92.5
「ふう、なかなかの逸材だったね。」
レイが出ていった部屋でバイオレットがそう呟く。
「そうですね。」
イルマは呟かれた事にそう返す。
「私の『尋問眼』の中で嘘を言えるぐらいだ。おまけに冒険者としてまだ初心者となると、彼の今後が楽しみだな。」
「はい。それに彼は『龍眼』を開眼しているようでした。」
「ほう、君と同じで。だが彼はそんなそぶり見せなかったが?」
「ええ、あくまで『しているよう』ですから。もしかしたら別の眼と一緒になっているのかもしれません。」
「スキルの統合、と言うやつか。実力はまだまだと言いながら、その能力と繋がりは凄まじいものだな。王子から直々に『関わるな!』と言われ、下手に動けなかったが、ビオラの様子が聞けてよかった。」
「そうでしょう。‥‥‥一つ、言っておきたいことが。」
「なんだね?」
「はい。彼は先程の半龍族と言っていたことは確かに嘘です。が、彼が龍族であるのは少し違うと思います。」
「と言うと?」
「彼には確かに龍族の血が流れていますが、気配が明らかに小さいのです。」
「気配が小さい、と言うと彼には別の血が流れているが、何らかの方法で知っていた。そして彼の龍族以外の血はギルドの鑑定では出て来なかったので、『半龍族』としか出なかったと。そう言いたいのかね?」
「はい。」
‥‥‥
「面白い。」
「さて、レイくんのことはこの辺で済ませて。次の、もっと大きな事を話すとしよう。」
そうバイオレットが呟き、部屋を出た。
「やあシエラくん。」
「?何ですか、バイオレットさん。」
シエラとバイオレットは人気のない(別荘の中だが)廊下で会った。
「少々シエラくんと話をしたいと思ってね。おっと失礼、シエラ様と、お呼びした方がよろしいかな?」
バイオレットがそう言うと、シエラが張り付けた笑顔をし、
「そんな、私に様ずけなんてしなくていいですよ。私は平民、バイオレットさんは貴族です。そもそも貴族であるバイオレットさんをさん付けで呼んだだけでも、不敬罪になるかもしれないのに。」
「ハハ、確かに今はそうですな。獣国のシエラ姫。」
バイオレットがそうシエラを呼ぶと、一気に場の空気が凍りついた。
いや、実際にシエラが冷気を放っているのだ。
まるでいつでも氷像に出来ると、脅しているように。
「その様子あのもの達には話していないようですね。それにその血筋のことも話していないご様子で。‥‥‥貴方にとっては呪いになりますね。いつまでも隠し通せるものではないですよ。」
「もちろん分かっています。この事は‥‥‥」
「これから先、私から言うことはありません。」
「‥‥‥お願いします。」
そして、この話を聞く者が一人、廊下の角にいた。
レイだ。
龍族の血をひくならば、少しばかり離れている声も聞こえるのだ。