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KallistoDreamProject  作者: LOV
その1:長閑な喫茶店の看板娘に関する事案
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第15話

 いつもなら日中でも通信に応じてくれるエンケラティスなのだが、今日に限っては出てくれない……とうとう留守録モードに接続されてしまった。

『こちらはアストラル技研ベルリン工廠こうしょう・技術統括部渉外対策室の通信端末です。ただいま所用のために席を外しており通信に応じることができません……』

 それは確かにエンケラティスの声だった。今まで聞いたこともないような真面目で堅苦しい口調だったが、聞き間違えようもないエンケラティスの声によるメッセージだった。

「ふぇ……?」

『……ご用の方はMTのメニューからメッセージを残しておいてください。急用の場合は、このままお待ちいただくと自動的に代表端末に接続されますので……』

 カリストは無言で通信を切断する。とうとう触れてはいけないものに触れてしまったような気がした。滅多なことでは後悔しないカリストだったが、考えなしにエンケラティスに通信してしまったことを少し悔やむ。

「アストラルギケン……? ベルリンコウショウ……?」

 カリストは両手で頬を押さえて、ベッドの上に転がり込む。まったく聞きなれない単語だ。これが「施設」の正体なのだろうか。それにしては余りにも工業的・科学的な響きがある……。

「そ、そだ……MTで調べてみよ」

 カリストは気を取り直してMTに向き直ると、キーワード検索をしてみる……が、それらしい情報は何ひとつ引っかからない。範囲を国外にまで広げ、200年前からのデータベースを参照し、幾つかの外国語にまで置き換えても検索してみたが……しかし、せいぜい引っかかったのは21世紀の初頭にネット上の投稿サイトに寄せられた素人作家の愚にも付かないSF小説だけ。まったく手応えが感じられず、とうとう諦めるよりほかなくなってしまった。

 自分の出自、それを秘して語ろうとしないエンケラティス、「施設」、アストラル技研、メアリに関する不穏当な動き……何やら急激にカリストは面倒臭いことに晒され始めているようだ。

 しかし、カリストは何があってもカリストである。しばらくは神妙そうな顔をして考えてはいたものの、まったくラチが明かないため容易に吹っ切れてしまった。

「なんだかよく判んないけど、まぁイイや♪ 夜になったら、もっかいエンケラティスに相談してみよっと♪」



 その夜、エンケラティスから連絡があった。

『……今日、日中に連絡くれたみたいね? その……ちょっと寝不足で寝てた……ごめん』

「えへへ~♪ 昨日の夜、あんまし寝れなかったのかなっ?」

『なに言ってるのよっ!? ぜんっ……ぜん寝れなかったわよっ! だ、誰かさんのせいで……』

「? ……あ、えとねぇ、その……何からオハナシしたらイイんだろ……」

『…………』

 エンケラティスは沈黙している。

「んと、そいじゃ……えとねぇ、喫茶店で働いてるロボットのメアリなんだけど……」

 まずカリストはメアリに関する不安を事細かに説明した。普段はカリストの言うことなど歯牙にもかけず一蹴する風のエンケラティスだが、真剣なカリストの様子に異質なものを感じたらしく、独り言を言っては独り合点している。

『うーん……彼女はCNS製だったわよね? やっぱりそうかな……そんな気はしてたんだけど、この前も少し……』

「? ……なんか良くわかんない……」

『ん、まあ、そっちは任せといて。ウチで調べてみる……あんたもたまには世の中の役に立たちそうなこともあるのね』

「えへへ~♪」

 微妙な言い回しであったが、エンケラティスに褒められて素直に喜ぶカリスト。

『……あの、ねえ? も、もうひとつ訊きたいこと、あるんじゃない?』

「んう……そだっけ……」

 カリストは何も悪いことをしていないのに、考えただけでムネが潰れそうになる。エンケラティスの気を煩わせたり、訊かれたくないようなことを訊くのが心苦しい。だが、事ここに至っては、もう中途半端にしておく方が弊害が多いだろう。エンケラティスも判ってくれるはずだ。

「エンケラティス……怒ったりしないよねっ?」

『怒ったりしないわ。呆れることはあっても、あんたに腹を立てるようなことは……絶対にないわ……たぶん』

 しかし、怒ろうが怒るまいが、さすがのカリストもこればかりは訊かなくてはならないと確信していた。いつものようにウヤムヤにして良いという問題ではないのだ。

「えと、その、ねぇ、エンケラティス……アストラル技研って、なあに? “施設”のことなのかなっ? わたし、イロイロ調べたんだけど、なあんにも判んなかったよっ……?」

『うん……そうよね、やっぱり気になるわよね。フツーは気になるに決まってる』

 やっぱり、というような口調で言葉を継ぐエンケラティス。カリストがそうであるように、エンケラティスも真実を語るのは心苦しいようであった。

『……その……あんたにも言ってたけど、今まで故意に隠してたからね……。あんたに知られないようにすることが大前提だったから。あんたは人並み外れてオヒトヨシだから、秘密にされてるのを知ってて、私に訊かないようにしてくたし……』

 エンケラティスの声は、それほど落ち沈んではいない。むしろカリストを気遣い、護るような響きが強かった。

『判ったわ、全部、私の知ってることは全部話すわ。でも、せっかくだから、そ、その……直接に会って話がしたい。ほ、他にも謝りたいこととかあるし……とても個人的なことだけど……』

「ふぇ? エンケラティスと会えるのかなっ!?」

『そうね、明日、喫茶店で昼の2時に待ってて。そこで話しをするわ……ただ……』

「やた~♪ エンケラティスに会えるよっ♪ エンケラティスだあい好きっ♪」

『あんた喜んでるの?』

「うん♪ エンケラティスと会えるんだよっ? とってもとってもウレシイ……♪」

 カリストは顔を真っ赤にして、瞳を潤ませてさえいる。なんだか他のことはどうでもいいような気にすらなってしまったのだった。

『そろそろ核心に迫ってきたわね』

「楽しみだねぇ♪」

『あんたのその底抜けに楽観的というか、アタマの悪そうな感じは何なのよ?』

「明日は明日の風が吹くよっ♪」

『そう言って野垂れ死んだ人も多いらしいけど……』

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