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KallistoDreamProject  作者: LOV
КаллистоМечтаПроект:Другая точка зрения
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Другая точка зрения:тридцать второй

 レールガンの弾丸を受け流すことにした私だったけれども、まるっきり勝算があったわけじゃない。この場に人間さえいなければ何も気兼ねすることなくどうとでもできたのに、だいたい人間が……ジャーナリストなのか狙撃手なのかよく判らない得体のしれないロシア人の男……彼がここにいさえしなければ、ネレイドが自分でレールガンを担いで退避するだけで事は足りたろうし、もちろんこんな命がけの曲芸なんかしなくても済んだのだろうけれども、でもこれはもう仕方がないと諦めるしかない。

 ネレイドと彼の関係も判らないけれど、ネレイドは戦闘制服を着ているから、きっとたぶん会社から与えられた任務として彼と随行しているのだと私は理解した。どうしてネレイド自身で狙撃を行わないで、不確かな人間に任せているのかは理解できないけれども。それに、私はヴァレンタインに促された結果としてここへ来たわけだけれど、そうでなかったら私の手は元から空いていたんだし、会社は私に狙撃手を任せるべきだったと思う。

 そんなことを考えているうちに、とっくの昔に窓枠だけになってしまっている小屋の窓からレールガンの弾丸が室内に侵入しつつあった。断熱圧縮で半ばプラズマ化した弾丸は金色に輝く光のカタマリだ。私はそれに向かって真っ直ぐに左腕を伸ばし、手のひらを突き出す。このままパッと掴んで握り潰せてしまいそうにも思えるけど、知覚できてはいても私のカラダはそこまで素早くは動けないし、頑丈でもない。でも、死にそうな気もしない。物凄い衝撃と痛みを伴うだろうけれども、私たちは知覚できる程度の弾速のレールガンなんかじゃ貫通されることはないし死にもしない。

 その時、ネレイドの右腕が私の腰に回されるのを感じた。私の腰に腕を巻き付けながら肩と頭を私の背中に押し当て、支えようとしているらしい。もっともそれは互いの動作を知覚できるバイオロイドだからそう感じるだけで、傍目には横合いから飛び出してきた私に対して背中側から猛烈なタックルをしたように見えたと思う。

 それはさておき、私は誰かに腰を抱かれるなんて経験は初めてだった(とてもじゃないけどロマンティックなシチュエーションとは言えなかったけれど)し、ましてやそれが愛すべき同胞の腕によるものだから、何て言っていいのか判らない不思議な気分になった……ええと、こういう気持ちになること自体に私は慣れていないから最初はよく判らなかったのだけれども、自分に正直に素直な言葉で言うなら、どうも私は「ドキドキしていた」し「テンションが上がった」し「単なる同胞としてではない別の気持ちからネレイドに好意を持ってしまった」ような気がする。

 この気持ちを恋だとか愛だとか言うつもりはない。これを恋だの愛だの言ってしまったら、私はよっぽど恋愛に免疫が無くて惚れっぽいだけということになってしまう……何度も言うように私は硬くて冷たい面白味のない性格なので恋愛とかそういうのには興味も適正も低いはず。だいたい私たちは互いにメンタリティは女性だし、なにより物理的には「性」など無いロボットなのだから、一般的にはそういう感情を向け合うわけがない。たぶん、私がこの時に感じたのは、それまでは私にとっては単なる概念や理屈でしかなかった「同胞愛」というものをリアルに実感できた感慨深さや感動とでも呼ぶような感情の波なのだ。

 戦闘制服越しにはネレイドの体温も肌の柔らかさも感じられない。それでもネレイドとこれ以上ないくらいカラダを接し合っていることに、私は率直に心強さを感じていた。レールガンの弾丸に意識を集中する私の灰色だった視界が一気に赤と黒に切り替わって、もうどのようにしても攻撃を避け得ない状況だと知らせてくれる。私は被るダメージを最小限にするための回避シークエンスをすべて却下して、弾丸を可能な限り安全に跳弾させるための計算を開始した。物凄い数のベクトルの矢が表示され、手のひらを、腕を、カラダを、どのように動かしどこへチカラを逸らすかの判断をしなくてはいけない。急激に電力を必要とし始めた私のアタマを働かせるためにロータリモーターが(たぶん)火花を散らして最大稼働を開始する。

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