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KallistoDreamProject  作者: LOV
КаллистоМечтаПроект:Другая точка зрения
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Другая точка зрения:двадцать третий

 俺に“ブツ”を持ってきた運び屋の娘は俺に代わってキャリーバッグを開けようとその傍らに跪いたが、即座に首を振って俺を睨み付けた。

「電子ロックがかかってる。私には開けられない」

「ああ、そうだった。それなら確か……」

 俺はマインツから渡されていた封筒があったことを思いだし、ひとしきりポケットをまさぐって取り出す。案の定、封筒の中には電子キーが入っていたので、それを娘に投げてやった。娘は礼も言わず(言う道理もないのだが)電子キーを受け取り、キャリーバッグを開け始める。俺は黙ってその様子を見ていたが、ツンケンした態度、病的なまでに透明感のある白い肌、美しく整っているのにどこかしら暗鬱な顔立ちにピンと来た。

「運び屋。お前さんはロシア人か?」

「私のメンタリティと外見はロシア人だけれども」

 娘は俺の顔をチラリと見てから、悪びれるでもなく言う。

「私は人間じゃないわ。だからロシア人に見えるけどロシア人とはいえない」

 そもそもが、こんな10代半ばにすら達していなさそうに見える思春期あたりの小娘が、可愛げも何もない黒ずくめの戦闘用ジャケットを着て、なんの理由があってアストラル技研がらみの運び屋をやるというのか。俺の質問が馬鹿げていたのだ。この娘はロボット、おそらく極めて性能の高いアンドロイドなのだろう。

「でも……私は生まれも育ちもベルリンだけれども、私は私のことをロシア人だと思ってる」

 そして電子ロックは短いビープ音を立てて解除される。キャリーバッグの中には大型のライフル本体、薄くて長い板が貼り付けられた奇妙な銃身、そして銃架が、バラバラに分解された状態で発泡ウレタンのスペーサにキッチリと包まれて収められていた。どこのメーカのモノかも判らない見たことのない型のライフルだ。

「狙撃用の低速レールガン……低速と言っても数キロ圏内なら偏差射撃は必要ないくらいの弾速は出るけれども。これ、あなたが組む?」

「お前さんが組めるなら、ぜひお願いしたいね」

 娘は(ロボットではあるが便宜上“娘”と呼ぶしかあるまい)、俺にマニュアルを投げて寄こした。俺はペラペラと数ページ捲って、それを放り投げる。ドイツ語を不便なく話せる俺だが、読み書きとなるとどうにも好ましくない。結局はキリル文字でないと読める気がしないのだ。

「ところでレールガンは多大な電力を使うはずだ。前にもっと小型の携帯用レールガンを見たことがあるが、大の男がヒーヒー言うくらい大きなバッテリを背負っていたぞ。ソイツにはそれらしいモノは見当たらないようだが……」

 訝しげに話す俺の声が聞こえているのか聞こえていないのか、娘はマニュアルと一緒にキャリーバッグの中に入っていたメモに目を通してから再び俺に向き直り、一呼吸ついてからハッキリと宣言した。

「バッテリは私。私がレールガンの電力を創る」

「は? お前さんが?」

 当たり前のことのように平然と言ってのけてくれたが、アンドロイドとはいえ、いや、アンドロイドだからこそ、そんなことをして大丈夫なのだろうかと俺は一抹の不安を覚える。

「あと、あれだ、冷却用のガスも必要だと聞いているが?」

「それも私が生成する。それをできるだけの性能が私には備わってる」

 一点の迷いもない明瞭な言葉ではあったが、しかし、それがむしろ妙に悲壮に感じられた。ロボットだとはいえ、少なくとも見た目だけは年端もいかない華奢な娘の発言としては余りに無味乾燥で機械的だからだろうか。いや実際に機械ではあるのだが。

「……まぁお前さんはきっと融通の利かない偏屈な娘なんだろうから、俺がどうのこうの言ったところで考えを改めたり怖じ気づいたりはしないんだろうが……それでも一応は言わせてくれ。俺だって仕事を請けてやってきたプロだ、犬も喰わない傭兵風情だが多少のプライドもある……」

 娘は不思議そうな顔をして黙って聞いていたが、俺が何を言いたいのかは察したようだった。しばらく居心地の悪い沈黙が続いた後に、俺を窘めるでもなく淡々と問いかけてきた。

「……私が本当に大丈夫なのか、任務を遂行できるのか、信用ができない?」

「むう……まぁ有り体に言えばそういうことだ。俺は最新のアンドロイドのことなんか知らんが、そりゃもう大した性能なんだろう。だが……お前さんを見ていると何と言うか……」

 プロを自称しながらも、俺のクチは重い。相手は単なるロボットではあるが、何度も言うように見た目だけは年端もいかない華奢な娘だ、ナイーブな年頃だ、いざ相対すると中年男としては自然と気を遣ってしまうのだ。

 娘も俺の心中を理解しているのか(そういう聡い部分が余計に気を遣わせるのだが)、少しだけ困ったような自嘲的な笑顔を見せた。

「……頼りない?」

「そうまでは言うつもりはないが……」

「別に構わない。だって私も自信はないから。こんなことしたこともないし、うまくできるかどうかも判らない。でも、ここには他にバッテリも冷却用のガスもないし、街に行っても簡単に手には入らない。あなたは私に期待するしかないし、私はあなたの期待に応えるしかない」

 その時だけは、普通の10代半ばの小娘が精一杯の強がりで自分を奮い立たせているように俺には思えた。

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