Другая точка зрения:двадцать четвёртый
ヴァレンタインに告げられた日時を信じ、私は「何かが起きる」とされる目的地を目指した。ヴァレンタインが真実を語っているのなら、今日そこで私の同胞が致命的な危機に晒される。そしてたぶん、私が彼女を助けなくてはならない。なぜなのかは判らないけれども、私は絶対に同胞を見捨てたりしないから、嘘だろうと真実だろうと選択の余地はない。私は私の気持ちが命ずるままに何も考えずにそこへ行くしかなかった。
ヴァレンタインは言った。
『どうしてそうしないといけないと考えてしまうのか、もしかしたら君自身、それを不条理で不自然なことだと思っているかもしれない。同胞を助けたいと思う自分の気持ちが、実は外から与えられた、押し付けられただけの“よく判らない義務感”みたいなものだと思っているかもしれない。自分がバイオロイドだから“そうしなくてはならない”というアルゴリズムに沿っているだけだってね。でも、君が同胞を助けに行かなくてはならないという気持ちを持って、そして行動しようとしていることは君自身が決めたことなんだ。君が同胞を愛し、その不幸を見過ごせないのは君自身の本当の気持ちだよ』
あなたが私に同胞の危機だなんてハナシをしなければ、私はそんな気持ちにはならずに済んだし、どこへも行く必要がなかったのに。でも、それを知らずに看過していたなら、そして、その事実を後になって知っていたとしたら、きっと私は私を赦せなかったと思う。私は、彼女の身に不幸が降りかかりつつあることに心を痛めてはいたけれども、その一方で同胞のために役に立てるかもしれないという喜びも感じていた。今まで、会社や同胞に何の貢献も寄与もしていなかった私が、ようやく役に立てるかもしれないのだから。
私は、まだ見ぬ同胞、彼女の日々の幸せを護りたい。彼女がどういう人物で、何を考え、どんな暮らしをしているのかは判らないけれども、でもきっと闘争や暴力を忌み、美味しいケーキや可愛らしい小物に幸福を感じるような、ごく当たり前の女のコとして生きているはずなのだ。そんな慎ましやかな女のコの日々の暮らしを毀損するようなことは誰にも許されない。
そして、ここが一番重要なところなのだけれども、もし彼女と私の立場が逆だったら……私の危機を彼女が察したとしたら、間違いなく彼女は私を見捨てたりしない。私が困っていたら、絶対に彼女は私を助けに来てくれる……希望とか予想なんかじゃなくて、当たり前のように確信していた。自信があった。ヴァレンタインに言われるまでもなく、確かにどうしようもなく不条理で不自然だけれども、でも私が彼女を助けたいと願うのと等しく、彼女も私を助けたいと願ってくれている(「だろう」「と思う」なんて予防線は本当に要らない!)。
このファナティックな、もっと突き詰めて言うと、殉教者になりたいがために進んで死地に飛び込んでゆく狂信者のような、ある意味、エロティシズムすら感じられそうな極端な友愛の気持ちを私は心地よく感じていたのかもしれない。この不思議な陶酔感は、もしかしたら私は私の成そうとしている行動自体に発情していたのかもしれない。
戦闘制服に身を包み彼女の元へ向かう私は、今まで感じたことがないほどに体調が良く、鋭気に満ちていたと思う。今まで自分自身を生かすことだけにしか役に立たなかった私が、同胞を護るために生きることができるのだ。もちろん会社からの指示というわけではないから、そこに不安はあったけれども、指示があろうと無かろうとバイオロイドは同胞の助けとなることを第一としているから、きっと大丈夫、何も怖くはなかった。
ポツダムの街を抜け、私は郊外の荒れ地を足早に進む。荒れ地とは言っても、何の使い途もないから捨て置かれているだけで、低い灌木や草原が拡がるなだらかな丘陵地は、かつては牧草地や畑だったのかもしれない。現に、ここかしこに立ち腐れになってはいるけれども小屋や納屋(もしくはその痕跡)が見て取れた。そして、その中のひとつが私が目指す場所。そこに誰が待っているのか、何が起きようとしているのか、その時の私にはまだ知る術はなかった。