表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

13.素顔で笑う(2)

 ピンポーン。

 柔らかいチャイムが鳴る。お由宇は留守だ。急ぎ足で玄関に向かう。

「お届け物です」

「はいはい、ハンコね」

「サインでいいです、ここ」

 運送会社の男は箱の上をひょいと示し、ボールペンを差し出す。

「滝、志郎さん、ですね」

「……?」

 俺の名前を確認する相手の口調に、ふと気になるものがあった。目深に被った帽子の下を覗き込む。今日は曇り空で日差しも強くない。なのに顔の半分が隠れるほどの被り方だ、まるで見られることを想定して隠しているように。

「そこで覗き込む? 相変わらず遠慮ないね」

「……鵲…?」

「で、そっちを呼ぶ。呆れました」

 帽子を少し押し上げ、顔を見せた男はにやりと笑った。

「運送会社に勤めてたのか!」

「そんなワケないでしょ」

 第一、運送会社にナイフの腕は必要ない。

 言い切られてどきりとする。

「…殺しに来た…のか?」

 瞬間、ああ『俺の死んだ日』を石路技に送っておいてよかったと安堵した。とりあえず1作分は保つだろうし、次回作までに誰か他に書ける奴を見つけられれば、『高王ヒカル』は何とかなる。編集やってるんだから、そういう相手と出くわす可能性も高いだろう。

 けれど鵲はあっさりいなした。

「まさかそんな」

「だよな」

 思わずにへらと笑い返す。

「そんな暇なことしないよな、俺を殺しても何のメリットもないし」

「デメリットしかないよ、僕はあなたの盾だしね」

「へ? たて?」

「そうそう、そのホタテ。美味しいよね!」

「ああ、ホタテな、うん美味しいな、え、荷物はホタテなのか? 誰から?」

「ああ酷い。なんて馬鹿だろう、困った」

 鵲が大きく深い溜息をついた。

「こんなのを守れなんて無理です嬋娟チャンユエン。僕が何をした?」

「ちょっと待て」

 よくわからないが、凄く罵倒されている気がして来た。

「お前は何をしに来たんだよ」

「見てわかるでしょう。荷物の配送。それ以外に何に見える? はいサイン」

「あ、うん……」

「ありがとうございまーす。ああそれから」

 言いたいことだけ言って荷物を俺に押し付けた鵲は、帽子をまた引き下げて、

「仕事は朝倉家の執事見習いです。高野さんが病んだので」

「へ?」

 呆気にとられる。

「執事が配送業者をするのか?」

「だーかーら」

 うんざりした顔で振り向く相手が、一瞬微かに眉を顰めて気がついた。

「知ってるだろうが、あそこは危ないぞ? まだ傷治ってないんだろう? 他の仕事の方がいいんじゃ」

「ダーーカーーラ」

 おもちゃのように虚ろな声で応じて、鵲は顔を歪めた。

「それでもあそこしかないんですって。しかも何で気づくか、怪我知らないでしょ?」

「あの時刺されてたんだろ? 人1人担いで無茶したろ?」

 あいつはどうした。

 それを口にする前に、鵲はくるりと背中を向けた。

「あなたは僕が死んだら悲しみます?」

 突然理解した。

 そうか、こいつも周一郎やお由宇側だ。俺の理解を越えてるのに、自分勝手に話して完結するタイプだ。なら、俺に言えることは1つ。

「俺がらみで死んで欲しくない」

「………はあああああああ」

 鵲は大きく深く、もう一度溜息をついた。

「わかりました。僕、嫌がらせのためにあなたを守って死にますね」

「はい??」

 いや、俺、死んで欲しくないって言ったよな? 俺がらみで死ぬなって伝えたよな? 

「嫌がらせ?? 俺が何かしたか?」

 鵲はじろりと肩越しに冷たい目を向けて唸った。

「人生を変えた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ