前編「再会」
「久しぶり。大きくなったわね」
宅急便か何か、あるいは新聞の勧誘だろう。そう思ってドアを開けると、俺の部屋の前に立っていたのは、見たこともないような美人だった。
つやつやと輝く長い黒髪が、赤いワンピースによく映える。
裾は下品にならない程度に短く、また、上はノースリーブなので、すらりとした手脚が、これでもかというくらいに強調されていた。
スレンダーな体型とは不釣り合いにならないような、適度に豊満なバスト。細いけれど華奢という印象は与えない、女性的なウエスト。肉付きの良い、思わず触りたくなるようなヒップ……。
全体的に、とても大人な雰囲気の女性だった。
しかし、よく顔を見ると、美しいだけでなく、はっきりとした若さがある。童顔というのとは違う。年相応の『若さ』だ。
どう見ても学生ではないが、おそらく、大学生である俺と同じくらいの年齢なのだろう。
最初に『見たこともないような美人』と思ってしまったが。
第一声が「久しぶり」なのだから、知り合いのはずだ。もちろん、現在のではなく、遠い昔の知り合いだ。
ずっと会っていなかった同級生だろうか?
そんな俺の戸惑いを見て取ったようで、彼女はフフフと笑いながら、自己紹介する。
「亀田鶴子よ。……と言っても、私の名前なんて覚えてないでしょうけど」
「いや、覚えてる」
反射的に、俺は、そう返していた。
亀田鶴子。
亀田という苗字は結構ありふれているし、鶴子という下の名前も、そこそこ珍しいけれど「いてもおかしくはない」という程度だろう。ところが、二つ合わさると、非常識のレベルが格段に跳ね上がる。
いったい、どこの漫画のキャラクターだ。親は何を考えて、こんな命名をしたのか。
昔はそんなことも思ったが、今になって考えてみると……。なるほど、こうやって「一度覚えたら忘れない」という強い印象を残すためだったのかもしれない。
ただし、俺が彼女の名前を覚えていた理由は、その名前そのものの奇妙さだけではなかった。あれは、まだ俺が小学生の頃……。