Другая точка зрения:второй
平和な22世紀。対消滅発電技術の完成により、無限とも言えるエネルギーを得た人類は、有史以来の様々な煩悩から解放された。長らく有限とされてきた(それが本当かどうかは私は知らない)エネルギー資源……石油や石炭や天然ガスやメタンハイドレートやシェールガスや重水素や三重水素やウランやプルトニウムなどなど、そして、それにまつわる様々な問題と特権と利権、そういった煩わしい問題を考えなくても良くなったのだ(と、22世紀の人々は考えている。後で問題が発生したなら、それはその時代の人たちに頑張ってもらうしかない……人類はずっとそうしてきたのだから)。
エネルギー問題が解決したことにより、その他の資源の問題も一気に片が付いた。大型のオービターや宇宙基地の建設や運用も容易になったし、いまや衛星軌道上には宇宙資源加工用の無人大型プラントが所狭しとひしめき合い、近隣の小惑星帯とを行き来するタンカーが渋滞を作っている有様だ。莫大なエネルギーを用いて、限定的ではあったが、人類は天候や気候も制御できるようにもなった。今やアフリカ全土は世界の穀物庫として機能しつつあるし、地球が約50億年かけて育んだ自然を僅か数百年でメチャクチャにしてしまった人類だったけれども、多くの自然や生態系も回復の兆しを見せている。一度は絶滅したある種の動植物も、クローニングとバイオテクノロジー技術の発達により、常識の範囲内での再生を果たしてもいた(現に、私はティーアガルテンに行った際、21世紀中頃に絶滅したというアムールトラが生きて歩き回るのを見たことがある)。
旧世紀、エネルギーは、それすなわち「カネ」だった。エネルギーとカネを制する者が世界を制する。もしくは、世界を制そうとする者はカネかエネルギーを制そうとした。彼らはオイルメジャーだの軍産複合体だの、ロートシルトだのロックフェラーだの、ユダヤだのイルミナティだの新世界秩序だのと、とにかく彼ら自身が大声で喧伝しなくても、なかば都市伝説じみた風説として、いつしか世界が勝手に彼らを畏怖し、危険視し、崇拝した。これは彼らにとっては実に好都合だった。コトの善悪など問題ではなく、いかに悪辣で恐ろしい集団だと思われようが、結果的に自分たちの懐にカネとエネルギーが集まりさえすれば良かったのだから。彼らは世間が思うほどの実力は持っていなかったが、理論上“世界の王”だった。
だけれども、21世紀の終わり頃、対消滅発電とその理論とを、ほぼ完成させたアストラル技研は、それを無償供与というカタチで世界の隅々に広めた。中身がどうなっているのかは詳しくは公開せず、ただ求められれば、それを適切に運用できる範囲内で無償で供与した。実質的に、世界の王達は一夜にして素寒貧になったのだ。
その世界の王(そんなものは僭称に過ぎないけど)を一刀のもとに斬って棄てた私の会社こそが真の世界の王なんじゃないか……って? それは私には判らない。でも、蒼薔薇と白百合をモチーフにした社章が取り付けられた会社の制服を着ていると、なんだか悪い気分はしない。こんな私でも、会社や同胞のことを話すとき、少なからず誇らしい気持ちになるのだ。
前にも話したけど(たぶん話したと思う)、私はバイオロイドのくせに体調が悪いことが多い。なぜかというと、普通のバイオロイドが直筒式の対消滅炉で動いているのに対して、なぜか私は、回転子によるオットーサイクル式の対消滅炉を積んでいるからだ。判りにくい? なら、旧世紀のクルマのエンジンに例えると判りやすいかもしれない。普通のバイオロイドの直筒式の対消滅炉は、普通のエンジン……つまりレシプロエンジン。実際に、私くらいの体格のバイオロイドは、直列4気筒の対消滅炉を積んでいることが多い。小型で低コスト(それでも小さな国の国家予算くらいの値段になるけど)、放熱力の割に全域で安定した出力特性だけれど、発電効率は悪いと言われてる。ハイエンドタイプのバイオロイドには直列6気筒の対消滅炉を搭載しているらしいけど、実際に見たことはない。ホントに存在しているかも判らない。
一方、私に積まれてるオットーサイクル式の対消滅炉は、理屈的にも形状的にも、まさしくロータリーエンジンそのもの。2基のロータリーエンジンから得られる出力は、直4対消滅炉搭載バイオロイドの約2倍に達する。つまり、私には直列8気筒の対消滅炉が積まれているに等しい。私が搭載しているプロセッシングスイートは戦闘用バイオロイドとしては一般的なもので、それほど消費電力は大きくはない。なので、対消滅炉から出力された多大な電力の大半を全身のリールモータに回すことができる。つまり、私の機動性能は一般的な戦闘用バイオロイドの域を遙かに凌駕している……というのはカタログスペック上のことで、現実のオットーサイクル式の対消滅炉の運用の難しさは私自身が身を以て知っている。とにかく日常域での出力が貧弱な上に安定しない。出力を目一杯に上げている限りは、安定して力強い発電を行うことができるのだが、日常生活でそんなことをしていたら、内熱過多であっという間に燃え尽きてしまう。私のハートは熱にも凄く弱いのだ。だから、普段の私は動けなくなったり横になったりして過ごしている。時々意識が朦朧とすることもある……バイオロイドなのに病弱なのだ。
そんな不便なオットーサイクル式の対消滅炉を持つ私の主任務は、そのオットーサイクル式の対消滅炉のデータ取りに他ならない。有益なデータを収集していけば、私の日常生活も活気あるものになるかもしれない。そんな一縷の望みをムネに、私は、私自身を生かすために、生きている。