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KallistoDreamProject  作者: LOV
КаллистоМечтаПроект:Другая точка зрения
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Другая точка зрения:двадцать второй

 指示それはある朝、突然に、私の元へ届けられた。私は会社の指示を受けて「例のキャリーバッグ」を某所に運ぶという任務をついに遂行することになる。刻は正午、場所はポツダム近郊の原野にある建物。住所が番地外らしいので、MTに座標だけが表示されている。ここで私は誰かにこのキャリーバッグを手渡すことになるのだ。

 いよいよ正式な任務なので私は生まれて初めて会社の戦闘制服に袖を通した。今までずっとクローゼットに吊してあった、私が戦闘用バイオロイドだということの証左。左胸に貼り付けられている「青薔薇と白百合」を意匠にした会社のエンブレムが何より誇らしい。冷静に考えたら、昼の日中に黒ずくめの上下を着て歩けばかえって目立つような気もするけれども、要は私は浮かれていたので気にもしなかったし、会社からの正式な指示による任務だから正々堂々と振る舞えばイイと考えていた(これはこれで変な考え方だけれども)。

 ただ物を運ぶだけの、それこそ子どもにでもできそうな「おつかい」程度の任務。でも無事にそれを達成すれば私の何かが大きく変わるような、そんな期待を私はしていた。世界に何の寄与もしない、何の影響も与えない、茫漠とした、薄ボンヤリとした私の孤独な日常が、「任務」という責務を負うことで世の中と繋がりを持つ。そうなることをずっと切望しているのに自分で変えようとしなかった私自身に非があるのは判ってはいたけれども、それでも私は希望せずにはいられなかった。そしてなぜか、そう遠くない未来にあのプラチナブロンドの少女に再び出会えるような、そんな無根拠な予感めいた想いも抱いていた。


 車中での好奇の眼差しを居心地悪く感じながら目的地の近くのポツダム郊外で循環バスを降りた私は、そこからはキャリーバッグを引きながら自力で歩くことになった。元々は牧草地が何かだったのか、緩やかにうねる見晴らしのいい草むらが拡がる中の一本道を、ひたすら進む。普段は体調の優れない私だけれども、この時だけは不思議と足取りも軽く、息が上がることもなかったし、気分も良かった。

 道が延びる先、小高い丘陵の上には、すでに目的の建物……納屋のような小屋が見えていた。あそこで誰が待っているのだろう? 同胞? 会社の取引相手? キャリーバッグを引き渡したあとの私の動きに関しては追って指示があるらしいけれども、私は期待にムネを躍らせてさえいた。

 草生くさむす納屋の入り口への小道を進み、私は古びれたドアの前に立つ。納屋の中から微かに人の気配がする……あちらも私の到来に気付いてか、意図的に息を潜めているように感じられた。でも特に危険があるとは思えなかったので、私はノブに手を掛けてゆっくりとドアを開いた。


 埃っぽい納屋の中、松葉杖をついたひとりの中年男性が立って、こちらを見ていた。その顔は少し驚いたような、ガッカリしたような、何とも言えない表情。きっと私が子どもだからだろうと直感的に理解した。

「……運び屋か? お前が?」

 ロシア語訛りのある中年男性の声は、あまり優しくはなかった。初任務に舞い上がっていた私は、少しだけ現実に引き戻される。でも、多分その方が良いに決まっている。私は、たぶんギプスで固められているからだろうけど不自然にゴワゴワした中年男性の大腿部を見ながら、独り言のように応えた。

「そう。ここへこれを持って行くように言われた……中身が何なのかも、貴方が誰なのかも知らない」

 そして私は男の方へ向かってキャリーバッグを押し転がした。キャリーバッグは音も立てずに床の上を滑り、狙い過たず男の足元で止まる。男は松葉杖を床に倒してキャリーバッグの傍らにしゃがみ込もうとしたが、不自由な脚が邪魔をしてなかなか思うようにいかないようだった。

「クソ、ひっくり返ってしまいそうだ」

 男は自分自身のまどろっこしい動きに腹を立てつつも、どこか滑稽に感じてもいたようで、自嘲っぽい笑顔を見せながら、私に向き直る。

「運び屋。見ての通り俺の脚はこの有様でな……すまないが、このキャリーバッグを開けてくれないか? ナンバーはこのメモに書いてある」

「……そんな作業指示は受けてない」

「そうか。わかった。なら自分でやる」

「仕方ないわね」

 私はなぜか本意ではないような無意味な遣り取りをしてから、自分が運んできたキャリーバッグを結局は自分で開けることにした。

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