04 町長×秘書 前編
「君たちにお願いがある」
概念を統べる長、という意味で彼は町長だ。町長は概念町に起きる様々な問題を解決をするために、概念町の住民に仕事を依頼することがある。彼が自分の手で物事を殆ど解決しない。その代わりに問題を解決する人選、並びにその指令を行う。そしてこれが一番大事なことだが、何か問題が起きたら町長が全ての責任を背負う。
町長は南向きの格子状に窓枠を組まれた、防弾ガラスの分厚い透明な壁を背にしてゲンドウ組をしながら僕ら二人を見つめている。その隣にはメガネを欠けた秘書がいる。金髪のポニーテールでそれなりに短いスカートで、胸の膨らみもそこそこ。ちらりとYシャツの襟から覗く鎖骨がなんともエロい。ということを思っていたら一回死んでいた。
「君,,,大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない」
「…一回死んでるけど」
「俺は死なない」
俺に話しかけてきたひ弱そうなメガネは今回、俺の相棒を務めることになりそうな「魂消誠」能力は文字通りこいつと一緒にいると驚かされる、ということだ。
「…でそんな不死身な君に今日は大事なお願いがある」
市長はメガネをお仕上げて目線を白ませた。町長の眼力はおぞましいものがあるため、奴は真面目な話をするときに会えてメガネを使うことによってその瞳を隠す癖があった。
「こいつと一緒じゃないと出来ないことなのか」
「今日、僕は死ぬことになっている」
「予知夢の野郎か」
「予知夢だから世界戦がずれれば…まぁどうにかなるかもしれん。けど今回は結構当たっちゃいそうなんだよね…で今は死ぬ訳にはいかない。ご主人様が大分不安定な時期に入ってるからね。そうだよね君」
「おっしゃる通りです」
きりっとした表情で町長に大量の紙束を差し出した秘書子の尻のラインは目を見張るものがあった。いや、だから俺を一々ぶっころさないでくれ。
「この調査報告によれば、町長が本日の午後三時に何者かによってこの庁舎内で殺される確率が八十パーセントとなっております」
「どういう計算方式で、どのようにその結果、確率が算出されたのか、まぁ私にはわからないが、予知夢君の話は最近大当たりの連続だ。用心に越したことはない」
「で、俺たち二人がなんで組む必要がある」
「君ら…魂消君の力で確率をちょっとだけ下げて欲しい。予想外の結果に向かうようにね」
「な、なるほど」
魂消る、とかいう奴は俺たちの会話にまるで疑問を持っていないかのような呆けた顔でうんうんと頷いていた。髪はボサボサの古い縦縞の着物を着ている感じが、どこかでみたような気がするが、まぁどうでもいい。そんなことよりこんなヒョロヒョロした奴と一緒にいて本当に今回の案件をクリア出来るのか、という方が気になる。
「で俺は何をすればいい」
「ここまで話せば君も察しが付いているだろう」
「そうですね…まぁわかります」
「君の仕事は誰かの代わりに殺されることだ」
つまりこういうことだ。今回は未来を魂消るの概念で町長に降りかかる死を俺が受ける。で、その死を誰かにとって魂が消くらいにびっくりさせるようなことにする。そうすりゃまぁ町長が殺される未来を上手く回避することが出来る、ということだ。
「そんな上手くいきますかね」
「上手くいかないと困る」
「で、誰を驚かすんです?」
「この子だ」
「…秘書子さんですか」
「もう一回殺して差し上げましょうか」
「なんで俺に厳しいの?」
「さっきから目がいやらしいのです。それに、あなたのそこからだですと遠慮が要らないですからね」
秘書子と町長が同時にメガネを弦を挙げてレンズを光らせる。
なんだよこいつら出来てんのかよー。
って思ったら殺されてた。
この女マジなんなんだ。
「高校生の癖に生意気なのよ」
「魂消だっけ、こいつもさっきからヘラヘラしとるやんか」
「彼、立派な大学生よ」
「まじか」
「ついでにパツキンの綺麗な彼女もいるわ」
「マジかよ」
「えへへへへ」
「つーかそんなことどうでもいいんだよ。秘書子はこの作戦知っててちゃんと驚けるんだろうな」
「お任せ下さい。政府要人が殺害された現場を発見する人間の相場というものは美人秘書と相場が決まっていますから」
相場の問題か? ちゃんとリアクション取ってくれねぇと駄目なんじゃないかな…まぁいい。とにかく今日は町長の代わりに俺が殺されればいいってこったな。それ以降の話は俺に関係ねぇってこった。
「あ、午後三時になった」
「おい嘘だろ」
「…何も起きないみ、みたいですね」
「秘書子君、確かに今日の三時なんだよね」
「そうですが…」
と秘書子が膨大に積まれた調査資料の該当頁を開こうとした時背後の窓ガラスを割って黒い影が中に侵入してきた。
「秘書子は驚くな!口を抑えろ!」
咄嗟に目の前にいた町長の身体を抱き込み、俺は町長室の絨毯の上を転がる。ここで秘書子が驚いたらしまいだ。あいつの効果が窓ガラスで消化されたら俺達に残された勝算は殆ど20パーセントだ。
「…っつ」
不死身とはいえ、身体になにかしらの刺激が走らない訳ではない。意識的に神経のスイッチの大部分を切ってはいるがそれでも背中に受けたガラス片のトゲトゲが若干痒い。
敵影はまっすぐこちらに向かってくる。
「こういう時って銃とかで狙撃するとかそんな感じじゃないのか?」
「あの窓ガラス、ちょいと固くてなぁ…まぁこうして直接乗り込まんとダメっぽい感じなのよ」
敵が喋った。手には篭手がはめられており両手にはサバイバルナイフっぽいのが逆手で構えられている。
「あんた忍者か」
「それっぽい感じだ」
「なんだそれっぽい感じって」
「問答無用!」
真っ黒い外套に仮面まで付けて素性を隠した忍者っぽい奴は俺の胸にナイフをぶっ刺してきたが、それでも構わず俺は奴に突進する。
「? なんだこいつ???」
「俺って不死身なんだよ」
「テメェが噂の奴…!!」
「噂になってるっていうのは有難いなぁ」
忍者っぽい奴を羽交い締めにしてそいつが開けてきた窓に突っ込む。
「秘書子今だ!!叫べ」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「は、離せ!」
秘書子が叫んだ途端俺の身体はそのまま宙を舞い、地面におっこちた途端その上をトラックが通過した。