Другая точка зрения:четырнадцатый
自分が何のために生きているのか、その理由を確証できない私にとって、同世代の普通の(人間の)女の子たちは嫉妬の対象ですらなく、もはや同一化したいくらいに眩しい、まるでアイドルのような存在だった……ということに最近気付いた。どうやら私は人間の少女のように普通に、そして稀にドラマティックに生きたいと願い始めているようだった。
例えば……さっきバスの中から見た事故、あの現場で怪我人を何とか助けようと懸命になっていた少女のように。今どき小型バイクになんか乗っているから、きっと彼女は少し変わったところがあったりするのかもしれないけど、たぶん普通の少女なんだと思う。家族がいて、学校に通って、将来の夢がある。アルバイトなんかしているのだろうか。好きな人がいたりするのだろうか。それとももう誰かと交際しているかもしれない。もしかすると私と同じように、将来に対して茫漠とした不安を感じているかもしれない(正直、そういうことを考えるような女のコには見えなかったけど)。あのコなら私のことをどんなふうに思うだろうか……そんなことは永久に確認できないだろうけど、どうにかして知りたい。何か奇跡じみたことが起きて突然に知り合いになれたりしないだろうか。
薄暗い自室で枕に顔を押し付けながらモヤモヤと思いを巡らせていた私だったけど、すでに彼女に対して親近感を覚えていた。ほんの瞬間的に見かけただけなのに、なんだか友だちにでもなったような気分だ。そして、彼女が誰なのか、もとい、もっと判りやすく言うと、あの事故の顛末が気になってきた。
有り難いことに、いくらでも調べようはあった。明らかに人身事故が起きていたのだから、それは事件なり事故として扱われるはず。そしてあのコはまだ未成年なのに怪我人を助けようとしていたのだから、それは昨今の風潮から言うと実に殊勝なことで、世間が褒めそやす類の出来事だと思う……被害者が死んでいなければ、きっと何かしらの特別なニュースとして報じられるはずだ。もしかしたらベルリン市に顕彰されたりして、名前やなんかも判るかもしれない。
私はMTを取り出すと、ベルリンと近郊都市での今日1日の出来事を主に取り扱うニュースサイトを開いてみた。メニューからベルリン市内で発生した事件事故を選択する。事故が発生してからすでに2時間以上経っているし、人身事故なら軽重を問わず必ず報じられているはずだ。詳細な位置としてツェーレンドルフを選択すると、すぐに1件の人身事故が抽出された。
「ツェーレンドルフ。40歳代のロシア人男性ジャーナリスト、轢き逃げ事故に遭い大腿骨複雑骨折。全治1ヶ月……」
その記事にはそれだけしか書かれていなかった。私は更に関連記事に目を通す。
「……ツェーレンドルフでの轢き逃げ事故。逃走中だった轢き逃げ犯、珍しいクルマとの目撃情報によりスピード逮捕。中堅経営コンサルタント会社の経営者か……」
他にも何件かの関連記事に目を通してみたが、件の女のコの情報は何ひとつ得られなかった。私は少し幻滅したけれども、確かに単に被害者を安全な路肩に引っ張って待避させただけだし、冷静になって考えたら特に記事になっていなくても不思議なことでもない。あのコの詳細が知れないことにガッカリしながらも、その一方で、私にしてはかなり興奮していたので、我ながら少しだけ可笑しかった。
そんなことを考えながら他に関係のありそうな記事を探していると、いつの間にか事故の元記事が削除されてしまっていることに気が付いた。それどころか、関連記事も軒並み削除されている。
「? ……いまさっきまで見れたのに……」
変だと思いながらMTの閲覧履歴を確認しようとしたら、なぜかMTが強制的にリブートしてしまった。復帰したMTからは事故の記事に関する履歴もキャッシュも消えてしまっている。
「……消えてる? どうして?」
何だか判らないけれども、あの事故に関する情報はオンライン上では一切が消されてしまっていた。ただ、滅多にあることではないけども諸般の事情(人権問題や政治的なことやなんか)があって、ニュースにできない類の事故だったのかもしれない。そこまでは理解できる。でも、なぜ私のMTがリブートした上にキャッシュまで消えていたのかが判らない。
「消えたんじゃなくて……消された?」
技術的には可能だ……が、それには相当な労力を要する。そもそも、そうまでして誰が何のために隠したい、消したい情報だったのだろう? バイオロイドならずとも、生身の人間ですらほぼほぼ全文を暗記できる程度の短い事故記事だ。思い出してみたところで、何か隠蔽しなくてはならないような内容が含まれていたとは到底思えないのだけれども……。