表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

03 門並×日報



「日報でーす!日報でーす!」


 家々を巡り歩き、昨日概念町で起きた事件を新聞に纏めた「概念日報」をポストに入れたり売り歩く彼女は日報ちゃん。町の小さくて健気なアイドルとして名高い彼女の後ろ歩いているのは門並初、つまり僕のことであるが、これは決して僕がロリコンでも、アイドルを追っかけてるオタクだからでもない。タマタマ日課で巡り歩く僕の門並チェックの時間帯と場所、コースが一致しちゃうのでこうなっちゃったのだ。お前に誰か止めるかと思いきや、誰もとめない。というか日報ちゃんの雇い主であるところの概念新聞社のシャチョーさんから「わいらの代わりに見張ってくれへんか?」っていうバイトを頼まれたので仕方がない。これは不可抗力なのだ。だから法的にも問題ないし。間違いはない。間違いなど決しておこさぬものか。紳士たるもの家々の庭木に咲き誇る花や縁側で伸びる猫を愛でながら茶を啜る老夫婦が丹念に磨き上げた庭の美しさを堪能しながら散歩するのが道理というものだ。見ろ。カナカナとコーロギが美しい秋の調べを奏でているではありませんか。


「門並さん、これは鈴虫です…」

「…いやーこのキリギリスの鳴き声も立派な」

「これはマツムシですよ門並さん」


 そう、この少女、基彼女は僕に対してどこか棘を持っている。僕のいうことなることに茶々を入れるに限っていつもの安穏剣呑とした物陰を全捨てして僕を鋭利な眼差しで殺しにかかってくるのだ。なんたるおぞましきロリでございやしょうですますことか。


「何ぐちゃぐちゃと細かいこと言ってるんですか?次のお家に向かいますよ?」


 日報ちゃん…いやこの小さな悪魔は僕にだけ厳しく、ほかの人には尽く優しい。どれくらい優しいかというと、僕以外の男女には大体好かれる。そしてその好かれ方が絶妙なのだ。常に一歩だれからも距離を保ちつつ、保ちながらこそっと新聞の売り込みを行い、結果買わせちゃうのだ。相手との波長を毎日の配達でちょっとずつ合わせていって、こっそりうる。そこで顧客が増えれば大成功。増えなかったら次のチャンスが来るまで待つ。友達が買い始めたらそのタイミングでちらっと進める。勿論進め方もさりげなくそっと。直接ではなく相手の気になりそうな記事を常に頭の中において、そのネタを話し、その話が残っている内に友達から同様の話を「概念町新聞で見たっ」ていうことを聞いて、じゃぁ、ちょっと買ってみようかなみたいな感じで「だったらあの子に毎日届けてもらおう」ということになる。



先生、それ、滅茶苦茶効率悪くないですか



とおっしゃる方がいたら確かにそうや、それはごもっともだ。でもそういうのはずっと彼女を見てきた僕だから言えることですけど、多分これが彼女の才能を活かす一番の方法なんですよ。毎日十分くらいしか見ない人が彼女の事を分かる筈がないじゃないですか。


「何ブツブツいってるんですか気持ち悪い」

「君を分析していた」

「気も悪いです門並さん」

「直球すぎて辛い」

「日報いかがですかー!今日の特集がトラック事件!昨日や一昨日や半年前とか一年前から色々あったトラック事件の全貌が今ここに明かされるかもしれません!!!」

 

 といっても彼女の売り込みのどこに人は引かれて概念日報を買うのは、というのは正直分からん。ただ、彼女はひたすら日報の上辺をざっと読み取ってそれを相手の話に合わせる。ということで彼女の毎日が埋め尽くされている。ということに満足してるみたいに健気に働いている、ということに人々は惹かれるのかもしれない。


「なんかいいましたか門並さん」

「何にも」

「また私を馬鹿にしてたんでしょう」

「違うよ、その逆さ」

「どうだか」

「これだけの事を毎日続けるっていうのは、それだけですごい事だと思いますよ」

「違うますよ門並さん。これくらい皆やっています。門並さんがいつも愛でている庭木の花々の手入れだって、一日ちょった出来ないですからね」


 彼女、日報初芽ちゃんの毎日はこうして終わる。僕と適当な会話をしながら休憩に紙面を読んで情報を仕入れ、売り子として新聞を配り売りながら僕と適当な会話をして家に変えるけど、そんな彼女の家はボロやのアパートで風呂もついていない、最初バイトを始める時に彼女の家を伺ったけど何もおいてなかった。家に帰ったら寝るだけの毎日と、そんな変わらない彼女の生活に心を癒される人々と、それろ満たす新聞を売り歩く彼女の瞳の視線の先には何も映ってないことを。彼女には本当の意味での友達がいないのだ。


「それで幸せか、君は?」


 とか、そういうことを前に言ったことが一度だけあるが、本人はそれでいいのだ、といつも通り僕を適当にあしらうのだった。というか、僕の方が人間として結構クズっぽいので、これ以上何も言い返せないんだけど。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ