Другая точка зрения:двадцать восьмой
その刹那、私は視界の隅に何かを捉えていた。それと同時に視野がモノトーンに変わり、狙撃手の怒声も聞こえなくなり、時間の流れが緩やかに、と言うか、ほとんど止まったようにすら感じるくらい緩慢になる。聞くところによると人間が生命の危機に晒されアドレナリンムーブすると同じようになるらしいけど、どうやらそういう風に感じるのはバイオロイドも同様で、要は私は生命の危機に晒されているということらしかった。
灰色の世界で、ただひとつ真っ赤なマーカーで示されている視界の隅に捉えた「何か」は、10kmくらい遠くから、だけれども物凄い速度で私に向かって飛翔してきている。それが何なのか、把握して理解するには充分すぎるほどに時間はあったけれども、思考と違って私のカラダは(バイオロイドとしては最軽量クラスの30kg程度しかないけれども)物質として存在しているから、重力や慣性や摩擦、そういう物理的・現実的な縛めに囚われている。ましてや今はレールガンに繋がれ、その電力と冷媒を供給しているから少し自由が利かない。
つまり、いま何が起きているのかというと、どうやら私たちは10km先の「別の狙撃手」と相対しているということ。そして、その狙撃手に先手を打たれたということで確定している。さっきの爆発と時を同じくしてレールガンに狙撃されるなんて、もちろん偶然とは思えないから、たぶん私たちは事前に「相手側」に手の内を読まれていたのか、もしかすると陥れられたかしたのだと思う。ちなみに放たれたレールガンの弾丸の速度は秒速15kmくらい。1秒と待たずに私たちのところに飛んでくる。
それでも最低限、ちょっとカラダをひねる程度で躱すことができる。物凄い速度とは言ったけど、知覚できる程度の速度の、しかも10kmも先から飛んでくるレールガンの弾丸から身を護るなんて、戦闘用バイオロイドにとってはそんなに難しいことじゃない。
ただ、私はイヤな予感にハッとする。よく考えるまでもなく、今、私は、絶対に身を躱すことができないことに思いが至る。レールガンの弾丸は私を狙ってはいたけれども、その射線上には私の狙撃手が横たわっているのだから!
(……私が躱せば、彼は間違いなく被弾する。私は助けるけれども、被弾すれば彼は間違いなく即死する……)
どうするべきなのか、私は逡巡した。逡巡したけれど、答えは判りきってる。私たちは、どれほど任務に忠実な戦闘マシーンでありたいと願っていても、こういうときには嫌気が差すほど優しくて、甘くて、理想主義的で、誠実で、けなげなのだと思う。彼を突き飛ばして弾丸から護るなんて余裕はない。じゃあどうするべきなのかというと、それはもちろん私は身を躱さないことに他ならない。
秒速15kmの弾丸の質量は決して高くはない。私は特殊素材で創られた優れた防弾性能を持つ戦闘用ジャケットを着ているし、もちろん私自身の防弾/耐衝撃性能も高い(本当に凄く高い!)。ただ、このクラスのレールガンの弾丸は貫通力が低い反面、衝撃が物凄いし、弾丸自体が着弾と同時に「飛び散る」ような特性を示すから、上手く彼の盾にならないと、彼にも被害が及んでしまうかもしれない。
だいたい、もし私が動けなくなるようなダメージを受けたり……あるいは死んでしまったりしたら……電源と冷媒を喪った私たちのレールガンは1発か2発を放てる程度の余力しか残らないことになる。私の狙撃手は狙撃可能なポジションに就いてはいるけれども、突然の爆発に意識を奪われてしまっていて、着弾前にカウンタースナイプできるのかどうか怪しい(残り時間はあと0.8秒くらいしかないのだから人間には酷なハナシだけれども)。
でも、そんなことを考えても仕方ないかもしれない。彼の盾になることにした私は、もしかしたら当たり所が悪くて死んでしまうかもしれないのに、その後のことまで考えてる。やっぱり私たちは馬鹿みたいに優しくて、けなげだ。