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KallistoDreamProject  作者: LOV
その1:長閑な喫茶店の看板娘に関する事案
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第14話

「……結局……一睡もできなかった……」

 イオは目の下にクマを作って朝を迎えた。そんなイオの気持ちも知らず、カリストはのんきにグウグウ眠り続けている。

「当の原因は気楽なもんね……」

 ソッとカリストの寝顔を覗き込む。容赦なくヨダレを垂らしながら眠るカリストの寝顔は何度見てもマヌケだった。

「……今なら何をしても……」

 ジリジリと顔を近付けていく……が、すぐに思い留まった。

「……こっ、こんなのは卑怯よね、フェアじゃないわ……ヨダレまみれだし」

 苦笑いしてイオはベッドから這い出る。

「……でもまた次があるわよね……たぶん」



 カリストが目覚めたのは昼過ぎだった。すでにイオの姿はない。

「……んう……イオ、帰っちゃったのかなっ?」

 カリストはイオが使った枕を引き寄せて、抱きしめて顔を埋める。

「イ~オ~♪ えへへ、いいニオイがするよっ♪」

 MTにはイオからのメッセージが残されでいた。

『……カリスト、そ、その、昨日は、とっても楽しかった。あ、あ、ありがとう。あっ、あのその、もし良かったら、ま、また……お泊りさせてほしくないことも……なくもなくないかも……。か、勝手に帰るわね。じゃあまた!』

「……えへへ~♪ イ~オ♪ だあい好き……♪」

 カリストは幸せそうな笑顔を浮かべると、再び枕に顔を埋めてベッドの上を転がり回った。



 身だしなみを整えて、カリストは行き付けの廃材屋に顔を出してバイク用のラジエータポンプを貰ったあと、喫茶店の近所の雑木林の中にある小沼でカエルを観察して時間を過ごす。

 このカエルというのはカリストにとって世界の不思議のひとつだった。

 水が好きなカエルもいるし、嫌いなカエルもいる。よく跳ぶカエルも、そうでないカエルもいる。ツルッとしてたり、ゴツゴツしてたり、色や大きさも様々で種類も豊富、だけどただの「カエル」で済まされてしまうという便利(?)さも魅力だった……なによりカエルはカラダが冷たくって、おシリが尖っていて可愛くて仕方がない。

「どしてカエルちゃんってば、おシリとんがってるんだろ~♪」

 カリストは次に生まれ変わるならカエルか小鳥になりたいとさえ思っていた。

「……はぁ……♪」

 葉っぱの上に張り付いているアマガエルを眺めて、ひとり悦に浸るカリスト。

「世界中がカエルちゃんだったら、もっと平和な世の中になるんだろなぁ♪」

 案外とそんなものかもしれない。


 その時、カリストは天啓のように雑木林の向こうに何者かの気配を感じた。

「なんだろっ? ヘンな感じがするよ?」

 カリストはカエルの観察を切り上げ、ポンプを手にテケテケと林の外へ向かった……ちょうど林と道路の切れ目あたりの目立たない場所に数人の人影が見える。予想外なことに、喫茶店の近くではあったが、その中にメアリの姿もあった。

「あ、メアリだ~♪ メア……」

 声をかけようとしたが思わず踏み止まる。どうも様子がおかしい。それは確かに喫茶店のメイド服を着たメアリだったが、彼女を囲むようにしてスーツ姿の男が3人ばかり立っており、何かメアリと会話……というか一方的に話しかけているのであった。

「……どしたんだろっ……?」

 カリストは木陰に身を隠して様子を伺う。風向きが良かったのか、途切れ途切れながら会話の内容が聞き取れた。

「……慎重に……頃合を……奪取……」

「……警戒が……向こうも……注意……」

「場合に……破壊……回収し……」

 ほとんど意味が通らないが、あまり好ましい内容でないということはカリストにも理解できた。メアリを囲む男たちの様子も、どことなく怪しげな感じがする……たとえばテロリストとか反政府活動家とか、そういう非合法な手合いの気配がある。メアリは無言で頷いている。

 最後に男たちはメアリにヘッドマウント型のインタフェイスを装着させ、所持してきた工業用の大型MTと接続し何らかのデータのやりとりをして去っていった。

「……な、なんだろっ……? メアリだいじょぶかなっ? どしたのかなっ……?」

 カリストは混乱してしばらくオロオロしていたが、そうこうしているうちにメアリも喫茶店の方向へ去ってしまっていた。

「なんかダッシュとかハカイとか、ちょとおっかなそなこと言ってたよね……?」

 クチを「への字」にして少し悩むカリスト。今から喫茶店に行ってメアリに問い質すべきか否か……ただ、メアリはロボットなので、そのように命令されていれば絶対にクチを割ることはしないだろうということはカリストにも判っていた。

 だからと言って看過するのも心苦しい……というか、会話の内容からして軽々に片付けられるようなことだとも思えない。明らかに自分の身にのみ降りかかると判っている災難なら平気で見過ごすマヌケなカリストではあったが、これが何か大掛かりな犯罪行為や違法行為だとしたら、ましてや大規模に被害を及ぼすような何かだとしたら、これはさすがに放ってはおけないだろう。

 カリストなりに熟慮した末、いちおう喫茶店に立ち寄り「カマ」を掛けてみることにした。


「おう、カリストか。どうした? 血相を変えて」

 のんきなカリストが気を揉むほどダラけた態度で出迎えてくれるオーナー。ちょうどメアリは接客しているところだったが、カリストが来たのに気付くと軽く会釈を返した。

「ま、まいすた……ちょと……」

「な、なんだ? 俺は女同士の恋愛指南はできないぞ?」

 カリストは惚けたことを言っているオーナーをカウンタの影に引っ張りこむと、声を潜め潜め訊く。

「えと、ちょと訊きたいことあるんだけど……」

「なんだ? 珍しく真面目な顔して……お前らしくもない」

「メアリのことなんだけど……さっき向こうで、なんか知らない男の人といっしょにいたよっ?」

 それを聞いたオーナーは少しガッカリしたような顔をした。何か特殊な話しでも聞けるものだと思って期待していたらしい。相当に退屈していたのだろう。

「何かと思えば……あれだよ、メンテ業者だよ。ログを取りに来ただけだ。詳しいことは判らん」

「ふぇ? ……そなのっ?」

 カリストは思いっきりスカされた気分だった。


 すっかり安心して家路に就いたカリストだったが、何か違和感を感じずにはいれない。

 当たり前だ。

「……そだ……ハカイとか言ってたんだっけ……」

 そもそものカリストの不安はまったく解決も説明も為されていないのだ。

「どしよ~? どしよ~?」

 カリストが困ったとき、頼みにできるのは世界でひとりしかいない。

「そだ~! エンケラティスに相談しよ……きっとエンケラティスなら相談にのってくれるよっ!」

「えへへ~♪ カエルちゃんってばカワイイねぇ♪」

『……あんたってホントに緊張感ないわね……』

「そなことないよっ?……カワイイ女のコに会ったりするとキンチョーするよっ♪」

『とてもそうは見えなかったけど……』

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