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KallistoDreamProject  作者: LOV
その1:長閑な喫茶店の看板娘に関する事案
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第10話

 アルバイトの出勤日にはイオが遊びに来るため、カリストにはそれ以外の日に喫茶店へ顔を出してメアリと触れ合うという新しい「日課」と「趣味」ができた。そうすることによってオーナーから昼食を食べさせてもらえるというオマケも付いたので、実益の面でも申し分ない。


「……そいでねぇ、ツチノコちゃんが藪の中に住んでるんだって~♪」

『申し訳ありませんが、もう一度お願いいたします』

「ツチノコちゃんが藪の中に住んでるんだよ~」

『その“ツチノコ”とは何でしょうか? 私のデータベースには該当する項目がありません。宜しければ私のデータベースの増強のため、新語として登録させて頂きたいのですが』

「んう……」

 カリストとメアリの遣り取りを傍で眺めていたオーナーは爆笑している。

「こりゃ笑える。ははは!」

 だが、基本的に真面目なカリストは丁寧に説明を始めた。

「えとねぇ、ツチノコちゃんって、ヘビちゃんの仲間なんだよ。日本(ヤーパン)全土で大昔から何度も目撃されているんだけど、今までだあれも生きたまんま捕まえたことないんだって~♪」

『……それはいわゆる“未確認生物”の一種なのですか?』

「んう……そゆふにゆうヒトもいるみたいだけど、わたしは絶対にいると思うんだよねぇ」

『その根拠はあるのでしょうか?』

「ぜ~んぜんないよ~♪ だって、いないよりいるのが楽しいんだも~♪」

『……はあ……そうですか』

 とうとうロボットにまで呆れられる哀れなカリスト。

日本(ヤーパン)にもいるんだから、ぜったいにこの国ドイッチュラントにもいると思うんだよねぇ……」

『そうだと、よろしいですね』

「うん♪ そのうち、きっと見つけるよっ♪」

 いつしか「カリストがメアリに構ってもらっている」というような状態になってしまったが、カリストの性格からすれば当然の成り行きとも言える。いずれにせよ、カリストとの会話によってメアリは急激に言語系とデータベースを増強しつつあった。

『カリストさんのお話は私にとって非常に興味深く、とても面白いです』

「えへへ~♪ そっかなぁ♪」

『ですが、カリストさんの話す言葉には幼児語が多く、一部に特殊な発声が含まれるため、私は良く聴き取れないことがあるのが残念です』

「んう……」

『ですが、カリストさんは小学生コドモとしては知識も豊かで、とても立派だと思います』

 ついにメアリにヘコまされるカリスト。オーナーは遠慮なく笑っている。

「ふははは! 知識豊富な小学生コドモか、これは笑える。ははは!」

「んう~? まいすた~? そんなにヘンかなぁ……」

 困ったような、恥ずかしいような、カリストは顔を赤らめる。

『カリストさん、私はそのようなつもりで言ったわけでは……申し訳ありません』

「んう……メアリはぜんぜん悪くないよっ♪ まいすた~ 笑いすぎだよぉ」

「くくく……す、すまん……ははは……あ、しかし、確かにそうだな、お前さんは子供で怠け者のくせに妙なことを色々知ってるなあ……学校に行ったことが無いって言ってたが、自分ひとりで勉強したのか?」

 そんなオーナーの何気ない一言に、カリストはドキリとし、一瞬だけ言葉を継げなくなる。

「……あ、えへへ~♪ エライでしょ~?」



  わたしってば……

  なんでケーキとか作れるんだろ

  なんでツチノコちゃんのこと知ってるんだろ

  バイクも改造できるよ

  カエルちゃんのこと詳しいよ

  虫ちゃんの名前も知ってるよ

  模型もじょうずく作れるよ

  お酒がお砂糖からできること知ってるよ

  なんで色んなこと知ってるんだろ

  だって、なあんにもお勉強したことないのに、どこで憶えたんだろ?

  なんで昔のこと憶えてないんだろ

  なんでおとぉさまもママもいないんだろ

  なんで女のコとフカフカおムネが好きなんだろ

  いつから「施設」に住んでたんだろ

  「施設」ってなあに?

  わたしってば、なんなんだろ……?



 エンケラティスも言ったように、これまでそんな重大なことを真面目に考えようとしなかったカリストが悪いのだが、一度そう考えてしまうと様々な疑問が沸々と湧いてくる。

 わたしは、どう考えても不自然だ……そう感じた。


『どうしたのよ? あんたの方から通信入れてくるなんて珍しいわね?』

「ねぇ……エンケラティス?」

『なによ? おカネが無くなったの?』

「……わたしってば、なんなんだろ……?」

『はあ? 今になって何かと思えば……。とにかく、あんたはあんたよ、あんたはカワイイだけが取り得のカリストちゃん……べ、別に褒めてるわけじゃなくて、こ、これは単なる皮肉よ皮肉!』

「う、うん♪ えへへ~♪」


 結局、カリストはエンケラティスに訊くことができなかった。訊いたところでエンケラティスは答えることができないだろうし、何よりエンケラティスに悪く思えたからだ……いつもなら美味しいものを食べて寝て起きたらケロッと忘れるカリストだったが、この疑問は薄らぎつつも次の日も胸の奥に引っかかっていた。

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