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KallistoDreamProject  作者: LOV
その1:長閑な喫茶店の看板娘に関する事案
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第20話

 のんき者でポジティヴシンカーのカリストのおかげで、イオの個人的懸案は容易に解決された。

 だが、もっと重大な幾つかのテーマは手付かずのままである。そして、そちらの方が余程深刻な内容なのだ。


 しきりに抱き付きたがるカリストを宥めつつ、イオは深刻そうな顔で告げる。

「その……まだあんたの昨日の質問には答えてないわ……それにメアリの一件についても話さなきゃいけないわね」

 それを聞いたカリストは一気にテンションが下がった。

「そだ……メアリ死んじゃったのっ……!?」

「ロボットの可動不動を生き死にと表現するなら……メアリは死んでしまったわ……修復すれば再稼働できるけど、あんたとの記憶は失われてる。記憶デバイスを搭載する上胸部を撃たれたから……」

「んう……わたし……メアリがなんかさせられてるの知ってたのに……」

「可哀想だけど、もう仕方がないわ。あのコは自分の意志であんたを渡さないって判断したんだし、あんたはメアリに感謝こそすれ申し訳なく思う必要はないわ。それはメアリに失礼なことだと思う」

「んう……うん……ありがとメアリ」

 カリストは泣きそうになりながら、顔を擦っている。

「そのメアリが何をしようとしてたのか……それを説明する前に、あんた自身のことと“施設”……アストラル技研について話さないとダメね」

 そこまで言うと、イオはカリストの隣に座り直した。

「カリスト、私の手を握って」

「う、うん……」

 イオの側からこういう提案があるとは思ってもいなかったカリストが少し驚きながら、その手を握る……そのカリストの手にさらにイオが手を重ねた。

 イオはカリストの瞳を真っ直ぐに見つめながら、静かに告げる。

「……何があっても、私はあんたの味方だし、見限ったり裏切ったりしない。それだけは信じてほしい」

「うん……えへへ~♪」

 てれてれと嬉しそうに恥ずかしそうに笑うカリスト。しかしイオの表情は崩れない。

「カリスト……あんたも、私も、血と肉を分けた姉妹なの」

「ふぇ? ホント~!? イオとわたし、どっちがおネェちゃんなのかなっ?」

 嬉しそうに驚くカリストだったが、イオの表情は硬い。

「そう……姉妹……姉妹機……同じ工廠で創られたロボット、アンドロイドなのよ」

「そなことど~でもイイ……ふぇ???」

 カリストの目が点になる。しばらく意味を計りかねていたようだったが、思い直したように言う。

「だ、だって……わたしってばアタマ良くないよっ? 運動もニガテだよっ? ゴハン食べないとおなか空くし、夜もすぐ眠くなっちゃうし……」

「そういう風にプログラムされてるのよ……じゃあ訊くけど、あんたトイレ行く?」

「おトイレ~? もっちろん……い、行ったことないよっ!?」

 人間は排泄行為をしなくてはならないことを知っているのに、カリスト自身はトイレに行ったこともないし、それを疑問に思うことすらなかったことに気付かされ愕然とする。

「それも、それが当然だって思いこむようにプログラミングされてるだけなのよ」

「で、でもカエルちゃんが大好きなロボットなんて聞いたことないよっ? それに、ほら、だってロボットとか、目で見た映像にデータとかオンスクリーンでディスプレイされるけど、そんなの見えないし……」

 カリストは自分の目の前で手を振って、もどかしそうに説明する。

「カエルが大好きなロボットなら私の目の前に実在するわ」

 そう言ってイオはカリストの耳に手を当てる。そしてカリストが付けているピアスに触れた。

「ビックリしないでね」

 そう言うや、そのピアスを摘み、そのまま引っ張ったのだ。カリストが痛いと思うよりも早く、どこに収納されていたのかピアスヘッドと連なってケーブルが延引された。

「これ、コネクタとケーブル……この時点であんたは生身の人間だとは思えないでしょ?」

「んう……」

「言うより見る方が早いわよね……」

 そう言ってイオは所持していたMTとカリストのピアスコネクタを接続し、何やらキーを叩いた。次の瞬間、カリストの視界は大量の文字列と数列、様々な映像で溢れかえった。

「ふわあ!?」

 思わず身を竦めて顔を覆うカリスト。だが目を閉じてもそれらが消えることはない。そして猛烈な勢いで表示されては消えていくテキストや数字を、何ら意識することなく理解している自分にカリストは気付いた。

「判る? 判ると思うわ……今までは“見えないと思っている”ようにしていたけど、あんたはずっとそこに表示されるテキストや数字を利用して生活していたのよ?」

 イオに説明され、ようやくカリストは自分のことが判ってきた。妙に勘が鋭かったり、目視だけで長さや量を計ることができるのも、全部こういうことだったのだ。

「わたし……ロボットだったからなんだぁ……」

「私たちはアンドロイドとしては高性能すぎて時代を先行しすぎてる。普通のアンドロイドとは一線を画しているバイオロイドバイオニクスアンドロイドという新しい規格のロボットなの。バイオニクスっていうのは“人間のような”って意味。だから、普段は能力の大半に制限リミッタが掛かってるのよ……人間と見分けが付かないように」

 そしてイオは再びカリストの手を握り、続ける。

「そう……“施設”というのはアストラル技研という会社のベルリンにある工廠のこと。私たちはそこで創られた。だから両親もいないし、昔の記憶が無い。歳もとらないし成長もしない。人間のように生きることはできるけど、人間じゃない」

「んう……うん……まだイロイロ判んないとこもあるけど、だいたい判ったよっ……」

 意外とカリストは冷静に現実を受け容れたように見えた。元から前向きな性格というのもあるからだろうが、これも「そういうふうにプログラミングされている」からかもしれない。

「大丈夫? ショックだった?」

「……うん♪ だいじょぶ~♪ だってイオとおんなしだも……イオといっしょなら、だいじょぶだよっ♪」

「そう、良かった……」

 イオは最も気の重い事実を伝えきることができ、安堵のため息をつく。

「……でもねぇ」

「なに?」

「……てことは、わたしってば、おムネ、おっきくなんないんだ……それだけザンネンかも」

 そう言って、カリストはニッコリ笑うのだった。

「イオ♪ イ~オ♪ ずっといっしょ~♪」

「なっ!? ば、ばかっ! 人が見てるっ!!」

「第1部は、もちょっとだけ続くんじゃ♪」

「……なによそれ……」

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