Другая точка зрения:двадцать пятый
カミソリの刃のように薄く細く長い6枚組のレールガンのパネルバレル。銃砲身とは言っても、実際に弾丸と接触することはない。髪の毛ほどの細さの弾丸を電気と磁気のチカラで宙に浮かせながら電磁誘導射出する、そのガイドとして機能するのだ。6枚のパネルバレルは人間では目視できないほどの微細な制御でコントロールされ、それによって加速された弾丸は速度と引き替えに質量を失って半ばプラズマ化しながら飛翔し、最高速度は光速の半分ほどにまで達するものもある……けれど、私がいま組み立てているレールガンは、そこまで高性能なものではない。弾速はせいぜいマッハ10くらいだから、レールガンと呼ぶには少し憚られるくらい遅い。弾丸の重さは20グラムあるかないかくらいだけれども、速度に対して質量が低すぎるから命中すると同時に貫通力はほとんど失われて、面で浸透しようとする……つまり対象を包み込むようにマッハ10の衝撃が走るから、人間に命中すれば、それが例え手足の先だったとしても真っ赤な霧と共に半身が消し飛ぶと思う。バイオロイドに命中した場合は……バイオロイドの上皮内装甲は衝撃が強ければ強いほど斥力が作用するという特性があるけど、さすがに無傷というわけにはいかないはず。もっとも、よっぽどの不意を突かない限り戦闘用バイオロイドがマッハ10程度の弾丸に容易に直撃されるとは思えないけれども。
組み上がったレールガンを簡易の銃架に取り付ける。銃砲身長44センチ、本体・銃床を合わせても83センチばかりの小型レールガン。私がレールガンを組み立てている間は黙って見ていた中年男性がクチを開いた。
「なんだか頼りないな」
「……私もそう思う。このレールガンは銃弾が軽すぎるから5センチくらいの鋼板も透徹できないけど、でも数キロ先の軟装甲なら確実に致命的な打撃を与えられるわ。貴方が何を狙撃するのかは判らないけれど、人間が相手だとすれば充分な性能だと思う」
「実は何を狙撃するのかは知らんのだ。示された座標にある敵対的な対象を狙撃しろ、とだけ聞いている。座標はこれだが……」
スナイパーは懐から取り出した紙切れを手に、座標を入力するためにレールガンのマルチスコープの電源を入れようとしたが、無反応だ。まだ私が電力を供給していないのだから当たり前。このマルチスコープはレーザーで対象までの距離を測ったり、GPS連動で対象の位置に簡易的に誘導する機能を持っている。
「そもそもだ、お前さんがアンドロイドなら、お前さんが狙撃手も務めればイイんじゃないか?」
私はレールガンの電源と冷却用のヘリウムを用意するために戦闘用ジャケットを脱ぎ、ウェアの背中側を捲り上げて(正直なところ物凄く恥ずかしかったけど)、背中のハイドポートにケーブルとチューブを接続する。私が認識する限り、電力もヘリウムも思っていた以上に消費するようだから狙撃手も兼任なんかできそうにない。
「最大稼働でも私の出力の8割はレールガンの電力と冷却に回さなくちゃいけない。とてもじゃないけれど狙撃なんてできないわ……失敗したら私もだけれど、貴方も酷い目に遭うことになるだろうし」
私は生まれて初めてオットーサイクル式の対消滅炉を最大稼働させるべく覚悟を決める。同クラスのバイオロイドと比べると1.5倍以上の出力を誇る、脆くて強い私の心臓。そう、今まで私は私に搭載された特殊な対消滅炉を全力で動かしたことがなかった。対消滅炉を最大稼働させるということは戦闘状態=リミッターが外れた場合だけれども、人間のフリをして普通の暮らしをしてきた私には、そういう機会がなかったのは当然のことだと思う。リミッターを外すことは、バイオロイド各人が任意で行えはするけど、要件を満たしていない場合は即座に却下されるらしい。私の場合は会社からの指示による作業なので、一も二もなくリミッターが解除された。
途端に私の視界は一気に煩雑になる。ありとあらゆるステータスが猛烈な速度で明滅し、空気中を舞うホコリのひとつひとつにさえ私の意識が追従している。ちょっとアタマがおかしくなりそうな気もしたけれども、実際はそんなこともなく、私はそれらを自然に受け容れていた。
現時点での対消滅炉の稼働率は僅か8%。残りの92%は私の秘めたるチカラ。普段、あまり出力が安定しないながらも8%で暮らしていけてるのに、これを目一杯まで上げてしまって本当に大丈夫なものだろうかと薄ら寒い気持ちになる。まさか縮退自壊してしまったりしないだろうか? もしそんなことになったら、瞬間的なマイクロブラックホールが小屋の中に出現することになるかもしれない……そんなことを考えながら、私は対消滅炉の出力をゆっくりと上げていく。