Другая точка зрения:шестой
漫然と月日が過ぎていく。私は相変わらず調子が出ないまま、何をするでもなく茫漠と日々を過ごしていた。生活費は会社から支給されるため生活に困ることはなかったけれども、元から趣味や娯楽に興味が無いということもあり、本当にただただ時間を無為に食い潰し続けていた。もしかしたら突然にもたらされるかもしれない、会社からの指示なり命令なりを淡い期待で待ちわびながら。
趣味や娯楽に興味が無い、とは言ったけど、実は多少は趣味があった。私は絵を描くのが嫌いではなかったので、住んでいるマンションのベランダや近所の公園などで、風景をスケッチなどして独り悦に浸るようなこともあった。実際はそこまで楽しいことでもないのだけれども、こうでもしていないと、本当に何のために生きているのか判らなくなる。友だちでもいれば、もっと鮮やかな楽しい人生を満喫できるのかもしれなかったが、バイオロイドという特殊な存在として生を受けたからには、同胞以外にココロを開ける気はしなかった。人間とバイオロイドとは、生きていく時間も価値観も違いすぎる。
でも、残念ながら私は誰一人として同胞に逢ったことがないのだ。恐らく(間違いなく!)、どこか、それもそう遠くはない場所で生きているであろう私の愛すべき姉妹たち。聞くところによると、バイオロイド同士は互いをバイオロイドであると認識していない限りは、目の前の相手がバイオロイドだとは気が付かないように創られているらしい。だから、もしかすると、街で、道端で、私はすでに彼女たちと邂逅しているかもしれない。
それでも私は、ココロのどこかで、それが例え愛すべき同胞であっても、もしかすると解り合えないかもしれないと思っている。普通に暮らしていても常にうっすらと死を意識していなくてはならない私は、本来ならばメンテナンスレスでも200年は自立稼働できるとされるバイオロイドにあって、あまりにも特殊すぎる。自分が際だって特別な存在だとは思ってはいないけれども、私の境遇と人生観を真に理解してくれる同胞はいない気がしている。こんな風に考えている私のことを私は少しだけ惨めに思うけど、少なくとも今の時点では誰も私のことを知ってはいない。私はやっぱりどちらかというと孤独なのだ。
そんなことを考えながら、私は暖かな日差しの下、ティーアガルテンで風景を素描していた。動物園も併設されているティーアガルテンは私のお気に入りで、散歩に出るときには決まって通るルートになっている。私は大きな糸杉を臨むベンチに座り、一見すると無心に、実際はモヤモヤと雑念に苛まれながらスケッチブックに鉛筆を走らせていた。
「またその樹を描いてるんだ? よっぽど気に入ったモチーフなんだね?」
唐突に背後から聞き慣れない若い男の声。私は面倒臭かったのと、もしかしたら私に話しかけているわけではないのかもしれないという考えから、男の声を無視することにした。男は居心地悪そうにううむと唸ってから、言葉を続けた。
「せっかくスケッチをしているところを邪魔しちゃったかな? なんなら日を改めるけど……」
男は心底から困ったような口振りだ。そんなに悪いヒトとは思えなかったし、そもそも私にコンタクトしてくるのだから恐らく会社のエージェントか何かだろう。
「……あなた、会社のヒト?」
「どうしてそう思う?」
「あなた、“またその樹を描いてる”って言ってた。私のことをずっと監視してたの?」
私は顔も上げず、男を顧みもせず、デッサンを続けた。男は取って付けたようにハハハと笑う。
「監視だなんて人聞きの悪い。君が何か困っていやしないか遠くから見守っていたんだよ」
「なら判っていると思うけど、私は何も困り事なんてない。充分に満ち足りた生活を送っているわ」
こういう時、まったく素直に応えることができない自分に呆れる。本当は(得体が知れない相手だったけど)誰かとこうやって会話できることに少し昂揚しているのに。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、男は再びううむと小さく唸ってから、言葉を探しているのか黙ってしまった。きっと私のことを気難しい、面倒な娘だと思ったに違いない。結局、私は自分で自分の尻拭いをすることになる。
「要件は? こうやって私にコンタクトを取ってきたということは、会社から何か伝言でも?」
ところが、それに対する男の言葉は意外なものだった。
「会社からの要件? そんなものないよ」
「……あなた、会社のエージェントでしょう?」
「まあ、そんなようなものだけど……でも、別に会社の指示で君に接触したわけじゃないよ」
男の声は朗らかな響きがあった。私は男のヒトと長々と会話したことがないから判断に迷うところではあったけれども、やっぱり悪そうなヒトじゃないような気がした。
「じゃあ何のために? 言っておくけど……私は男性に気に入られるような性格じゃないし、だいたい人間の男性には興味がないわ」
客観的に考えて、率直に言うと、私は世の男性が好ましく感じるような外見とスタイルの持ち主だという自覚はあった(こうやって街中にいるときに声を掛けられたことは1度や2度ではなかった)が、性格は他者に好かれるような部分がない。そもそも私自身は人間の男性に興味がなかった。私が会って話しをしたいのは、愛すべき同胞たち、血を分けた姉妹たちなのだ。そんな私の無愛想な態度に呆れるかと思ったら、男は意外と面白そうに笑い、暖かな口調で告げた。
「君らは本当によく似たようなトコロがあるね。まあ、今日はちょっとアイサツしてみようかなと思っただけなんだ。次はもう少し君が気に入りそうなハナシを持ってくるよ。それじゃまた」
「あなたは……」
私は内心でしまったと毒づきながら慌てて振り返ったけれども、もうそこには男の姿はなく、ただただ大勢の行楽客や通行人が行き来するばかりだった。




