欣喜雀躍、その後に
ふと気が付けば戦国時代。
俺は一体何を言っているんだ。
しかし残念、これが現実。
日本史が好きで、特に戦国時代で織田信長あたりが大好物だった俺。
歴史小説は結構読み漁ったし、古地図なんかも読み込んでた。
今では尾張守護職・斯波武衛の守護代・織田伊勢守の後見職・織田与二郎の嫡男・十郎が俺。
なぁにぃ、判り辛いだとぉ?
しゃーねぇなぁ。
簡単に言うと、織田信長の従兄弟だ。
ィイヤッホォォォゥゥーーッッ!!
転生したとか憑依してるとか、常識が意味不明とか馬ちっせぇとか、そんなこたぁどうでもいい!
日本史が誇る英雄・織田信長の一族様だぜ!?
どうしてこれを叫ばずに居られようか。
いや、居れない。(反語)
こうして俺はハイテンションになり、後先考えずに色々やらかした。
それから約一年後、那古屋城に呼び出された。
呼び出しを受けた時、ふと冷静になって震えた。
やり過ぎたか?
どうしようか、誅されたりしたら……。
なんて色々考えた。
ところで、那古屋城主は織田吉法師。
俺の従兄弟で本家筋にあたる、つまりは織田信長のことだ。
今回、俺が信長に会うのは初めてになる。
信長に会える。
そう思った途端、震えた俺は彼方へ消え去った。
テンション上げ上げだぜぇ!
いざ、那古屋へっ
那古屋よ、俺は帰って来た……。
はじめまして!
城に入り、広間ではなくやや小さめの部屋に通された。
遂に信長に会えるッ
ただそれだけでわくわくドキドキしてしまい、そわそわキョドキョドが止まらない。
だが!
そんな落ち着かない心の内は周囲に見せられない。
泰然自若とした風を心掛ける。
見栄って大事だよね。
だって男の子だもん。
キモ!
──ダダダダダッ
独り芝居をしていると、板張りの廊下が悲鳴を上げる音を聞いた気がした。
──ズザザザザァーーッ
部屋の前で何かが急停止したような音が聞こえた。
──ダンダンダンッ
後ろから迫って来る、踏み締める足音を聞く。
「お前が従兄弟殿か!」
ザッツライッ
「始めまして吉法師殿。犬山の十郎だよ。」
「話は聞いているぞ十郎殿。色々やっているそうではないか?」
はい。
色々やらかしてきました。
あれ、ひょっとしてお叱り?
ちょっとビクついたけど、別にそんなことはなかったぜ。
「詳しく話て聞かせよ!」
元服前の少年が、目をキラキラと輝かせて話をせがむ。
その筋の人にとっては堪らない光景なんだろーなー。
俺?
そんな趣味はない。
ただ、相手が織田信長だからテンションが急上昇してるだけだ!
かくかくしかじか。
すけすけうまうま。
「ほほう、そのようなことがのう。」
「興味があるのかい?」
「うむ、面白そうだ!」
あ、敬語?
最初から打っ棄ってたわー。
まあ大丈夫だいじょーぶ。
信長こと吉法師も気にする素振り全くないから。
目上の人が来たらちゃんとするよ!
多分ねー。
こんな感じで謎の面通しは終わった。
終始泰然自若とした空気を纏いつつ、内面ハイテンションで貫いた。
お陰でかなり仲良くなれたと思う。
お、織田信長と仲良しになった、だと……。
ィイヤッホォォォゥゥーーッッ!!
俺の立場がどうとか、史実がどうとかはもう知らん。
我が志、貫き通す所存!
志の内容?
言わせんなよ、恥ずかしい。
まだ考えてません、さーせん。
因みに俺の住まいたる犬山は、尾張の北部に位置する。
信長が住まう那古屋は中心部南寄り。
何が言いたいかって、結構距離があるってこと。
馬を駆って行くのは不可能じゃないが、立場的にぶらり一人旅をすると命の危険が生じることもある。
勿論、小さい頃から鍛練は欠かしてない。
お付きの奴らも数名居る。
本気で出掛けるとなると、腕利き十数名が集って来るのも事実だ。
親父は放任主義だが、締めるところは締める。
俺が信長に会いに行くのは別に止めない。
でも一人では行かせてくれない。
流石に仕方ないか。
信長とは、私的な場所では対等の存在として色んな事を話し合った。
国の事、民の事、時代の事。
犬山衆と那古屋衆とで模擬戦もしょっちゅうした。
前田犬千代とか池田勝三郎とかを上手く使った手法には手を焼かされたぜ。
信長ってホント頭いいな!
義理の大叔父・織田定政の屋敷に生える柿を食い散らかしたりした。
定政の孫・与四郎を従えて許可は取ったと言い張って。
信長ってホント悪童だな!
ごめん、俺もだった。
時は流れ、俺たちは元服を迎える。
正確には年齢的に俺が先に元服し、信清となった。
その数年後、吉法師も信長となった。
元服した俺は長良川周辺で初陣を果たし、信長は三河方面で初陣を果たした。
信長の初陣にはこっそりついて行った。
大丈夫、ばれたけど怒られなかったよ!
さてさて。
元服して初陣も済ませたからには、もう一人前だ。
若造だけど大人の一人として遇される。
因みに信長が元服する少し前、親父が戦死した。
俺は親父の後を継ぎ、犬山城主となってる。
そんな俺が信長の初陣にこっそりついて行くとか、今になって思えばダメもダメダメだよな。
少なくとも、俺が監督者の立場だったら超怒る。
済まない、伯父貴。
そのせいか知らんが、伯父貴の娘が俺に嫁いできた。
彼女は信長の姉にあたる。
おや?
そうすると俺ってば、信長の義兄になるんか。
ほほう……。
ィイヤッホォォォゥゥーーッッ!!
まさかの大躍進。
これぞ、我が世の春か!
しかしアレだな。
分家筋とは言え、本家で嫡男の信長とは従兄弟で義兄弟の関係。
勘違いしちゃいそうだなー。
ほら、織田信長って暫定天下人だったじゃん?
その義理とは言え、兄ですよ。
しかも従兄弟だし年上だし。
ひょっとしたらさー、狙えちゃうんじゃないかなー。
天下人。
なんてな?