Другая точка зрения:восемнадцатый
夏も終わり、初秋に差し掛かった穏やかなある日、私は何の前触れもなく突然に会社からの指示を受けた。その頃の私は、いまだにあの少女のことを気にしながら悶々としていたのだけれど、それはもう恋煩いのような状態で、その想いは日々強まっていくばかり(女のコ同士なので恋愛感情というわけではないと思う)。ただただ会って話しがしたい、できれば友だちになってほしい、許されるなら傍に寄り添わせてほしい、もし願いが叶うなら触れ合っていたい……そんな想いを抱きながら無為に毎日を過ごしていたので、気分は悪くなかったけれども、変な焦燥感に駆られていた。なので、会社からの指示は気分転換という意味では有り難いものだった。
その指示の内容……それは、とある場所に、とある物品を運び、とある人物に渡す、という簡単なものだった。「とある物品」は明日にでも会社から自室に届けられるとのこと。なら最初から輸送先に運べばいいのに、とは思ったけども、指示自体はMTに一方的に入電しただけで、元から私には異を唱えるような権限は与えられていないので従うより他になかった。「とある場所」と「とある人物」に関しては、また日を改めて連絡するとのことで、それまでは私が「とある物品」を預かることになる。
私にとって生まれて初めての任務らしい任務だったので嬉しくもあったが、その反面、仮にも(不調と不安定さはあったけれど)希有なオットーサイクル式の対消滅炉を搭載し、極端なまでに機動性能に特化した近接戦闘用バイオロイドとして創られたはずの私に与えられた任務が、こんな、ヘタをすれば人間の子どもにでもできそうな内容だったことに、正直、ガッカリもしていた。と言っても、私は戦闘行為がしたいというわけではなくて、何というか……「私にしかできない」ような任務を望んでいたのだと思う。そんな任務があるのかどうかは別にして、だけれども。
その明くる日、確かに「とある物品」は私の元に届けられた。持ってきたのは、どこででも見かけるDHLの、一見すると何てことのない普通の女性従業員だったけれども、たぶんアンドロイドなのだと思う。DHLのバンやユニフォームも会社が用意したダミーに違いない。だけれども、それを問い質したところでたいした意味もないから、私は素直に送り状にサインをして荷物を受け取った。
その「とある物品」とは……割と大きめの少し使い込まれた何の変哲もない旅行用キャリーバッグだった。ご丁寧にいくつかの航空会社のラベルシールが貼られたままになってすらいる。リミッターのかかった状態の私が何とか持ち上げられるくらいだったので、そう重たいモノでもない。耳をそばだててみても何の音も聞こえないし、揺すってみても中身が転がるような手応えもなかった。
もちろん開けることは許されてはいなかったし、中身の詮索も意味のないことだったけれども、とはいえ、やっぱり気にはなってしまう。会社からの指示で運搬するモノなのだから、きっとそれなりに重要な物品に違いない。機密書類? 重大な発明品のサンプル? もしかしたら破壊工作用の時限爆弾かも……? とにかく、私に預けられたキャリーバッグは私の弛緩しきった日常に程良い緊張感を与えてくれたし、代わり映えのしない生活に変化をもたらしてくれたような気がしていた。私はそれをクロゼットの奥に押し込み、きたるべき次の指示を待つことにして、再び例の少女に思いを巡らせる。
毛先がくるんと跳ね上がったプラチナブロンドの髪、柔和な微笑み、華奢で小さいけれど健康的な身体、見ず知らずの怪我人を率先して救おうとする勇気と実行力……私がひとつも持ち得ない要素で形造られている少女。私の反対側にいる少女。前にも言ったと思うけれども、すでに嫉妬すら覚えないほどに、私は彼女に魅了されていた。こんなにも誰かのことを想う日が来るなんて考えてもいなかったけれど、やっぱり私は確信していた。ああ、私、彼女のことを愛してしまってる? コトバひとつ交わしたこともないのに、本当に何ひとつ判らないのに、私の中の彼女は、私の都合のいいように形成されていってしまう。それは、私自身が押し留めようとしない限り、誰にも遮ることのできない想いなのだ。
そして、そんな想いを根底から否定する事実が私を苛める。ロボットがヒトを、人間を、愛せるのだろうか? 愛してもいいものだろうか? バイオロイドとして創られた私の中の、いったいどこに他者を真に愛せるココロがあるのだろう? ただ独りで生きている私の悩みに応えてくれる誰かはいない。つくづく私は友だちが欲しかった。