Другая точка зрения:двадцатый
バイオロイドは、どんなに遠く離れていても、互いをまったく認知していなくても、常に強く結びつけられ、黙っていても惹かれ合うものらしい。女のコ同士で、しかもある意味では姉妹のような関係なのに惹かれ合うというのも変な気がするけど。
それは集合精神のようなものかもしれないし、ある種の昆虫のような超個体なのかもしれない。確かに私は孤独で寂しい暮らしをしている(他者との接触を拒んでいるのだから自業自得なのだけれども)し、友だちが欲しいとか同胞に会いたいとか事あるごとに願っている(すごく矛盾していることは私もよく判っている)けれど、そんな中にあっても、絶望の底に打ち拉がれるような真に深い孤独さだけは感じたことがない。これは、もしかしたらいつの日にか友だちや同胞に会えるかもしれないという希望に由来するものなのかと思っていたのだけれども、どうやらそれだけではなかったらしい。
私たちは、バイオロイドは、間違いなく何かで結びつけられている。ゆるやかでしなやかな、とてもよく伸びるけれども、決して切れたり解れたりすることのない何かで。何と言うか……私たちは個々に独立しているように見えて、実際は大きな織物のように、それぞれが縦糸となり横糸となり、ひとつの大きな意識を織りなしているような気がする。
「君が会ったこともない、もしかしたらこのまま永遠に会うことすらないかもしれない君の同胞が、とある組織の策謀で致命的な危機に晒されようとしている。もっとも、今の時点ではまだ問題は顕在化していないけれども、でも間違いなく近い将来、そうなる。ちなみに、とても可愛げのある娘だよ」
若い男は唐突に話を切り出してきた。アイサツして、二言目にこの言いよう。普通なら面喰らってマトモに取り合う気にもならないハナシの展開だけれども、なぜか私はムネを激しく突くような強い衝動を感じた。最初はよく判らなかったけれど、それはどうやら怒りの衝動、私は瞬間的にカッとなったらしい。もちろんヴァレンタインに対してではなく、同胞が危機に晒されていること、危機に晒そうとしている者に対する怒りだった。私が何かに対してこうも無思慮に腹を立てるなんてことは今まで無かった気がする。それくらい私たちの繋がりが強固だということなのだろうか。
ただ、それでも私は自分の気持ちを悟られまいと、いつもと変わらない淡泊な、訥々とした口調で応じる。たぶん、そういう風に応じようとはしていたと思う。とても無駄な努力だった気もするけれど。
「それで……どうして私にそんなハナシを?」
「心配にならない?」
私はテーブルの下で手を強く握りしめていることを悟られないように平静を装ってはいたが、ヴァレンタインは悠々とコーヒーを飲みながらカップ越しに私の目を覗き込んでくる。間違いなく見透かされている気がして、自分でも顔が紅潮していくのが判った。何にしても、私には愛する同胞たちへの気持ちを押し留めることは難しかったようで、思わず素直に言葉がクチを突いて出てしまう。この時は不思議と気恥ずかしさは感じなかった。
「……とても心配だけれども……」
「ひとつ君にお願いしたいことがあるんだけど……単刀直入に言うと、彼女を救うために、君にちょっと手伝ってもらいたいんだ」
ヴァレンタインは私の明確な態度を見極めることもなく、一方的にハナシを進めてしまった。もとい、私の背中を押してくれようとしていたのかもしれない。
好感は持てるけど、どこか超俗していて底知れないところのあるヴァレンタイン。きっと何か思惑や筋書きみたいなものがあるんだと思う。私を陥れようとか、そういう気配は感じ取れないけれど、まったく安全というわけでもなし、何よりヴァレンタインは(依然として認めてはいないけれど)会社の関係者なのは間違いないにしても、公式なエージェントではない(本人が認めていないのだから仕方がない)のだから、その指示に従う必要はないはず。
少しだけ考えて、なぜ私がそんなことを……と、クチまで出かかったけれど、実際に私のクチから出た言葉は全然違っていた。
「どうすれば彼女を助けることができるの? 私は何をすれば?」
容易に食いついた私の態度に、さすがのヴァレンタインも少し驚いたようだった。私も私に驚いていた。薄々は理解していたつもりだったけれど、やっぱり何があってもバイオロイドはバイオロイドを絶対に見捨てたりはしない。こんな私ですら同胞の危機を看過できないのだから。




