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KallistoDreamProject  作者: LOV
その3:共鳴しない娘、やがてすべてが一点に
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第45話

 若干の拍子抜け感に釈然としない部分もあるにはあったが、イオはカリストに少しだけ歩み寄り、手を差し伸べた。

「ほらっ! 私がクイズに勝ったんだから、四の五の言わないで還るわよっ!」

 だが、カリストは妙に余裕のある表情でイオに相対する。

『えへへ……クイズに全問正解したら還るなんて言ってないよ~♪』

 ノラリクラリと笑うカリストのカラダがゆっくりと透けだし、その足元に何やらよく判らない光の粒子が渦巻き始める。だが、特にカリストは苦しむでも抵抗するでもなく、すでに易々とヒザ下まで光の渦に呑み込まれつつあった。

「あっ!? カリストっ!?」

『待ってるよ~♪ そいじゃね~♪』

 イオが駆け寄るよりも早く、カリストはにこやかに手を振りながら真空トイレに流される何かのようにスポンと渦の中に消えていった。あまりに予想外の展開にイオは愕然とするより他ない。

「えっ!? ちょっ……!? えっ!?」

「……うふふ……心配には及ばないわ、愚かしくも可愛らしい私のイオ」

 リリケラの声がイオの背後から肉声で(と言っても仮想空間内なので厳密には肉声とは言い難いのだが)聞こえてきたので、イオは多少は冷静さを取り戻した。いつの間にか周囲は単に薄暗いだけの、閑散とした空間になっている。もはや四方を取り囲む巨大なスタンドも大歓声もなく、カリストが用意した「お姫様ベッド」も消え失せていた。

「あの娘は……カリストは、自分の意識下に沈んでいったわ。この空間はカリストの“自意識の壁”で、それをあなたが(そして私が)突き崩した。カリストのような鷹揚な娘でも、自分を護るための“殻”を持っている。もちろんあなたにも、私にもある……」

 薄暗がりの中から揺らめく蜃気楼のようにリリケラが姿を現した。今は光のカタマリのような姿ではなく、いつもと同じようにメイド服を着た幼女の態を為している。驚くべきことに、その声色と表情と佇まいは、これが同一人物かと疑いたくなるほどに今までに見聞きしたことのない落ち着いた穏やかな、そして清らかなものだった。こうして見ると、この世に創られたありとあらゆる被造物の中で最も気高く完成された造形を持った存在なのではないかと思わずにいられないほどの、寒気がするような美しさだ。

「……じゃあ、私はあのコを傷付けた?」

 イオが怖ず怖ずと独り言のように呟くと、リリケラは暖かな瞳をイオに注ぎながら諭す。

「そんなことはないわ……あなたが気にすることはない。あなたはカリストを連れ還るために来た。率直に言うと、私の到来も含めて、こうなることは判っていたの。あなたが来たから、なるべくしてこうなった。すべては必然で、これはカリストが望んでいることでもあるし……」

 そしてリリケラはイオの足元を指さす。イオが驚いて見れば、自分の足元にもカリストを連れ去ったものと同じ光の粒子の渦が生じ始めていた。

「えっ!? あっ……!?」

「なにひとつ畏れる必要はないわ……今からあなたは“カリストの内側”に迎え入れられる。良いことか悪いことかは別にして、バイオロイド同士であっても、これはそう滅多には起こりえない」

「だってっ、コレっ何っ!?」

 リリケラが畏れる必要はないと言うのだから、間違いなくそうなのかもしれなかったが、それでも自分の身に何が起きつつあるのか、まったくワケの判らないイオは反射的にリリケラに手を伸ばす。回転する光の渦は速度と密度を増しながら、すでにイオの脚を侵蝕し始めていた。

「しっ、死ぬっ!? ととと融けるっ!?」

「……まったく……ここまで私に世話を焼かせるのは、イオ、あなただけ」

 リリケラは溜め息を吐きながら、差し伸ばされたイオの手を優しく握った。

「私のイオ……あなたがカリストの魂に触れたとき、もしかしたら多少の失望を感じるかもしれない。でも、これだけは憶えておいてほしい……カリストは無限に拡散する電子の海の中、あなただけを待って独り漂っている。余人は陳腐と笑うかもしれないけれども、これは、誰でもない、あなたとカリストが決めた宿命のようなもの。誰しもが望んでそのような素晴らしい生き方を自らに課すことはできない。もし、あなたたちが深く傷つき自らが選んだ人生に失望するようなことがあったとしても、あなたも、そしてカリストも、自分の宿命を誇って構わない……誇るべきなの」

「……リリケラ……!?」

 相変わらず暗示めいた言い回しで何を言っているのかイオには真意の酌み取れないリリケラであったが、イオはその手の温もりを感じた。そしてリリケラは笑顔を見せた。確かに笑顔だった。

「お往きなさい、イオ。すぐそこでカリストが待っている。あなたたちが選んだ人生が何者にも侵されることのないことを、あなたたちは自らの手で示さなくてはいけない」

 力強いはなむけの言葉と共にリリケラがそっとイオの手を離すと、イオはたちまちにして光の奔流に呑み込まれたのだった。

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