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頼みたいこととは、臨時でパーティに入ってくれ、というものだった。
このパーティは橋を揺らされて落ちたパーティだ。
俺は早く向こうに行ける。パーティは橋を渡れる。互いの利害が一致したため、入ることにした。
わかりやすいように目配せしたが、向こうもそれがあってこそ、俺を誘ったのだろう。
やったのは俺だが正直言って、あそこまで行って、また振り出しに戻るのはめんどくさい。
あのまま行ければ、頑張ったね、よかったねで済むはずだったのに……
俺が入ったパーティはあっさりと橋を渡り終えた。
やはり、橋が揺れなかったことが大きいだろう。
渡っている最中、特に足が止まることがなかった。
「ありがとう、助かった。」
「お互い様だ。」
二人は、少し離れたところにいた。
そして、俺がパーティと別れると近づいて、セレナが抱きついてきた。
「っ、どうした急に。」
「……ごめんなさい。足手まといになっちゃって……」
「そんな事か。別にいいさ、俺にだって怖いものもある。その中で、二人ともよく頑張ったよ。ありがとう。」
「…………おばけまだ怖いの?」
「言うな」
おばけというより、怪談や急に驚かせられることが苦手だ。
余談だが、魔物に「ゴースト」というのがいて、子供に読み聞かせるときはおばけだったり、幽霊だったり、同じ意味ではあるがいろんな呼ばれ方をしている。
魔物のゴーストなら、多分大丈夫だが、読み聞かせのおばけだったり幽霊だったりはどうも苦手だ。
ま、そんな話は置いといて、とっとと攻略していこう。
「地図を見るに、右に橋があるな。」
地図の白いところを崖だとすると、中心(さっきまで俺たちがいたところ)と四方それぞれが崖によって分けられており、移動するためには橋を渡るしかなさそうだ。
しかも、今俺たちがいるところを中心から東だとすると、これから南、西、北の順に行かなと次へはいけないだろう。
だが、これらはあくまで普通ならだ。
「……また橋渡るの?」
「いや。こっから次まで崖を飛んでショートカットしよう。ちょっと離れてるが。まあ、大丈夫だろ。」
「わかったわ。」
いい返事だ。そんなに橋を渡るのが怖かったのだろうか。
「前のところよりは遠いけど、これぐらいなら行けそうね。」
「ちょうど魔物もいないし、今のうちに渡っちゃいましょ。」
渡る方法だが、初めにセレナがシエラを持って向こうへ行き、その後、俺が向こうにへ渡る。
待ってる間は、渡ってる方を魔物なんかから助けることになっている。
三人の中で一番飛ぶのが上手いのがセレナで、その次にシエラ、最後に俺の順なんだが、精霊は悪魔を嫌っており、半悪魔である俺を助けることはしたくないため、精霊の力を借りて飛んでいるセレナが俺を持って向こうへ行くことはできない。
シエラは、何事もなければ渡れるだろうが、何かあった後で悔やんでも仕方ないので、セレナに運んでもらう。
その分遅くなるため、魔物がいないうちに二人に行ってもらった方いい。
魔物がいても、シエラや精霊がなんとかしそうだが……
「よいしょっと。じゃあ行くわね。」
「いつでもいいわ。」
後ろからシエラに抱きつきしっかりと腕を組む。
そして
フワッ
セレナの背中から魔法による羽が生え、二人が宙に浮く。
「じゃあ何かあったらよろしくね。」
「ああ。」
二人は小走り程度の速度で向こうへ渡っていく。
二人が半分越え終わったころ、
「……yy」
鳴き声が聞こえた。
身体強化すると、人の感覚も強化される。
気配察知は確かに便利だが、こういう見通しの良い場所だったり、相手が音を出してくれたりすると、視覚や聴覚で先にわかる。
セレナは目がいいし、シエラは耳がいいため、この二つで二人より先に見つけたことがない。
現に、先にシエラが気付いて魔法を放っている。
シエラが放った、白い線を描いた魔法がおそらく「クック」とは別の魔物を切り裂いた。
白い線というのは風属性魔法によるものだろう。
この世界では、魔法によって生み出された風が見える。
そう、見えるのだ。
よくマンガなんかで風を表現する時に白い帯のように表現することがあるだろう。
あれがまんまそう俺たちにも見えているのだ。
もちろん強い魔法に限る話なため、そよ風を魔法で放った場合なんかは見えない。
それに、詠唱が必要な風魔法はアニメなんかである、不可視の攻撃を視聴者にはわかるよう、若干空間が揺らぐように見えるのが普通だそうだ。
俺は努力して風魔法と同じぐらい見えにくいようにした。
「おーい!レイー!」
「わかった!今行く!」
魔物が数匹こちらにきているが大丈夫だろう。
だが急いだ方がいいのは確実だ。
俺は十メートルほど下がり、一気に崖へ向かって走った。
そして、ジャンプする瞬間重量を軽くして飛んだ。
『っ!思ったよりも飛んだな。だが向こうへは届かなそうか。』
俺がやったのは空を飛ぶ「フライ」の魔法の応用、というより劣化版の魔法で、自分の体重を軽くするものだ。
橋を渡る前、練習しておいてよかった。
「『フライ』―――とと、やっぱもっと練習しなきゃな。」
頂上らへんで「フライ」を使ったがふらついてしまった。
ただ、前への勢いは維持したままのため、すぐに向こうへ……
「危ない!」
「っ!?」