにする者は少ない。観光客はカリストとアテナ像を遠巻きにして、まるで見せ物のように注視している。中には写真やムービー撮影をする者までいた。

 そんな周囲の好奇の眼差しをよそにカリストの気持ちはいよいよ高揚し、思わず不穏当な言葉が。

万歳ハイル! 偉大なグロースドイツドイッチュ第三帝ダスドリッテライ……」

「ちょ、ちょっと! バカっ! 何てこと言うのよっ!?」

 何者かが人垣を掻き分けてカリストに取り付き言葉を遮る。

「警察呼ばれたらどうするのよっ!?」

「ふぇ……?」

 見れば怒り顔のイオであった。いつものような制服姿である。

「イ~オ~♪」

 カリストは喜びの声を上げると、アテナ像そっちのけで今度はイオに抱き縋るのだった。



「あんたって、ホント、アタマの中が水浸しねっ!?」

「んう……ゴメンなさい……」

 数分後、カリストはパリ広場にあるオープンテラスのカフェで、イオに説教されていた。

「そうでなくっても最近は失業問題とかで鬱憤の溜まってきた連中が多いから、政府も警察も反社会的な集会や人物の取り締まりを強化してるのよ? ……まぁ会社から圧力を掛ければ簡単に揉み消せるけど、あんたみたいな、そ、その……かかかカワイイ女のコが留置所とかに入れられてるのなんてシュールすぎるわよっ!」

「……ゴメンなさい……とほほ」

 さすがのカリストも深く反省しているものらしい。

「でも、どしてわたしがブランデンブルク門にいるの、わかったのかなっ?」

「詳しい場所は教えられないけど、ここは会社の近所なのっ! それにアチコチにイロイロなモノを設置してるし……実はあんたが今日の昼頃からベルリンに来てるってのは会社側は把握してたみたいよ? 私は別件で外してて、後から知ったんだけど」

 ぼかしたような説明するイオだが、この会話そのものも会社に筒抜けなのかもしれない。

「へえ~♪ そなんだ~♪ ……そいじゃ、イオ、わたしに会いに来てくれたんだ~♪」

「なっ!? ち、違うわよっ! 会社の帰りに、そ、その、ブランデンブルク門の下を偶然に通っただけよっ!? 偶然、偶然なのっ!」

 顔を真っ赤にして捲し立てるイオだが、カリストがブランデンブルク門にいるということを元から知っていたのだから何とも締まりがない。だが、そんな細かいことは気にしないカリストはテレテレと嬉しそうに言う。

「きっと、イオとわたしが逢えるよに、ブランデンブルク門が引き合わせてくれたんだねぇ♪」

「なっ!? だ、だからそういうリアクションに困ること言わないのっ!?」


 ふたりは1時間ばかりをカフェで過ごし、夕食を兼ねてケーキやらパスタやらを食べた。

「……あ、あのさ……で、今日は……ベルリンに、と、泊まってくのかな……?」

「んう~?」

 モグモグしながら顔を上げるカリスト。イオはフォークでパスタの中のオリーブを突っつきながら続ける。

「も、もし、良かったら……そ、その、会社の系列の……ホホホホテルとか、取れるんだけど……」

「へえ~♪ 会社のホテルなんかあるんだ~?」

 興味深げに話に乗ってくるカリストだったが、もうイオは例によってグワングワンだ。

「わ、若いカップルにも人気のある、ホホホホテルなんだけど、ススススイートしか空いてないし、もももしあんたが泊まるっていうなら、ももももったいないから……わ、わた、私も……」

「とってもとっても楽しそだけど、今日は帰るよ~♪」

「ええっ!? もう予やk……」

「あしたアルバイトの日だし、ベルリンにお泊まりするのは、また今度にするねっ?」

 なぜか傷心風のイオにカリストはニコニコしながら告げる。

「今度はイオのお休みの日に来るから、朝から夜まで、ずっとずっといっしょにいよねっ♪」

「う、うん……うん! ベルリンなら私の庭みたいなもんだから、会社以外ならどこにだって連れて行ってあげる!」



『本文中にもあるように、ブランデンブルク門はドイツ、特にベルリンの象徴ね!』

「うん♪ 東西ドイツ時代には“東側”にあったけど、東ドイツも西ベルリン市民に配慮して、ブランデンブルク門の前だけ“ベルリンの壁”を低くしてくれたんだよねぇ♪」

『お陰で東西ドイツ時代も、ブランデンブルク門は市民も観光客も仰ぎ見ることができたのよね!』

「門のところだけ東ドイツの警備も甘くて、写真撮影とかも許してくれたんだって~♪」

『ちょっとイイ話、ね』

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