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KallistoDreamProject  作者: LOV
その1:長閑な喫茶店の看板娘に関する事案
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第1話

純粋な意味ではSFじゃないかもしれません。

少しだけGLや少女愛モノですが、直接的な表現はありません。

「なんちゃって百合」程度の感じです。

拙い文章と内容ですが宜しくお願いします。

 旧来、ロボットと言えば人間の代わりに何かしらの作業をするために造られたモノであった。


 それは必要に迫られて、あるいは単なる人間の科学技術に対する向上心やら探求心やら、そういうのを原動力に開発が進められていたらしい。工場やプラントで人間の代わりに作業を行っていた無骨な機械群は、やがてサイエンスフィクションの世界をなぞるように四肢と頭部を持つ人型の体躯を手に入れた。

 最初はヨチヨチと頼りなく、やがて走ったり躍ったり、お世辞にも豊かとは言えない語彙を懸命に並べて片言に会話したりするようになった。合成音声と表情を得て、喝采で迎えられたり薄気味悪がられたりもした。

 ここまで辿り着くまでに一世紀を丸々使ったが、人類(と言うか、一部の熱心な技術者や科学者)は確かな手応えを感じ、自らの努力に満足していた。


 これはそんなロボット開発の創世記にあった先人達が夢見た人間のようなロボット、人間と見分けのつかない外観、人間と見分けのつかない立ち振る舞い、人間のように感情を、魂や心らしきモノを持ったロボットが実在する時代の物語である。



 22世紀の半ば頃、人類は相変わらず地球に住んでいた。

 宇宙コロニー移住やテラフォーミングは実行されていない。そんなことをしなくても何とかなっている。人口の増加は数十年前から頭打ちになっていたし、エネルギー問題も解決していた。

 このエネルギー問題の解決は大きい。これは対消滅発電が実用化されたためだ。お陰で石油を掘る必要もなくなったし、石炭を燃やす必要もなくなった。人類が生み出した最も高度で危険で得体の知れない発電方法に(半ば嫌々)頼る必要もなくなった。排気ガスだの地球温暖化だの海面上昇だの異常気象だのが一度に片づいた。

 ほぼ無限に手に入るエネルギーはあらゆるモノの製造コストに影響を与え、物価も大幅に下がった。多くの後進国での食糧難や衛生難も解決した。世界的に貧富の差が無くなり、紛争や戦争も極端に減った。

 企業間の競争意識も薄れ利益追求の意義も無くなった。あらゆる産業が公共事業のようになり、もう粗製濫造された製品を騙して売りつけるようなことをしなくても良くなった。

 宇宙コロニーは実用化していなかったが、代わりに近隣の小惑星帯に大型プラントを造って、そこから多くのレアメタルや純度の高い鉱物資源を手に入れることもできた。無重量下で精製した新しい合金や素材は様々な分野に投入され、そこから更に新たな科学技術が生み出された。


 まったく良いこと尽くめだ。


 まさかこんなことになろうとは、と、誰もが驚いた。有史以来、人類の将来へ対する漠然とした不安は多かったが、それは世界的な核戦争、治療不可能な疫病の蔓延、食糧難、資源の枯渇、地球規模の気象異常……こんな類だったはずだ。

 ところが人類は結果的に何となく問題をクリアしてしまったのだ。


 そして、5年経ち、10年が経った。まったく問題がない。


 世界は平和そのものだし、働かなくても生活できる。飢えも貧困もない。犯罪も激減だ。政治家はウソを吐く必要もなくなり、国家間ではハラを割った話し合いがなされている。幾つかの国は合併したり、民族という区別を撤廃したりした。


 やがて、20年経ち、30年が経った。


 ほとんどの企業が赤字収支になったため国の管理下に置かれた。カネのために他人を騙したり利権を奪い合ったりする必要がなくなった。すべての国でGDPの伸び率がマイナスに転じていたため、統計を取るのをやめてしまった。世界的に通貨が統一され、為替も関税も廃止された。


 気が付けば、40年経ち、50年が経った。


 どうやらこの平和は本物らしい。この10年、小さな地域紛争が1回あっただけで、戦争と呼べるほど大きな戦争もなかった。もう隣の芝生が青く見えることはない。


 ついに人類は真に平和な世界を手に入れたのだ。



 ドイツのとある都市。人口は約50万人ほど。その多くは失業者だ。働きたくても仕事がないし、働かなくても政府の手厚い保護があるから、それなりに生活できる。

 街の中程には同じデザインの巨大なマンションが並び建っている。これは独身者用に建てられたもので、この区画だけで男女合わせて5万人近い独身者や学生が住んでいるのだ。

 入居料、水道光熱費、通信料は一切が無料。さらに失業している者、収入の途がない者には、充分な生活費が定額支給されるという好待遇ぶりだ。概念的には生活保護であるが、社会保障制度が徹底されていると言うべきだろう。

 このテのマンションと待遇はドイツ中、いや世界中の都市に存在しているので、特に珍しいことではないし、誰に恥じることでもない。この時代では当たり前の社会保障であった。


 斜違いに並んだ巨大マンションの一棟、最も日当たりの良いG棟の最上階30階の最も奥まった所にある一室に、この物語の主人公が住んでいる。もう朝の10時も過ぎようとしているのに、まったく起きているような気配がしない。まだ寝ているらしい。


 部屋の中は簡素なものだった。キッチン付きワンルーム風呂トイレ別、という案配だ。生活保護を受けている独り身ゆえ、これ以上を望むのはワガママと言えよう。余人はいざ知らず、窓際のベッドで丸まっている当人は満足していた。

 家具類は非常に少ない。チェストが一竿、冷蔵庫、小さな食器棚、ベッドサイドにテーブルと椅子、この程度だ。

 テーブルの上にはこの時代の必需品である汎用通信端末(MT)が置かれているが、それ以外にコレと言った電子機器の類はない。

 そんなわけで部屋は少しばかり殺風景ではあったが、清潔で小綺麗に片付いていた。


 ややして丸まった毛布がモゾモゾと蠢く。ようやく部屋の住人が目を覚ましたらしい。

 毛布の一端が捲れて、そこから手が突き出される。手は枕元を何度か探索し、そこに畳んで置いてあった着替えを発見、それを掴むと再び毛布の中へ戻っていった。

 その後、毛布にくるまったまま身体を捩ったり伸ばしたり……どうやら寝たまま服を着ているらしい。相当の横着者ではあるが、すっかり慣れているのか、すぐに動きは止まり、再び静まった。

「……ぐう……」

 毛布の中からは安らかな寝息が漏れている。


 さらに1時間ほどが経過した。もう昼の11時である。ここまでくると朝寝坊と呼べるようなレベルではない。普通なら昨晩に深酒でもしたか、夜更かしでもしたかだ。しかし、実際は酒も飲んでいないし、夜更かしもしていない。単に眠たがりなだけなのである。

 なかなか目を覚まさないことに痺れを切らしたかのようにテーブルの上のMTが鳴動し、通信が入ったことを知らせた。何度か呼び出し音が鳴った後、強制的に接続される。

『カリスト? カリスト? ねえ? もしかしてまだ寝てるんじゃないわよね?』

 呆れたような少女の声に丸まった毛布の塊がモゾモゾと反応する。

『寝てるのっ!? まだ寝てるんでしょっ!?』

「んう~、まだ11時だよ~?」

 毛布の中から間の抜けた声が漏れてきたのだった。

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