4話少女の過去の件について
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とある町、ドルヴァングは、王国の西端にある、小さな田舎町だ。
小さな町だが、平和で、皆が仲良く暮らしていた。
皆平穏な日々に満足し、この生活がずっと続くと信じていた。
しかし、突如、悲劇は音もなくやって来る。
「パパ、この魔法ってどうやるの?」
「どれどれ・・・ああ、これは難しいなぁ。これはこうやって・・・」
この人は、ティアのブラーヴの、ブラーヴ=フォレス。町でも有名な腕利きの魔法使いだ。
「あらあらティア、勉強してたの?偉いわねぇ。」
この人はティアの母のティノ=フォレス。
ティノはティアの頭を撫でる。
「うん!」
ティアは顔を少し赤らめながら応える。
「ねぇ、今日は久々にみんな揃っているんだし、買い物にでも行かない?」
ティノはティアの頭を撫でながら言う。
「そうだな。」
ブラーヴが読んでいた本をしまい、立ち上がる。
「ティアはどうするの?」
「うん!いく!」
ティアは元気良く応える。
「ねぇ、今日の晩ご飯は何が良い?」
「ステーキ!」
即答するティア。
「良いわねぇ。少し聞いてみましょうか。」
そう言うとティノは、肉屋さんへ近づく。
「すいません。牛肉って500グラムいくらですか?」
「本当は3500セルだけど、お姉さんもも娘さんも美人だから、3200セルまでまけてあでるよ!」
「まぁ!ありがとうございます!」
それからしばらく、私達は幸せなひと時を楽しんだ。
家を出た時は昼間だったが、いつの間にか空は燃えるような茜色に染まっていた。
西を見ると、太陽が地平線に沈んでいく。
それは、いつも見慣れた、それでいてどれだけ見ていても飽きない、とても美しい光景だった。
カンカンカン!
突然、鐘の音が町中に響き渡る。
通行人がざわつき始める。
ティアは気付いた。この鐘は、敵襲を伝えるものだ。
ティアは不安げに、両親の手を取る。
「パパ・・・ママ・・・」
「大丈夫よ。きっと自警団や軍がすぐに解決してくれるわ。」
ティノは私を励ます。
一方ブラーヴは、先ほどのような穏やかな笑みは消え、真剣な表情で鐘が鳴った方向を見つめながら言った。
「・・・魔王軍だ・・・」
魔王軍。私も、話は聞いたことがある。
冷酷残忍で強大な力を持つ魔王、その配下で構成され、世界を恐怖のどん底に突き落とした魔獣の軍団。
その犠牲者は万を超えると言われる。
魔王が勇者に封印されたのもそんなに前の事ではない。
以降、リーダーを失った魔王軍は、自然崩壊したと聞いていたが・・・
「ここにいては危険だ。早く安全な所まで逃げないと・・・」
そう言うとブラーヴは、ティアとティノの手を取り、誘導する。
逃げる途中にも、遠くから悲鳴が聞これる。
「クッ・・・」
ブラーヴが悔しそうな声を上げる。
そして、「よし、ここまで来れば大丈夫だろう。お前たちは早く行ってくれ。私はここで魔王軍を迎え撃つ。」
「そんな・・・危険すぎるわ!」
「だが、ここで誰かが足止めしないと追いつかれてしまうだろう。大丈夫だ。絶対生きて戻る。」
「約束よ・・・あなた」
ブラーヴとティノが抱き合う。
その後、ブラーヴは私に言った。
「ティア、ママが困っていたら、助けてやってくれ。あと、お前は絶対に生き残るんだぞ。」
「パパ・・・」
それだけ言うと、ブラーヴはさっき来た燃え盛る道に消えていった。
ブラーヴは、振り返る時に泣いているようにも見えた。
だけど、ティアは思った。ブラーヴは上級の魔法使いだ。ブラーヴが待てるはずがない。きっとすぐに合流できる。
そう思い、ティノと手を繋ぎながら道を歩い進もうとして振り返った時だった。
右から「ドシュ!」という音が聞こえた。
同時に、首筋に生暖かい液体が飛んでくる。
私は、恐るおそる右を向いた。
すると、そこには「手」があった。
さっきまであった体はなく、繋いでいた左手だけが残っていた。そして、母がいた場所にはとても元が人間とわかるまで時間がかかるほど原型をとどめていなかった。
「・・あ・・あぁ・・・」
突然の出来事に、私は悲鳴も出せなかった。
そこへ、ブラーヴが戻って来た。
「二人とも大丈夫か!?魔物がこっち・・へ・・」
ブラーヴは絶句した。そこにあったのはティノではなくただの肉の塊だったのだ。
「パパ・・・ママが・・・グスッ」
「・・・クソッ・・・すまない、ティノ・・・」
するとそこへ、黒いローブを着ている大男が現れた。
「お前がティノを・・・我が妻を殺したのか・・・!」
「ティノぉ?さっきのエルフのネーチャンの事?あぁ・・ありゃべっぴんだったなぁ〜なんなら、俺のオモチャにしてもよかったかもなぁ〜?」
男はローブのフードを取ると、歪んだ笑みを浮かべた。
その姿にティアは戦慄した。
男は、頭からツノが生え、ブラーヴよりも大きな体をしていた。
「俺の名前は・・・・グラン=ドーザ魔王軍の幹部の一人だ。 あぁ、でも名乗っても意味ねぇか!どうせ、お前らもう死ぬしなぁ!」
「お前こそ覚悟しろ!ここがお前の死に場所だ!」
そう叫ぶと、パパは魔法を唱えた。
「ヴィントホーゼ!!」
その魔法はグランを直撃した。
凄まじい爆風に、私は顔を背けた。
「やったか・・・?」
しかし、煙の中から現れたのは、全くの無傷のグランだった。
「この程度の魔法で俺を倒せるなんて思っていたのかよっ!」
「この・・・化け物が・・・!仕方がない。あれを使うしかないか・・・ティア、お前は逃げろ!」
「嫌だ!パパも一緒に行こう!」
「残念だかそれはできない。だが、私とティアは親子の絆で結ばれている!生きていれば、必ずどこかでまた出会える!」
「パパッ!」
ティアはブラーヴに駆け寄ったが突如、見えない障壁に跳ね返される。
「パパッ!駄目だよ!パパッ!」
私は必死に、結界をたたき続けた。
「しばらくお別れだ。我が娘よ。またどこかで会おう。」
その表情は、いつもと同じ、穏やかな笑顔だった。
「さあ、お前はもう逃げろ!」
「・・・ッ!」
私は森に入り、走り続けた。
日はとっくに暮れ、周囲は真っ暗で何も見えなかったが、ブラーヴに言われたとうり、生き残ることだけを考えて走った。
背後からなにか聞こえる。
ティアと同じように、森に逃げ込んだ人だろうか。
もしかするとブラーヴかもしれない。
すでに敵を倒して、私を探しているのかもしれない。
それとも・・・
そこで、ティアの意識は途絶えた。
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「そんなことが・・・魔王軍も酷いことを・・・」
ティアは途中から泣いていた。
泣いている女の子を放ってはおけない。
「それなら、お父さんが迎えに来るまで、一緒に行かないが?お互い、行くところがないし。」
「あなたは、私を守ってくれていたんですよね。わかりました。あなたを信用します。」
「そうか。じゃあ、これからよろしくな!ティア!」
「はい!こちらこそ!」
「じゃあいきなりだけど町へ・・・と言いたいところだけど、もう日も暮れそうだし、この辺りで野宿しようか。」
「わかりました。」
しばらくあたりを散策すると、休むにはいい感じの洞窟を見つけた。
「じゃあ、ここにしようか。」
「そういえば、まさかとは思いますけど、私が寝てる間に襲おうなんて思ってないですよね・・・?」
ティアが不審げに俺を見る。
「まさか!というかさっき信用するって言ったよね!?」
「あはは!そうでした!」
ティアもいつの間にか元気を取り戻したようだ。
「じゃあ、私疲れたので、お先に失礼しても良いですか?」
ティアがあくびをしながら言う。
「あぁ・・・おやすみ・・・」
俺は、静かにティアの寝顔を見守るのだった。