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KallistoDreamProject  作者: LOV
КаллистоМечтаПроект:Другая точка зрения
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Другая точка зрения:Рождество

クリスマス用の特別篇です。

現在進行している本篇とは直接の関わりはありません。

 メリークリスマスフロバイナッヒェン! ベルリン・オラニェンブルガー通りにようこそ! ここはあらゆる殿方をあらゆる方法で満足させる紳士の社交場。クリスマスの日中に独りでオラニェンブルガーへ? それは今の貴方ができる最良の選択のひとつね。貴方は賢明だわ。バカにするなって? ううん、本当にそう思うもの。貴方は夜になるまでには、きっと素敵なパートナーに出逢えるはず。時間はまだたっぷりあるわ……ゆっくりしていってね。



 ベルリンで売春が合法化されて約1世紀半。ここで言う「合法化」というのは「捕まらない」って意味じゃなくて、政府の管理の下での統制された合法売春って意味。ちゃんと要件を満たしていなかったり、無許可で「立ちんぼ」なんかしてたら、これは違法行為になるの。無許可娼婦は意外と多くて、毎日のように捕まってるのは目にするけど、だいたいは目先のおカネ欲しさに立ちんぼするヤク中・アル中の類だったりするから、衛生面を考えるとオススメはできないわね。

 私が住んでるオラニェンブルガー通りはベルリン随一の売春街。売春街って言っても、街の中心部だし、歓楽街特有のギラギラしたような華やかな雰囲気でもないから、ちょっと通っただけじゃ売春街だとは気が付かないかも。でも、昼過ぎから少しずつ、夕方からは大勢の娼婦が通りに立つ。女のコのレベルはピンキリだけれど、合法売春街の古豪だからか全体的なグレードは高くて、どっちかというと高級娼婦って呼べるような、しっかりとした女のコが多い。政府お墨付き(?)の管理売春だから、かなり短いサイクルで定期的に健康診断を受けさせられるし、失業保険や各種手当てだって受給できる。実際はそんなに胸を張って売春婦をやってるって娘は少ないけど、そこまで自分を卑下しなきゃいけないってほどの賤業でもない。まぁちょっと変わった接客業ってくらい。

 ドイツの性風俗といえば、「FKK」と呼ばれる売春サウナの方が有名かしらね。でも、私が所属しているのは昔ながらの、格好良く言うなら「娼館」。私はもう引退して、今はお世話になっていた娼館の事務員みたいなことをしてる。お客さんの応対をしたり予約を受けたり娼婦たちの管理をしたり。私の務める娼館は、それこそ有名人のお相手をすることもあるレベルの高級娼館だから、所属してる女のコたちなんて、もう映画女優顔負けの美人揃いばかり。私の現役時代はどうだったかって? さあ……どうだったかしらね……。

 私たちの娼館「白百合の園ガルテンヴェイセンリーリエ」は、オラニェンブルガー通りよりも少しだけ南側の奥まった場所に建っている。元々は旧世紀に建てられた立派なホテルだったのを改装した20階建ての建物。ぱっと見だと娼館には見えないわね。大きな車寄せがあって、そこにはポーターが常に待機しているし。実際、時々だけど、オラニェンブルガー通りの事情を理解していない観光客が普通のホテルだと思って立ち寄ってしまうくらい。私たちの娼館は、娼婦たちもそうだけど、働いているボーイやメイドにまで教育が行き届いているから、正直、そんじゃそこいらの高級ホテルにも引けを取らない品格があると、私は自負してるわ。

 20階建ての「白百合の園」だけれど、もちろん全フロアが娼館というわけではないの。娼館と呼べるフロアは1階から6階まで。それより上の階はオーナーが私的に使用しているから、私たちが入ることはないわ。オーナーは最上階に住んでいるらしいけど、私はこの娼館に10年くらいお世話になっているのに、今だかつて一度も逢ったことはないし、どんな風体の人なのかも知らない。ただ、女性であることは間違いないみたいだし、いつも私たち従業員や娼婦を何かと気遣ってくれているから、悪い印象を持っている人はいないと思う。

 ひとつ屋根の下に住んでいるのにまったく姿を現さないオーナーだけど、経営はどうしているのかというと、日に一度はオーナーのエージェントが顔を出しては様子を聞いていくくらい。時々、大まかな指導というか指示をもらうこともあるけど、売り上げがどうだとか経費がどうだとか、そういうハナシになったことはないわ。お陰様で「白百合の園」は私が知る限りは赤字になったことが1日たりともないけれど、なにせ所属している娼婦のレベルが高いし、それ以上に好待遇だから人件費がね。だから見た目の煌びやかさほど儲けが出ているわけじゃない。もしかしたらオーナーはとんでもない資産家かなにかで、趣味で娼館を経営しているのかもね。

 と……ちょうど件のエージェントがやってきたわ。ライダースなんか着て雪が降ってない時期は古くさいバイクに乗っているけれど、まだ20代半ばくらいの、ちょっと飄々とした青年。立ち振る舞いがスマートで顔立ちも綺麗だから娼婦たちも気になってる娘が多いみたいだけど、店子が商品に手を出すのは御法度、そんな気もないみたいでノラリクラリかわしていくわ。他に恋人がいるのかしらね。ヴァレンタインと呼ばれているけど、それが姓なのか名前なのかは、どちらかというと付き合いの長い私でも判らない。彼もオーナーと同様に娼館の上階に住んでいるらしいけど、他に何か仕事があるのかどうか、だいたい日中もフラフラと出かけたりしている。

「やあ。調子はどうかな? 何かトラブルは?」

「ええ、問題ないわ。今日はクリスマスだからか、いたって平和な一日ね」

「あ、そうか。今日はクリスマスだったんだ」

 ヴァレンタインは今さらになって窓の外、静かに雪が舞っている通りに視線を送る。

「言われてみれば、確かにどことなくクリスマスっぽいね」

「そうかしら? いつもと変わりないオラニェンブルガーよ。ここは1年365日、何も変わらないわ」

 私が自嘲気味に言うと、ヴァレンタインは一瞬だけ鬱いだような表情を見せてからタバコをくわえて、黙って窓の外を眺めていた。雪は夜にかけて少しずつ強くなっていく。

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