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KallistoDreamProject  作者: LOV
その1:長閑な喫茶店の看板娘に関する事案
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第11話

 その日は喫茶店が珍しく混んだため、カリストは久しぶりにマトモに仕事をした。とは言え、メアリがいるのでレジや注文聞きは任せて、カリストはもっぱら厨房とカウンタを行き来することになる。元からカリストは調理技術は高いが銭勘定や瞬間的な記憶力が弱いし、逆にメアリはロボットだという特性上、それらが得意分野である……なかなか効率よく分担することができた。

『こちらがお釣りです……有難うございました』

 22世紀も中頃になれば、どこででも見かけるという程ではないにせよ、それほど人間型ロボットが珍しい存在ではなくなっている。

 特にメアリは最新型ということもあり、その微妙な表情や些細な動作ひとつひとつに「人間的な説得力」が感じられた……傍から見れば、やや人前で喋るのが苦手な程度の普通の少女としか思われないだろうし、実際にメアリがロボットであると気付いていない客が大半だったろう。

「メアリ~♪ たまごスープふたつできたよ~♪」

『はい、ただいま』

 カリストがカウンタに並べたスープ皿を手際よく客の元まで運ぶメアリ。その様子を店内の座席で眺めていたオーナー(相変わらず勤労意欲は低い)が満足げに呟く。

「ふーむ、初めは不安だったが、慣れてくるとメアリは充分すぎるほど良く働いてくれるな……もう少し安価やすくなったら買ってもいいかもしれんなあ」

『オーナーさん、今でしたら10年の無金利ローンもご利用できますよ』

「ははは、こりゃしっかりしてる、たいしたもんだ」

 カリストの教育(?)の成果もあってか、当初は少しぎこちなかったメアリも職場に馴染み、今では軽口を飛ばすまでに「成長」していた。もうすっかり作業にも慣れ、ほとんどミスらしいミスもしない。ヘタをすればカリストの方が足を引っ張りかねないほどだ。

『カリストさん……ご注文はベーコンサラダです。これは生ハムサラダですよ』

「んう、そだったっけ……?」

「あ~、いやいや、仕方ないからそれは俺が食うよ」

「まいすた、ゴメンなさい……そいじゃ、それ、わたしがオゴったげる~♪」

『カリストさんは貧乏なんですから、ここはオーナーさんの好意に素直に甘えるべきでしょう』

「んう~? も~メアリってば~♪」

「ははは……って、カリスト、お客が待ってるぞ、早く作り直せ」


 食事時を過ぎ客も引き、カリストがミスの代償としてひとりで厨房で皿を洗っていると、入り口のチャイムがカランと鳴る。

『いらっしゃいませ……おひとりですか?』

「あ、いえ、私はカリストの友達っていうか……」

 出迎えてくれたメアリに歯切れ悪く自己紹介するイオだったが、オーナーがそれに気付いた。

「ああ、お前さんか。悪いがカリストは料理を間違えた罰で皿を洗っているんだ、もう少し待っててくれ。メアリ、その娘がカリストが言っていたイオっていう友達だよ。適当な席に座らせてやってくれ」

『はい。ではイオさん、こちらへどうぞ』

「は、はあ……」

『お飲み物をお持ちしますか?』

「ううん、いらない」

 イスに座りながらイオは去っていこうとするメアリを制止する。

「待って……少し話をしない?」


 それからややして、ようやくカリストが洗い物を終えて厨房から出てきた。

「おう、カリスト。お前さんの恋び、いや、あのイオって友達が待ってるぞ」

「うん♪ えへへ~♪」

 カリストは嬉しそうにカウンタから出て、イオの元へ向かう。が、見ればイオとメアリが何かしら会話をしているのが目に入った……イオは少しだけ怒ったような顔をしている。

「? ……イ~オ~♪ お待たせ~♪」

「あ、カリスト……」

 ばつが悪そうに少し俯くイオ。

「なんのオハナシしてたのかなっ? オイシイ食べ物のオハナシ?」

「ううん……別に」

『では、イオさん、もうよろしいですか? 私にはしなくてはならないことがありますので』

「ん、ええ、もういいわ……よく判った」

 のんきでニブいカリストであるが、洞察力というか、場の微妙な空気を読むことのできる鋭い感受性を持っている。イオとメアリの間に何やら不穏な気配を感じずにはいられなかったが、取り合えず言及することをとどまった。

「……あのコ、メアリってゆんだよ」

「うん、聞いた。ロボットでしょ?」

 イオの口調には、どことなく嫌悪を感じさせる。

「そだけど……イオ、ロボットキライ~?」

「別に……キライってわけじゃないし、差別するつもりもないわ……ただ」

 そこまで言ってイオは少し困ったような顔をする。

「その……あなたはオヒトヨシで、誰にでも、それがロボットに対してでも……すぐ気を許してしまうようなところがあるから、それが少し気になって」

「? ……あはは~♪ そっかもしんないねぇ……だからイオともおトモダチなれたんだよっ♪」

 テレテレと笑顔で応えるカリストに、イオもつられて笑顔を見せてしまうのだった。


「ねぇねぇ♪ イオってば、ポツダムに来たときはいっつも親戚のおウチに泊まってるんだよねぇ?」

「そうだけど……それが?」

「えとねぇ、その、せっかくコッチに来てるんだから、えと……えへへ~♪」

「なによ……ハッキリ言ってほしいんだけど」

 カリストは恥ずかしそうにモゾモゾと身じろぎしながら言う。

「えとねぇ、イオ、わたしのお部屋にお泊まりしてってほしいなぁ……って♪」

「はあ!? 何を言って……!」

 思いっきり赤面しながら飛び上がるイオ。しかしカリストは真剣そのものだ。

「えとねぇ、わたしってば、誰かと長い時間いっしょにいたことないんだよねぇ……まいすたは優しいし大好きだけど、おトモダチってわけじゃないし……いっつもイオが来てくれてウレシイけど、2時間くらいしかいっしょにいれないんだも……」

「そ、そんなこと言っても、あんた夜の10時には眠くなってグニャグニャになるでしょ!?」

「起きてなくってもイイんだよ~♪ いっしょのお部屋にいたいんだよ~♪」

「パジャマとか着替えとか持ってきてないし、そ、それに、し、下着とか!!」

「そんなの貸したげるよっ♪」

「貸すって言ったって、あんた! いっつも寝るときハダカじゃないの!? パジャマなんて持ってないでしょっ!?」

「わたしは恥ずかしくないよっ♪ だからねぇってば~?」

「わ、わ、私が恥ずかしいのっ!!」


 結局イオは押し切られた。

『……まったく……あんたってコはホントに仕方ないわね……』

「えへへ~♪ えへへ~♪」

『ち、ちなみに! わ、私は、いわゆる“ツンデレ”じゃないわよ? そ、その……“ツン期”が無いから……』

「エンケラティスってば、ちょと恥ずかしがり屋さんなだけだよねぇ」

『そ、そう……ほんの少しだけ恥ずかしがりなだけ』

「……でも今はイオのオハナシだよっ? どしてエンケラティスが……」

『……あんた以外の人には意味は通じてるから大丈夫よ……はぁ……まったく……』

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