Другая точка зрения:двадцать седьмой
目指す小屋を目前にした私の、その歩みを止めたのは余りにも唐突な爆発だった。と言っても目の前の小屋が爆発したのではなくて、数キロばかり先で何かが爆発を起こして地表を吹き飛ばしたのだ。爆炎と煙は少なかったけれど、その割に爆音と衝撃波が大きい。さすがに私のいるところまで土砂が飛んでくるということはなかったけれども、それでも充分に肌で感じ取れる衝撃波が伝わってきた。
「いったい何が……」
こんな話はヴァレンタインからは聞いていない。同胞が危機に晒されているとは聞いていたけれど、まさか今の爆発が……?
私は迷った。あの爆発は私(と同胞)に無関係ではないはず。予定通りヴァレンタインに指示された小屋に向かうべきか、爆心地に向かうべきか。小屋はもう目の前だ。爆心地は少なくとも5キロ近く向こう、しかも小屋とは反対側にある。
「……とにかく小屋へ向かって、それから考えよう……!」
私は小走りに小屋へと向かった。任務に当たって心身共に心地良い緊張と興奮に包まれてはいたけれども、それでも私の体調は完全というわけではないから、バイオロイドのくせにそれほど俊敏な小走りではなかったかもしれない。それでも考えられる限りの全力で駆けた。
準備万端整ってレールガンのスコープを覗こうとした俺だったが、その刹那、かなりの至近距離で凄まじい爆発が起きた。もっとも俺は既に射撃体勢についていたから、爆発の瞬間は目にしていない。しかし目にしていなくても、直近で何かが爆発、もしくは爆発物が投下されたというのは衝撃波と爆発音の大きさで容易に推測できた。
「クソッ!? 何だっていうんだ!?」
悪態を吐き反射的に俺は(すでに床に這いつくばっていたにも関わらず)アタマを抱えて床に伏せる。運び屋の娘(すでに運び屋の任務を終え今やレールガンの一部だ)は冷静なもので、跪いた体勢を変えることはなかったが、顔を上げ、割れ窓から向こうを覗いていた。
「……5キロくらい先で地中の何かが爆発したみたい……ガス爆発か何かだと思うけど……いったい……?」
「何なんだ!? 俺たちの“仕事”に何か関係あるのか?」
仕事を邪魔されてアタマに血が上っていた俺は状況がまったく理解できないままに怒鳴るばかりだったが、娘は依然として一定の冷静さを保っている。それでも少なからず混乱してはいるようだが。
「こんなハナシは私は聞いてない。関係があるのかどうかなんて私に判るわけがない」
多少は可愛げが出てきたかと思った矢先だったが、娘はひどくぶっきらぼうに吐き捨てた。自分に課せられた任務を邪魔されたのが気に食わないのだろう。クチをへの字に結び不満げな表情だ。
「どうする……予定通り狙撃をやるべきなのか……?」
「地面で何かが爆発した場合は狙撃を中止しろ、なんて指示は受けていないわ。貴方は速やかに狙撃を行ったほうがいい」
初めての最大稼働で、しかもその出力の大半をレールガンと冷媒の生成に充てていた私は、正直なところあまり気分は良くなかった。お陰様で私の脆くて強い対消滅炉は「今のところは」高い水準で安定して回ってくれているけれど、それもいつまで維持できるのかは判らない。
私の狙撃手は床に伏せて狙撃体勢に着く。私は一刻も早くこの不安な気分から解放されたくて焦れていたから、彼の動きが必要以上に緩慢に思えて仕方がなかった(リミッターが外れていたから要は私の思考が加速していただけなのだけれど)。
その時、レールガンの射線の向こう、5キロくらい先の地面が……正確には何かコンクリートのトーチカ? 地下壕? なにかそんなような半埋没の施設があったのだけれども、それが本当に突然爆発した。いままさに狙撃しようとしていた瞬間を見計らったかのようなタイミングだった。
「クソッ!? 何だっていうんだ!?」
彼の悪態が爆発音と同じくらいの大音量で炸裂する。彼には聞こえなかったとは思うけど、私も咄嗟に小声で悪態を吐いていた。なんて言ったのかは誰にも教えたくない。