Другая точка зрения:двадцать девять
言うまでもなく本当に私たちは可哀想なくらい優しい。相手が人間だろうがロボットだろうが、お構いなしに誰に対しても優しい。そこには多少の見返りを求める気持ちや打算はあるかもしれないけれど、それでもそんなのは本当にささやかなレベルだと思う。躊躇うことなく自分を犠牲にすらできることを考えれば……。
小屋のドアを開けるよりも先に、私は何者かが放ったレールガンの弾丸がこちら目がけて飛んできていることを察知していた。それは私を狙っているのではなくて、小屋の中にいた2人の人物に対して放たれたモノだ。ひとりはレールガンに取り付いている人間の中年男性、もうひとりは私よりもずっと幼げな華奢な少女。
限定的にリミッターの外れた私は、驚くほどゆっくりと2人を観察することができた。銃架に取り付けられた小型レールガンを構えて伏せている中年男性の方は……そこで私は気が付く。この男性には見覚えがある……見覚えどころか言葉を交わした記憶すらある! 確か1ヶ月くらい前にティーアガルテンでスケッチをしていたときに私に話しかけてきたロシア人ジャーナリストだ! なぜあのジャーナリストが今ここでレールガンを構えているのか? でもそんなことは後回しでいい。考えを巡らす時間は充分すぎるほどあったけど、どうせ今は答え合わせをできる時間がないのだから。
そしてもうひとりの少女は……彼女が何をしているのかはすぐに判った。自らをレールガンの電源、冷媒の供給装置としている健気なバイオロイドの少女、かけがえのない私の姉妹。高い位置でサイドテールに結わえた黒髪が、まるで宇宙空間にでもいるかのように宙を漂っている。そう、彼女は1秒以内に到達するであろうレールガンの弾丸に備え、すでに機動を開始していた。
互いに顔を向きあわせる時間、声を掛け合う時間すらもなかったけれども、彼女の瞳がゆっくりと私の方に向けられようとしているのが判った。エメラルドのように美しい澄んだ緑色の瞳が、少しだけ驚いたように大きく開かれる。アストラル技研のバイオロイドやアンドロイドの瞳には人間には判別できない微細な固有パターンが彫られていて、そこに型式番号と名称が読み取れる。型式XX51cz-FdIII-RM、名前は……ネレイド。彼女の名前はネレイド。きっと彼女もまた私の瞳から私のことを知っただろう。型式XX50cz-JcIII-RM、デスピナ、と。
私たちは見た目こそ似てはいなかったかもしれないけれど、その型式が明確に示すように、とても近い存在なのは疑いようがなかった。型式の最後に付けられた「RM」とはは「ロータリモーター」の意だ。彼女もまた私と同じく稀少なロータリモーターを搭載した戦闘用バイオロイドなのだ。私がネレイドに感じた「かけがえのない私の姉妹」とは、バイオロイドが普遍的に持つ同胞愛に根ざした(ちょっとセンチメンタルな)感情などではなく、実際に、現実に、ネレイドは私の姉妹であるらしい。レールガンの弾丸が飛んできているという切迫した状況の中で、この事実を知った私の喜びようは自分でも可笑しいって思えるくらいだったし、への字に結んでいたネレイドの口元が少しだけ緩まったようにも見えた。彼女も、私の存在に喜びを感じたのだろうか?
私のリミッターが完全に解除され、視界が灰色に変わる。私と、そしてネレイドもまた、「次に何をするのか」を決していた。互いに同じコトを考えている。互いが互いの目的を果たすために、互いが互いを護るために、今することは唯ひとつしかない。言わなくても、見なくても判る。そこにいる人間のジャーナリスト兼スナイパーを護るために身を挺そうとしている姉妹を護るために盾になること。
直進してくるレールガンの弾丸を完全に止める、あるいは安全に逸らすためにどうすればいいのか。単に射線にカラダを投げ出せばイイ、というわけにはいかない。質量が極小とは言え、命中したときの衝撃は凄まじく、体重の軽い私たちは事も無げに吹き飛ばされてしまうだろう。吹き飛ばされること自体は構わないのだけれども、吹き飛んだ私たちに人間が巻き込まれると困る(たぶん打撃で死んでしまうと思う)。
となれば、やっぱり跳弾させるか僅かなベクトルを加えて逸らすのが一番だ。それに私だって可能な限り死は遠ざけておきたい。せっかく血肉を分けた姉妹に会えたのに、言葉を交わすこともないまま別れることになってしまうのは悲しいから。