始まりは突然変異でやってくる
ーーーーー長い冬が終わり、新たな春の息吹きを感じ始めた3月後半ーーーーー
綺麗な洋館の屋敷。
そこに一人の…少しポッチャリとした14歳位の少女が、綺麗な花柄のワンピースを着て、洋館の中を全速力で走り回る。
「ていやぁぁあああああ!!」
その声は静かにたたずむ洋館の屋敷にはあまりにも不釣り合いな叫び声が…
「心様!廊下は走り回るものではありません!」
「「「お待ち下さい!!」」」
少女の後ろから、数人の女性達が優雅ではあるが全速力で少女に迫ろうとしていた。
「メイドさん達!早くない?!てか、何でそんなに全速力なのに気品漂ってんの?!」
「私達は長年このお宅で教育されたメイドです!全速力だけで気品が落ちることはありません!」
そんなメイド達の言葉に少女は…
「あ、だから三十路過ぎたのに彼氏とか結婚ができないんだ?」
それは御愁傷様!っと少女の言葉にメイド達はショックを受け、床に手をつく者や壁に両手をつき、頭をガンガンと柱にぶつける者など…
「うわ、ある意味空気わるい…、っと今のうちに!」
少女は言うと窓を開け放ち、助走をつける為か少し窓から離れ、靴を脱ぎ手に持つ。
「「「心様?!」」」
「それじゃあ、ね!」っと少女は言うと走りだし、3階の窓から勢い良くジャンプする!
「「「きゃぁあーーー!!」」」
バシュッ!!
その時飛び出した窓の下で少女は少し歳上の赤毛の少年と黒髪の少年の二人にキャッチされていた。
「おい!モチ子!貴様!キャッチ出来なかったらどうするつもりだ!?」
黒髪の少年は少女に怒鳴る。
「そうです!モチ子殿にもしものことがあったら…」
赤毛の少年も少女の事を心配して言うが…
「大丈夫!現にこうやって私をキャッチしてるじゃない?」
「そりゃあ、モチ子が大切だからこうして助けてやる。リハエルだって
主に怪我されたら一大事だろう!」
「その通りです!」
その黒髪の少年の言葉に赤髪の少年が肯定的な言葉を添えて少女に言う。
「私はリハエルと時風のこと信用してるから!だから、私はあそこから跳べたんだから!」
少女はこれいっぱいと、二人の少年に笑いかけると…
「貴様、っ…取り敢えず!メイド達に見つかる前に行くぞ!」
黒髪の少年の言葉に少女は頷き、赤毛の少年はため息を付きながらも、笑顔で二人の後を追うのだった。
ーーー先程のおてんばな少女はこの物語の主人公、持越 心こと“モチ子”
ーーモチ子は母子家庭で育ち、四人兄弟の末っ子として家族5人で、幸せな日々を送っていた。……そう、あの日までは…。
ーーーーー暑い残暑が残る8月の後半。
「暑い」
「暑い!」
「暑いーーー!!!」
「やっぱり、クーラーは良いねー」っとセミロングの灰色の髪に綺麗な淡いブルーの瞳に、、体型が少しぽちゃっとした少女が、ポチっとリモコンを押すと、クーラーが起動し涼しい風が吹く。
そう、この少女こそ。主人公の持越 心10歳小学生4年生である。
…現在、アイスを片手にテレビを見ている
「モチ子!夏休みだからってぐーたらするな!宿題したのか?」そんな少女に対し、高校生位の黒渕眼鏡を掛けた青年がモチ子に言う。
「あ!巧兄ちゃん!」
この黒髪、黒目の青年は今年高1になった2番目の兄、持越 巧成績優秀で、奨学金を使い国立の高校に進学した。
ただ…父親が居ない我が家では、かなり生活態度に厳しい…
「巧兄ちゃんは本当にお父さんみたいだね!」
「僕は、お前の兄だが?」
二人がそんな会話をしてると、リビングに綺麗な栗色の長い髪に黒目の女性が入ってきた。
「ただいま。あらあら、モチ子ったら…アイスは程々にしないと駄目よ?」
この女性はモチ子達の母親の持越 アリナ、近所の大学病院で看護師をしている。
…今日は夜勤明けで自宅に帰って来た所だ
「母さん!、モチ子に甘過ぎ!」
「もー、巧は本当に厳しいわね」
「そうだぞ、巧」とリビングに淡いモスグリーンの瞳に栗色の長い髪の毛を右側に纏めた綺麗系のイケメンが現れ、欠伸をしながらモチ子に近づく。
「直兄ちゃん!お早う!」
「おはようー、モチ子。やっぱり、お前は可愛いなー」
優しく、モチ子を撫でるイケメンは1番上の兄で巧と同じ高校に通う高3の持越 直巧同様、成績優秀で今年は大学受験で塾に通ってるらしい。
「直兄さんは、モチ子に甘過ぎる!このシスコン!」
「うるさいよ、巧だってシスコンだろ?」
「僕に、そんな物はない」
「巧は素直じゃないなぁ」
「あれ?みんな、起きるの早いね」
直と巧が言い争いを繰り広げていると、そこに栗色の髪に黒目の、中学生位の少年が現れた。
「あら、光おはよう。」
「あ、母さん。早かったね」
「光兄ちゃん!今日も学校?」
「いや、今日から学校の夏期講習は終わり、残りの1週間は家で勉強かな」
この少年はモチ子の3番目の兄、持越 光モチ子の周りで甘くなく、厳しくもない一番歳の近い兄である。
「私ね!光兄ちゃんに勉強教えてもらいたいの!」
「僕に?別に良いけど…、って兄さん達、僕をそんなに睨まないでくれる?」
「へ?」
モチ子は直ぐ様後ろを振り返ると、直と巧が光に向けて…
殺気を放ってました…
「兄ちゃん達どうしたの?」
「「いや、なんでも」」
「??」
「あらあら、」
母さんは分かった様に、笑顔で兄二人を見ていた。
「それより、朝ごはん食べたいんだけど」
光が言うと、母さんが今作るから待っててっと言い残しキッチンへと入っていった。
ーーーーー朝食後、モチ子は涼しい家から飛び出し、ある一軒家のチャイムを鳴らす。
「はーい、あらモチ子ちゃん」と一人の女性が出てきた。
「こんにちは!竜也のお母さん!竜也居ますか?今日、綺羅と3人で遊ぶ約束してるんです」
「あら、そうなの?…竜也!モチ子ちゃん来てるわよ?」
竜也のお母さんが階段に向かって言うと、ドン!ドドド!っと階段を下りてくる音が聞こえ…
「やっべぇ!忘れてた!」黒髪の毛をチョンチョンッとはねらせ、黒目の少年がモチ子の前に現れた。
この少年は筒賀 竜也モチ子とは幼なじみで、スポーツ万能な男の子だ。
「竜也おそーい!」
「悪いな!」
「それじゃあ、竜也のお母さん!行ってきます!」
「行ってきます!」
「二人とも気をつけて遊びなさいね!」
「「はーい!!」」
ーーーーーモチ子と竜也は公園へと急ぐと一人の金と白の間の様な、髪の色に薄紫色の瞳をした男の子がベンチに座っていた。
「二人とも遅い」
この少年は長谷川 綺羅モチ子と竜也と幼なじみで、理数系が得意な男の子だ。
「ごめんね!綺羅!竜也がやっぱり、約束忘れててさぁ」
モチ子は竜也をジーっと見つめると、竜也はそれに気がつき。
「悪かったってて、そんなに睨むなってモチ子」
「それで?今日は何する?」
綺羅の言葉にモチ子はふっふっふー!っと腕を組ながら答える。
「今日は!例の沼の女霊の正体を暴くのよ!」
「「えっ?」」
「何よ?嫌なわけ?」
「いや、僕は面白そうだから良いよ」
綺羅がそう応えると、モチ子は嬉しそうに…
「流石は綺羅!話が解る!当然、竜也も賛成だよね?」
「も、勿論だ、」
「?どうしたの?」
「な、なんでもない…」
竜也は何故か口をモゴモゴさせ、顔色が少し悪いようだった…
「竜也、無理しなくても良いよ?」
綺羅がモチ子には聞こえない様に、竜也に話す。
「だ、大丈夫だ」
「いや…全然大丈夫に見えない」
「二人とも!早くいこうよ!」
そんな二人の会話も知らずにモチ子は生き生きと公園から走り出す。
「「あ、うん…」」
3人はこうして、公園を出ると町中を抜け、ある森へとやって来た。
「な、なんか不気味な森だな」
「当たり前!普段は立ち入り禁止の森なんだから」
「入って大丈夫?」
「大丈夫!ほら、いくよ!」
モチ子は森の中へと足を進める。
「あ、まってよ」
「…」
3人はゆっくりと森の中へと進んでいく、…森の中だからだろうか?少しじめじめする…
「あともう少しで沼につくよ!」
「なぁ、や、やっぱり止めね?」
「もう!竜也!ここまで来て何いってるの?」
「いや、モチ子。僕も何だか嫌な予感がする」
「もう!良いわよ!二人はここで待って!」
そう、モチ子は言うと二人を置いて沼まで一人で来てしまった…
その沼は誰も手入れなどはしていないのだろう…草が沼の中にも関わらず生えているのがわかる。
「…何にもないか…仕方がない!二人の所に戻るか」
モチ子が行って沼に背を向けた瞬間…
ズル!!
「!?あ!」
モチ子は足を滑らせ、沼に落ちてしまったのだ。
(やばい!私、泳げない!)
モチ子何とか息をすおうとするが、体は全く上がらない!
(やばい!っ!い、き…が、)
モチ子がもう駄目…っと思ったその時!
モチ子の手を誰かが掴む!
(この、手)
モチ子はそこで気を失ってしまった…
「も…こ!」
「もちこ!」
「モチ子!」
モチ子が目を覚ました時には辺りは暗く、既に夜になっていた…。
「あれ?…助かった?」
「モチ子…良かった」モチ子に意識が戻った事に安心した綺羅は地面に力なく座る
「綺羅?あれ、私…」
「溺れかけたんだ」
そんなモチ子に仏頂面の竜也が言う。
「さっきの手、…竜也だったんだね」
「今はそんなことはどうだって良い!!」
竜也の怒鳴り声にモチ子と綺羅はビクリッとなる。
「…なんで、俺や綺羅の言うこと聞かずにズカズカ行くんだよ!マジで何なんだよ!この男女!」
「はぁ?!男女って…竜也の馬鹿!運動しか取り柄がない癖!」
「うるせ!!」
「二人とも!喧嘩しない!」
モチ子と竜也はイザコザな喧嘩をしたまま、森を出ると各々家に帰宅した。
「…ただいま」
「モチ子!お前は今までどこに…!ずぶ濡れ?!」
「…ちょっとね」
その後モチ子はお母さんのアリナと光からは心配され、巧からは怒られ、直からはバスタオルで大丈夫かーっと笑顔で言われるはめになった。