04 町長×秘書 後編
「ふ、不死身さん、大丈夫ですか」
「大丈夫だ。なんともない」
「本当に不死身なんですね」
「そうだ不死身だ…お前も本当に魂消たなぁ」
「ええ、そこにいるだけで色々起きちゃうんですよ」
にやりと笑ったそいつの背後にある庁舎はトラックが衝突したせいで玄関がボロボロ。忍者っぽい奴が引きちぎられた影響で、あたりによくわからない血が散乱。駆けつけた警察官なり鑑識なりがドタバタしている間にトラックのおじさんが手錠をかけられているのを黙ってみてあらあいつ、俺たちに親指を立てやがった。
「やぁやぁ君たち本当にありがとう。危機は去った」
「全くだぜ」
「僕はなんいもしてないですけど」
「いいやぁおかげで私の命はどうにかなったし、おまけにご主人様の件も最小限に食い止めることができた。一石二鳥。これも大満足というものだ」
「秘書子はどうした」
「ああ、彼女ならそこで首をつっている」
「…は?」
「今回の責任の全ては私にあると言ってな。そこの机に遺書がおいてあったよ」
「マジか…」
「君のせいじゃない。庁舎がこんな風にして事件解決を図ろうとした彼女が悪い」
「…なんだそれ」
「大丈夫代わりの秘書などいくらでもいる」
そう言って町長はタバコを吸った。
そうだ、こいつはこういう男だったと、俺は始めてこいつにあった夜の事をふと思い出した。こいつは多分庁舎が壊れなくてもどのみち俺を使って事件を解決しようとした責任を負う三段をつけていたに違いあるまい。秘書の死を使うことで何となく事件のイメージを仕方のないことにする。するとなんとなく責任の行方が曖昧になるし報道も加熱しにくくなるということだ、無論彼女の死が町長によるものだ、という証拠が出ていたら仕舞いだが、そんなミスを犯す程にこいつの肝っ玉は小さくはない。
「全くムカつく野郎だぜ。日報には乗らねぇのか」
「勿論。乗るわけがないだろうさ。そう、乗る訳がない」
「そうか…」
「そうだ、死ぬ前に秘書子から君にって」
「なんだよ」
「渡して欲しい物があると」
「…なんだよ」
「ちょっとした手紙さ」
「やばいもんじゃないよな」
「勿論中身は拝見させて貰ったよ」
「…じゃぁなんだって」
「『来世では仲良くしましょう」以上だ」
「…」
「それでは、私は仕事に戻るとしよう。やることは沢山あるんだ。休んでいる暇もない。あーそうそう、君らの口座には適当に振り込んでおくから、まぁ宜しく頼むよ」
町長は何が面白いのか、カラカラと笑いながら両手をズボンのポケットに突っ込みながら俺たちの所をあとにした。奴の周りには早速沢山の人間が集まり指示を仰いでいる。その指示を記録し、的確に判断を下し、さばいているのは新しく付いたブロンドのボブカットでスタイルのはっきりしたいい女だった。
「はぁ…」
「不死身君で下の名前はなんていうの」
ここで魂消が急に割り込んできたことに若干ビビって吸おうとしたタバコを地面に落としてしまった。
「あー未成年は吸っちゃダメなんだよー」
「うるせぇ。こんなんでもやってないと落ち着かねぇんだよ」
「仕方なくってことか。それで名前はなんていうの?」
「…うっせ、ちょっと黙っとけよ」
「こ、これから友達だね」
丸めがねのこいつは膝を抱えて下から俺の事を覗いてきた。
ちょっとキモイ。
「いや、友達なんかなる気ねぇーよ」
「一緒に仕事したら友達でしょ。は、初仕事だったし」
「お前、これが始めてだったのか」
「お前じゃないよ、誠だよ。魂消誠、君の名前は?」
「…不死身って呼んでくれ。下の名前は、ちょっと勘弁して欲しい」
「なんだよ連れないなぁ不死身君は」
その後こいつは俺のあとを付きまとってきて、馴染みの居酒屋までついてくると先輩のおごりだーとか言って適当に酒盛りを始めると勝手に盛り上がって一人で寝てしまった。そんなこいつとこれから変な付き合いが始まるだなんて今の俺に分かる筈もなかった。