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ゲートのある塔へ向かっていると、横から気配がした。
塔へは一応道のようなものがあるため、横からくるのは魔物だろう。だが、少しして、追うようにもう一つ気配がした。
こっちはおそらく冒険者だろう。なら、ここは手を引く。
ザッ
現れたのは紺色の毛並みをした犬のような見た目をした魔物―――「コボルト」だ。
防具を着ているが、逃げるために四足歩行していた。
道に出た瞬間俺たちに気づいたのか、面と向かうよう体制を立て直したが、その一瞬が命取りとなった。
「ガアァァァ」
ドスッ
「Ga――」
追ってきた猫っぽい獣人が血走った笑顔で、魔物の背中に全体重のかかった一撃をくらわせて倒した。
「フゥ、フゥ、フゥ……」
『こいつ、一応人だよな……核はあるが……明らかに普通じゃない。……あ、目があった。』
「オス……オス!」
「まて、近づくな!「ベチャ」……」
静止を聞かずくっついてきたため、俺の服も血に濡れた。
仕方ないので「クリーン」をかけておく。
「レイ。その子、誰?」
「知らん。だが、多分発情してる。」
「クンクン―――!?―――キュ―――……」
「……なんなんだ、次から次へと。」
抱きついて匂いを嗅いだと思ったら、突然驚いて、今はお腹を見せて寝転がっている。
「はぁ、やっと―――っ!?」
ザッ!
今出てきたのはさらに後を追ってきた気配達だ。
一瞬、応援のコボルトかと思い剣に手をかけたが、同じ言葉を話したので抜くまでには至らなかった。
ただ、それと同時に全員が俺たちの方に跪いた。
「……ほんと、一体、なんなんだ?……」
「あのーえっとー……自分っ。じゃなかった、えー、わ、私の名前は、ロウガって言います、です。」
「そのーなんだ。俺ら冒険者同士だし、タメ口で話してくれないか?」
「いいんすか!?ありがとうございます!」
「改めて、自分の名前はロウガって言うんす。Bランクパーティ「月下の遠吠え」のリーダーやってるっす。」
「俺はレイだ。Bランク冒険者で、二人とは一応パーティを組んでる。名前はないがな。」
ロウガは狼の人獣で今は初心者の訓練をしているらしい。
初心者というのは、双子の猫の獣人のシーニャとナーニャだ。
ちなみに俺を襲ったのは姉のシーニャの方で、今はシエラにお腹を撫でられている。
本人は涙を流しながら助けを求めてる顔をしている。
「一つ聞いていいか?」
「答えられることなら。」
「―――なんでさっき、俺らに向かって跪いた。」
「…………それは……」
ロウガの視線がシエラの方へ流れる
「シエラが姫さまってのに関係してるのか?」
「っ!!そおっす……知ってたんならまあいいか……獣王とその子供には、特殊スキルが与えられて、それは、俺ら人獣やシーニャ達獣人に対して、威圧に近いものを感じさせるものなんっす。」
「どんなスキル名なんだ?」
「「獣王」と「獣王の子」ていう名前っす。ただ、子供の方は、本人にその意思がなかったら、何も感じないっすね。」
「なるほど。じゃあ、あの時、シエラがそのスキルを使ったから、ロウガ達は威圧されたってわけか。」
「そおっすね。」
ちなみに、今シーニャがお仕置きを食らってるのは、単純にシエラの逆鱗に触れたからだ。
獣人や人獣は人よりも鼻がきき、シエラの匂いが付いている俺と交尾(人獣は性にオープンなのか、ロウガが悪びれもせず言ってた)しよとしたのがダメだったらしい。
「そういえば、なんでシーニャは発情してたんだ?」
「それがっすね、ここら辺に人獣や獣人を発情させるヤバい花が咲いてるんすよ。こう、薄紫色の……あ、ちょうどナーニャの近く花―――って、ヤバい!」
ロウガが、すぐさまナーニャに近づき花から引き離した。
「大丈夫か?なんともないか?」
「う、うん。」
「えっと……ごめんなさい。何か悪いことしちゃったかしら?」
とセレナ。
どうやら花が綺麗だったらしくナーニャと一緒に見ていたようだ。
「あ、いえ、大丈夫っす。この花を嗅がなければ問題ないっすから。」
「え、……私嗅いじゃったかも……」
「あー問題あるのは人獣や獣人すから。」
「あ、そうなの。ごめんなさい、ナーニャちゃん。」
「い、いえ!大丈夫です!」
「それがロウガの言ってたヤバい花か?」
「そおっす。だいぶ近づかない限りは大丈夫なんすけど、さっきみたいにするとダメっすね。」
「なるほど。」
俺はそう言い、花に近づき、引っこ抜いてアイテムバックにしまった。
「「!!!」」
「どうした?」
「あ、いや〜。一応、手、洗ってくださいっすね。もしものことがあったら大変っすから。」
「なんだ、そういう事か。」
一応全身に「クリーン」をかけておく。
「(あの、その花枯れると、発情を抑制させる薬になるっすから……)」
「(なるべく早く使えと?)」
「(いや、まあ、使うとは……)」
「(ふん。今のは悪かった。忠告ありがとう。)」
ちらっとシエラの方を見ると、背中を向けているが尻尾が荒ぶっている。あれは嬉し恥ずかしいときによくなる動きだ。
耳がいいから俺たちの会話を聞いてるだろうけど、どこにそんな要素があるのかさっぱりワカラナイナー