Другая точка зрения:первый
俺の名はレオーノフ。フルネームだとギオルギ・レオーノフ。もっと詳細に言うなら、ギオルギ・アレクサンドロヴィチ・レオーノフ。名前を聞けば言わなくてもおおよそ判るだろうが、ロシア人だ。もっとも、我が祖国ロシアは、いまや国体を維持していない。俺が生まれるよりも半世紀以上も前に、民族紛争やら宗教紛争やらで国は幾つにも分裂し、それぞれが新しい国になったそうだが、結局その後、このご時世だ、もはや「国」という概念自体がナンセンスなモノになってしまったらしく、それぞれの新国家は自治区と名を変え、いまや各個が好き好きにやっている。
物心ついてから爺さんの書庫で旧世紀の地図や国家白書を見たことがあったが、そもそもロシアの国土は広大すぎたし、その広大さに見合うだけの人口も産業も無く、唯一の拠り所と言えた天然資源も枯渇することはなかったが、対消滅発電なる無尽蔵に湧き出る新しいフリーエネルギーの登場によって、周辺国に電気やガスや石油を売りつけるという商売が成り立たなくなってしまったものらしい。結局、それが引き金になって、国はバラバラになって消えてしまった。
それでも俺の祖国はロシアだ。俺はヴォルゴグラードで生まれ育った。旧名のスターリングラードという呼称の方が有名かもしれない。俺は平凡な家庭で平凡に育った。どこかしら陰鬱な雰囲気を漂わすロシア男の中では、むしろ社交的で陽気な部類だったと思う。かつては「暗い、寒い、貧しい、酒浸り」といったイメージが強かったロシアだが、俺が生まれた頃には随分と人々の暮らしも底上げされていたようで、親は安月給の機械工と平凡な主婦だったが、いつもカネがないカネがないとはグチを吐いてはいたものの、実際のところ、そこまで困窮している様子は感じられなかった。
お陰様で俺は大学まで出たが、いざ仕事を探すとなると大変だった。ドイツみたいな大国はともかく、ロシアではさすがにそこまでの生活保障制度は確立していない。自治府は身障者や年寄りどもの面倒を見るので手一杯で、壮健な若者はやはり仕事に就かなくては生活できないのだ。まあ、最悪はなんとかしてくれるのだが、少なくとも大学を出たての俺は仕事を得て働いてカネを稼ぐのが当然のことで、そうすべきだと考えたのだ(当たり前だろう?)。大学に入る時点で俺は何かの研究者にでもなろうかと思っていたが、そううまくはいかなかった。結局、仕事が見つからないまま大学を卒業し、仕方ないので当座を凌ぐために幾つかのアルバイトを転々として過ごした。
その頃、大学で知り合った女と半同棲のような暮らしをしていたのだが、つくづくタチの良くない女で、俺のなけなしのカネを相場やら博打やらに使い込んでいた。そこまでは見て見ないフリをしてやれていたのだが、いよいよ借金まで作っていたと発覚するに至って、ついに俺にそれを押し付けて、賭場の胴元と一緒に姿を消した。さすがに俺は敢然と怒りを覚え、見つけ出して追求してやろうと方々を探し回ったが終ぞ発見できず、諦めるより他なかったのである。しかし数日後、女は胴元と一緒に橋の欄干に吊された状態で発見された。どうやら逃げるにあたって胴元が上納金を持ち逃げしようとしたらしい。
結局、女は俺の怒りから逃れるために逃げたわけではなく、単に他に男ができたから逃げただけだったのである。いつも真実なんてこんなモノだ。だがしかし、女が残していった借金は事実として俺に重くのしかかった。女が死んで、数日も経たないうちに、件のマフィアが俺の元へやってきて借金の返済を催促するようになったのである。しかも、借金の元金を上回る金額の迷惑料が上乗せされていた。俺がマフィアに何の迷惑をかけたというのか。もちろん俺には関係のないことだと突っぱねたが、裏切り者を橋から吊すような蛮族じみた、かつ恐ろしく非効率的な行為を喜々としてやるような連中に、そんな理屈は通用するわけがない。結局、俺は少しばかり痛い思いをした後に弁済することを快諾させられた。
しかし、カネになる仕事はなかなか見つからない。見るに見かねた連中は(というか最初からそれが狙いだったのかもしれんが)、俺に仕事を周旋してくれた。結局、その好きでもない仕事、むしろ唾棄すべき忌々しい仕事を、以来、俺は生業にしている。もう借金(?)は完済し、マフィア共にも何の義理もない。抜けようと思えばとうの昔に抜けることもできたし、今でも抜けることはできるはずだ。だが、若き日に歩むべきだった道をひとたび逸れてしまった俺には、戻るべき平和な日常など無い。時折、俺はサイコパスや生まれながらの反社会的存在なのではないか、実はこの仕事こそ一生涯を殉ずるべき天職なのではないか、などと他人事のように思うこともあったが、実際どうなのかは俺には判らない。
今や完璧な平和を手に入れたと言われる世界の趨勢に背を向けた、旧世紀の職業。俺はカネさえ貰えればイデオロギーも信条も持たず、どこででも誰とでも闘う戦争の犬、傭兵だ。