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次の日、モチ子達のマンションに春さんが手配した引っ越し屋さんと帝一族に使えるメイドさんと執事さん達8人が荷物を丁寧にまとめていく。
だが、モチ子はまだ熱が下がらず…メイドさんや執事さんから車で休む様に言われ…現在は若いメイドさんから介抱されている。
「心様大丈夫ですか?林檎でも剥きましょうか?」
「…大丈夫です」
「ふふっ心様、私達には敬語は必要ありません。どうぞ、普通に接して下さい」
…いや無理ですって…
「…はぁ…。あれ?綺羅!」
モチ子が車の窓から見たのは、呆然と立ち尽くす綺羅の姿だった。…モチ子は掛けていた毛布を置いて車から出る。
「モチ子…どうしたの?、何だか荷物を出してる様だけど」
「……実はね、…私…引っ越す事になったの」
「えっ…」
「…行方不明だったお父さんが見つかってね…東京で一緒に暮らす事になったの…」
「そんな…だって、あまりにも急すぎて…」
「ごめん…私達も昨日言われたばかりで…」
「心様!駄目ですよ!お体にさわります!」
そこに、車でモチ子を看病していたメイドさんが二人の元に走って来た。
「えっと…」
「初めまして、心様の幼馴染みでいらっしゃる綺羅様ですね。私、…春様に使えるメイドの百合と申します」
困惑した表情を浮かべた綺羅に対し、優雅にスカートの裾を持って、笑顔で挨拶するメイドさん…もとい、百合さんが言う。
…やっぱり、帝一族と言うことは伏せている様だ…
「メイドさん?」
「実は、行方不明だったお父さんが…かなりのお金持ちでね…」
「モチ子がお嬢様?!」
綺羅が驚いた声を上げた時、アパートからお母さんや兄ちゃん達が最後の荷物を持って出てきた所だった。
「あら、綺羅くん。」
「こんにちは、モチ子のお母さん」
「ごめんなさいね…急に引っ越しだなんて…」
「いいえ…家の事情ならしかたないです…竜也も分かってくれます」
「…ごめん…竜也と仲直りしないで引っ越しちゃうことになって」
「……そうだ、モチ子。…これ竜也から」
綺羅はポケットから小さな箱を取り出し、モチ子に渡す。
「!、竜也から?」
「まぁ、…僕と竜也が今さっき選んで買って来たんだけど」
「…開けても良い?」
「勿論」
モチ子はその小さな箱を開けると、…そこには…
「ネックレス?」
箱に入っていたのは、金色のチェーンにモチ子の星座である射手座のマークが刻んである…背景の色はきれいな青色で、太陽の加減でキラキラと光って見える。
「…キレイ…」
「お小遣いを二人で貯めて買ったんだ…本当はモチ子の誕生日の12月に渡そうと思って僕が預かっておいたんだけど…」
「…ありがとう、綺羅…私…竜也にお別れの言葉…言えないで行くけど……私!二人の幼馴染みで本当に良かった!」
モチ子はそう言うと、綺羅に飛びつき抱きついた!
「も、モチ子?!」
「私!…ぜ、った”いに…わすれな”い!…だから!綺羅と竜也も…わだし”のこと…わずれないで”!」
「うん!わすれない!、もし東京に行く事があったら…ちゃんと案内してよ?」
「う”ん!!必ず、遊びにき”てね!」
「「約束!!」」
モチ子と綺羅は最後には笑顔で約束の言葉を交わし、モチ子は体調の問題もあり、百合さんから車に乗せられた。
「…君が、綺羅くんだね」
モチ子の見送りを待っていた綺羅に話しかけたのは春さんだった。
「貴方が、モチ子のお父さんですか?」
「そうだよ、私は春だ…綺羅くん。今まで竜也くと一緒にモチ子を守ってくれて、ありがとう…」
「!…春さんは分かってるんですね…モチ子が苛められてたこと…」
「…綺羅くん、私は小学生まではモチ子を学校に通わせる気はない」
「え?」
「…だが、中学からは“東峰学園”に通ってもらう事になる」
「東峰学園?」
「東峰学園は有名一族や、金持ち達が通う学園さ、高等部からは全寮制…しかも、高等部からは一般入学枠も設けている…もし、竜也くんと一緒に受ける気がある時は、遊びに来たときにでも返事を聞かせてほしい。あ、…これは自宅の電話番号だ」
「…ありがとうございます。…」
綺羅は春さんから渡されたメモを受けとると…。
「…僕も竜也も…答えは決まってると思います」
「…そうか、…返事はいつでも大丈夫だよ。竜也くんとしっかり話し合って決めてね」
「…はい」
そこに、執事の人が来て準備が整った事が伝えられた…
「それじゃあ、私達は行くね」
春さんが車に乗り、車とトラックが発進すると、…車の窓が開き、モチ子が顔を出して綺羅に向けて手を振り大きな声で…
「綺羅!」
「モチ子…」
「…またね!!」
「うん、またね!」
…こうして、モチ子は関東の田舎から、大都市東京に向かって旅立って行った…
…ーーーーー約1時間40分。
モチ子、アリナ、巧、直、光、春さんと10名のメイド、執事達は大都会東京…ではなく、…何故だか横浜中華街へと来ていた。
「うわぁー凄い人!」
「モチ子。あまり騒ぐな」
「だって、巧兄ちゃん!人だらけだよ!」
「…確かに、人酔いしそー」
「…僕も」
「あらあら」
「中華街は私のお気に入りでね。折角だから私がいつも行ってる店に案内するよ」
こっちだよ、春さんが歩き出すと直達はそのあとに続くが…
(流石に…お姫様抱っこは…)
そう、モチ子は一人の執事さんからお姫様抱っこをされていたのだ…
「あの…下ろしてもらっても?」
「駄目です。心様はご病気なのですから」
「いや…あの…出来れば下ろして」
「駄目です」
(うぅ…、完全に私達目立ってる…)
そう、完全に一般の人達は脇にそれ、興味深そうにモチ子達を見ている…ある意味、混合状態だ…
「着いたよ、中華街名店の“蘭”だよ」
その店は外見から見ただけで高級なのが分かる…町のそこら辺にある中華料理屋とは訳が違う…ご立派に三階建てである。
「ここは、個室があるからね。気兼ねなく食べられると思うよ」
さぁ、入ろう。春さんが先人をきり、店内へと入ると…一階は一般の客が使うフロアなのか…昼どきとあり、店はほぼ満席となっている。
「これは、これは。“三門”様、御待ちしておりました」
「いきなり悪かったね、オーナー」
モチ子達の前に現れたのは、少し年配の男性…どうやらこの店のオーナーらしい…
(三門って私達のこと…だよね?)
モチ子は不思議に思うも、取り敢えずは騒がずに二人の会話を聞く事にした。
「いえいえ、三門様でしたら何時でもお越しください…本日も3階の“松の部屋”をお使い下さい」
「ありがとう。では、案内をお願いするよ」
「かしこまりました」
すると、一般客達がざわざわと騒ぎ出す…
「あれが、三門家…」
「ふん、貴族だなんて」
「しっ!聞こえるぞ!」
(なんか…よく思われてないみたい…)
…そんな話を知ってか知らずか、春さんは先頭をきり、巨大なエレベーターへと全員乗り込む。
三階に着くと、モチ子達は一番奥のしっかりと壁がある個室へと案内される。
(やっぱりあるんだ!回るテーブル!)
モチ子が入った部屋には、中華料理を取るためにある回るテーブルがあった。
「さて、皆好きな所に座ってくれ。あ、君達も料理を出すから隣の部屋に行ってて」
「「「「かしこまりました」」」」
メイドさんと執事さん達はモチ子を下ろすと隣の部屋へと移動した。
「オーナー、それじゃあいつものメニューでお願いするよ…あ、あとこの子の為に卵粥を頼むよ」
春さんはモチ子を見て言うと、オーナーはそれを察して「かしこまりました」と言って部屋を後にする。
「モチ子は体に優しい物からちゃんと食べてね」
「うん…ありがとう…あの、春さん。三門家って?」
「あぁ、モチ子はまだ習っていないんだったね。三門家はこの国の貴族…十二支門家の1つだよ。」
「十二支門家?」
「その名前の通り、十二支の家紋を持つ貴族だよ。…まぁ、詳しい事はまた今度で…三門とは協力体制にあってね。外で食べる時は三門の名前を借りてるって訳だよ」
「なるほど…」
「まぁ、一般市民の中には帝と梟一族以外の。貴族体制は廃止するべきだと言う意見はあるけどね」
「だから、下であんな言葉が出たんだ…」
「まぁ、皇帝様も貴族体制を無くすのは本望ではないからね。廃止はないと思うよ」
「そっか!」
「…しかし、帝一族って名前がそんに大事になるのか?」
春さんの話してくれた事に、巧が不思議そうに首を傾げる。
「まぁ、その内容はあまり表立って話すことは私から出来ない…しかし、覚えておいてほしい…帝の名は良くも悪くも周りにいる人達に影響を与える…それが例え、親友や家族であってもだよ」
その言葉にモチ子達兄弟は驚きの表情になり、春さんに対し意見をあげる者は居なかった。