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ダヤン・デールヒ

作者: 七夕ハル

 魔法暦731年

 「彼らがやってくる??」一番驚いたのはダヤン・デールヒだ。アブラム・チェーは、事情をよく知っていたから、デールヒの態度も不思議でないと。けれど、シマリウ・カッテシとバルクレム・エージェンはダヤンのいつもの病気が始まったとばかりに顔を背けて、帳簿の調整を再開する。「所長に会ってくる」ダヤンは怒っているらしい。当然だ。ダヤンの両親は先の大戦で殺されたのだ。孤児として生きてきたダヤンの親を思う気持ちは、日々ふくれあがっている。そんな時に大戦の最大の功労者であり、殺人者でもあるユナミネ・アルチールズ(魔法の楽団)が来るのだから、心穏やかなはずはない。ダヤンの日常は業務との悪戦苦闘の戦いだ。そして、いつもダヤンはシマリウやバルクレムに負かされる。決着がつけば水に流すのが、この国の人間の流儀だ。だから、負けたままでいられる。けれど、ダヤンはいつまでも負けたことを覚えていた。当たり前だ。大切な家族を失ったのだ。ダヤンが覚えている父親は怒鳴り、殴り、蹴り上げる。そんな親でも愛おしかった。母親は、ダヤンで遊んでいた。ダヤンの腕にはタバコのあとがある。昔の古傷で愛情の証だと皆に説明している。「いやまあ、そうなんだろうけどね」アブラム・チェーでさえ閉口する。シマリウとバルクレムはお互いの相棒で、ダヤンとアブラムはパートナーだ。仕事上の関係ではあったが、ここでは仕事上の関係以外、なにも存在しないので、勢い深く長くなる。

 三日後、テレビをつけると、ユナミネ・アルチールズが、船から降りてくる。白い装束に包まれて、手には黄金杖を持っている。あの杖が何倍にも増幅した魔法によって空から槍が降ってきたと新聞にある。ダヤンは、もう朝刊5紙を読みあさっていた。それでも、改めて彼らをみると、どうしようもなく、いても立ってもいられないのだ。ダヤンは仕事上の用件で所長に呼び出されてから、どうも様子がおかしい。所長は過激派とつながりが噂されている。ダヤンは槍で貫かれた母を想像した。そして、恋人のアブラムを見る。アブラムが遠くから微笑む。「じゃあね」ダヤンの口はそう言っていた。アブラムは不吉な予感がして、ダヤンに近づこうとした。「待って」けれど、仕事制服をきた大勢の人間が行く手をふさぎ、ミウシナウ。

 ダヤンが串刺しにされて発見されたのは、1週間後だった。そして、ユナミネ・アルチールズのニュースはパタリとやんだ。誰もが、忘れ去った遠い日の物語。ダヤンは、どこへ行ったのか?後日談として、アブラムが墓参りに来た。ダヤンは、墓で今も眠っている。その目は遠くあの国を見つめていた。

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