06 寿【ことほぐ】×死神
「お祈り申し上げます」
人はこうして私の祝詞を受けると忽ち幸せになる。不死の病が治る。はっきり言ってちょろい。何か祈るだけでこんなに生きていけるだなんて。とか思ってるそこのあなた、そのかわり私の人生最悪なのよ。
「ありがたやーありがたやー」
人を幸せにすると決まってこんなこといわれる。当たり前だ。なにかしてもらったら何かお返しする。そうやって私たちは毎日を生きている。そうじゃないと全部自分で解決しなきゃいけないことになるからからね。だから私のその対価を貰う。
祈るだけでなんでも他人の願いを叶えることができる奴がなにを偉そうにっていう奴がいるけど、私だってその対価を払っている。さっきの法則は私にもきっちり適用される。この街は私にとってそこまで甘くない。
「自分の願いは絶対にかなわない」
「…」
「それがあんんたのでか過ぎる能力の代償なんだろう?」
「あたなは誰?」
祈りが終わって相手に感謝され、御礼はどこに振り込めばいいか、みたいな仕事の明細の話を済ませると形だけの道具をバッグにしまう
「適当な巫女装束と、適当に紙のついた棒」
「なんの意味もないの」
「じゃぁなんで持ってんのさ」
「形,,,まぁ見た目とかって大事なのよ。舐められない為に」
「ふーん」
私は私の願いを叶えることができない。
好きになった人は遠くにいくし、本当に嫌いな人程私のことを好きになる。
願いを叶えたい人程願いはかなわない。
そう叶えたくない奴や仕事として必要な奴の願いしかかなわない。
だから両親を救うことも出来なかったし、何人もの友人を救くことが出来なかったかった。だからこの力のおかげに幸せになれたと思ったことはない「かなわないことをその力のせいにするな」という奴がいるけど、まぁ、そういう奴は一度私になればいい。これがどういう意味を持つのか一度うんざりすればいい。それに、そういう奴程私の力を最後に頼ることは人生が良く教えてくれたし。
ああ、そうそう唯一それで幸せになれたと思うことはある。一つはこれのおかげで食いっぱぐれることはなくなったっていうこと、大量のお金は手に入ったこと。神様は私に「仕事相手」の選別と本やDVDとか、まぁ人以外の「物」にお金を使うことは許してくれたから、まぁそういう事で不自由になることはない。でもね、
「全部一人で終わるって寂しいのよ…って思っただろあんた」
「さっきから何鎌もって彷徨いてんのよ」
「気味が悪いわって思っただろ…俺は死神だ」
「死神が私になんおようかしら」
「驚かないってこったぁ、前に一度、他の奴と会ったことあるな?」
「別の街でね、そいつはもう少し慇懃な死神だったわ」
「別の街に行ったことがあるのか」
「まぁ、ちょっとね、偶偶偶然」
「そうか、で、そいつは何をあんたに言ったんだ?」
「あなたは今不幸ですねって」
「慇懃じゃねぇじゃねぇじゃん」
「最初の一言が失礼なだけで、まぁ他はとても丁寧な人だったわ」
トランクの蓋を落とし、ベルトを占めてもちあげる。
そして挨拶もそこそこに依頼主の家を後にする。
「あんたいつまでついてくるの?」
「あんたの家まで」
「来ても何も出さないわよ」
「出さなくていい。どうせ何も食べれねぇしな」
こいつは本当に死神なのかというくらいにフランクでしつこい奴だった。灰色のドクロフードに、片目を包帯で覆ったちょっとツンツン頭の死神が宙に浮いて私の後を追っかけてくるのだ。これでいい男ならまぁ許したかもしれないけど、ちょっとこういう餓鬼は嫌いだ。適当に捲いて逃げることに決める。
「それで私に何の用よ」
「えーとね、特にない」
「ないんかい」
「さっきの死神と一緒だよ、あんた不幸だろって言おうとしたんだ」
「ふーん」
「そういう奴みると死神はほっておけないのさ」
「すぐ死にそうだからでしょ」
「というよりは、そうだなぁ、あんたの近くにいるとなんかいい獲物が見つかりそうな予感がする」
「…まぁそういう相手は沢山相手にするけど」
「ってもそれが本命じゃないけどね」
「冷やかすなら帰ってちょうだい」
「まぁまぁそういわんさんな」
「…あんたみたいなのが一番嫌いなのよ」
昔の記憶がぶわっと頭の底の方から出てきそうになるのを必死に押さえる。足取りが段々早くなる。一刻も早くシャワーを浴びてスッキリしたい。
「家はどこ」
「いい加減しつこい」
「それぐらいじゃビビンないぜ、俺」
「なんでついてくるの?」
「だからその,,,君に惚れたからさ」
「馬鹿なこと言わないで」
こいつ口ベタだよ。
「何? 向こうの死神の方が口説き上手だったって?」
「うっさい黙れ」
漫画やアニメの主人公たちがどうやって敵を上手く捲いていたか、その方法を必死に思い出そうとすると、同時に青春時代の黒い思い出が湧き上がってくる。やめてくれ。本当にやめてくれ。ああ、そうだ路地を駆け足で回ってその隙に上手く物陰に隠れる。これだ。
「あー向こうに死にかけた人が!」
「あー,,,どれどれ?」
今のうちに
「なにやってんの?」
「…なんでもない」
いい感じで曲がり角のお店にさっと入ろうとしたらカーテンしまってるし。
「顔赤いぜ」
「うっさい!!」
黙れ黙れああああああ青春時代の黒い思い出が湧き上がる…
(だからもうどっか行って欲しいんだけど。私、疲れてるの)
(おっつ、脳内会話に切り替えやがったな)
(何喜んでるのよ。この変態)
(あー実は俺、他の奴らに見えてないから、今迄あんたの方が変態だったんだよ)
(?????)
(やっぱあんた可愛いし、可愛いから惚れた)
(マジ最悪)
(であんたの家ってまだ?それともこのまま散歩でもする?)
(なんなのこいつ!!)
自分の願いだけはかなわないとわかってても、久しぶりにこいつをどうにかしたいと思ってしまった私だった。