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狷介不屈、しゃしゃり出る

こんなつもりじゃなかった。


今、俺の心境を表すに最たる言葉がこれ。

目の前には、キレッキレの本気モードになった信長が鎮座なう。



信長の相続問題は恙無く終結した。

戦も起こったが広信は滅び、信勝は謹慎してる。



どうだい。

一見何の問題もないと思えるだろう?


ところがどっこい。

信長が本気モードになった理由が、当然ながらあるんだよ。



「で、何か言うことは?」


「特にない、かな。」


「ほう……?」



こんなつもりじゃなかったけど、別に怒られる謂れはない。

だから謝るつもりもない。


何をしたのかって?

簡単に列挙してみようか。



まず、広信と信勝の誘いに乗った。


次に、広信のとこに居た守護職の斯波さんを拉致。


そして、斯波さんを盾に上守護代を乗っ取る。


最後に、戦に負けて敗走した信勝を拉致。


で、広信を滅ぼした信長に詰問されてるなう。



ほら、信長の迷惑になるようなことは何もない!


と言う、誤魔化しと言うか居直り。

信長が本気モードになった理由は、まあ信勝と斯波さんだろーね。

いや、メインは斯波さんか。


主筋にあたる守護代を滅ぼした、今の信長に必要なのは名目。

実権が無くとも、尾張守護職は伊達じゃねえ。


俺が上守護代を乗っ取ることが出来たのにも、ある程度噛んでる訳だし。


と、言うことで。

信長がキレッキレの本気モードで、わざわざ交渉に来たってこったな。

喫緊の課題をどうにかするために。



ハッキリ言って、正面からぶつかっても俺に勝ち目はない。

例によって例の如く、微妙にズレた回答で逸らすのが定石。


なんだけどねー?

ちょっとくらい、真正面からぶつかってみるのもアリかな!



そう思ってた四半刻程前の自分を殴って諭したい。

やはり英雄には勝てなかったよ……。


散々に論破されて、俺は内心涙目だ。


ま、しょーがないね。

当然の帰結と言える。



「単刀直入に言う。守護様を引き渡せ。」


「いいよ。」


「……貴様……」



信長の目が険しくなる。

なんだよー、大人しく譲歩してやったのにー。


からかわれたとでも思ったんかね。

そんなことないのにさ。



「但し、信勝は俺が預かる。これが条件だ。」


「っ、いいだろう。」



真面目で実直な信勝は、自決直前まで思い詰めてた。

助ける必要があったんだよ。

信長のとこに置いとくと、また変な虫が付くかも知れないし。



これで取り合えず、尾張は守護様を頂点として上下に分断。

上を俺が、下を信長が治めることになった。


結局、守護代の首が挿げ替えられただけにも見える。

などと言うなかれ?


何とその上下守護代は、二人とも伯父貴の子ということになる。

紛うこと無き下剋上だな。

カッカッカッ!




「で、貴様の狙いは何だ?」


公式会談を終えて、私的な飲み会に移行。

そんな中、俺は再び信長に詰め寄られてる。


下戸気味な信長は、舐める程度でも良い感じに出来上がる。

気を許した者の前でしか見せないけど、かなり饒舌になるんだよな。


こんな姿を信勝たちの前でも見せてやれば、一発だと思うんだけどなー。


兄としての沽券がどーとか。

そんなことばっか気にしてるからダメなんだよ、このツンデレ。



「で、貴様の狙いは何だ。言え!」


軽く逃避してると、信長に再びにじり寄られてる。

こっち来んなっ


しかし、狙いね。

特に言わんでも判るだろうに。



「信勝の事は良い。貴様に任せる。」


「あれ、良いの?」


「ああ。そんなことより、上守護代を牛耳りどうするつもりだ?」


「あ、そっち……。」


「俺は尾張を統一し、天下に打って出るつもりだ。しかし、」


「だいじょーぶ、ちゃんと協力するさ。」


「……本当か?」



いやマジで。

俺の現時点での野心は、信長と対等で居ることだ。

先々では分からんけどね。


それにはまず、力量的にも評判的にも対等じゃないとダメかなと考えた。


信長は天下に聞こえた伯父貴の嫡男で。

俺は信長の従兄で義兄でもある。


通常ならば、一門の要として動くのが筋だろう。

でも、敢えてそこは叔父上たちに任せておこう。


俺は俺の道を行く!



「暫くは守護様を旗印に協調するさ。」


「暫くは、だと?」


「ああ。守護様を頂く限り、だな。」


「っ!……その後は?」



守護職の斯波さんを頭に、上下守護代が協調して治める。

中身はともかく、外側は室町幕府のあるべき姿と言えよう。


しかし信長は、そんな支配体制は望んでない。

俺も望んでない。

遠からず、斯波さんは放逐されるだろう。


俺が囲ってもいいのだが、それだと変なのが湧く可能性が高い。

周囲の守護大名たちも動くだろうし。


信長はそれを許さない。

利用はするかも知れないが。


何でそう思うかって、俺だったらそうするから。


そこそこ永く一緒に過ごしてきた。

信長の思考回路も、概ね理解してるつもりだ。

天才性と孤独さもな。


そんな諸々の事情と、俺の野心を良い感じに撹拌した結果。

俺の方針は決した。


即ち。



「俺と対等同盟を結んでくれ、信長。」


「同盟、だと?」


「うむ。前も言ったが、お前が本気なら俺もそれに便乗する。」


「……本気、のようだな。」


「応よ!」



尾張半国を領す、二つの織田家がそれぞれ戦国大名として動き出す。

それらは連携して動きつつも独自性を保ち、周囲にもそう認識させる。



それと、放逐が決定してる斯波さんだが。

ただ捨てるのはもったいない。

最後まで、使えるとこは使うべきだ。


同族を抱き込んでの謀反劇、かな。


信長も笑って頷いてる。

じゃあその方向で、狙ってみるか。


こうして俺は、名実ともに信長と対等となる機会を得た。



ィイヤッホォォォゥゥーーッッ!!



空手形だけど、その事実だけでご飯3杯はいけるぜ!


而して俺の野心は留まる事を知らない。

困ったもんだ。




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