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さぶめい2~サディア領紹介~(過去作)

作者: 偽の妹

0話


「ヒサメー。こっちは準備できたよー」

「ごめんなさい、私はもう少しかかりそうです」

そう言って、巫女服に黒髪ストレートの女性、雨宮氷雨は、

緑のTシャツに黒のスパッツの上に緑と黒のチェック柄のスカートをはいた

緑髪のショートヘアでアホ毛がトレードマークのハウトに話す。

「準備って、機材は私が持つんだからなにかすることってあったっけ?」

「最初に紹介するのは私とハウトじゃありませんか」

「げっ!そうなの?」

ハウトは大げさに狼狽する。

「そうなの、て……。最初に話したではありませんか」

「げっ!そうなの?」

「……」

あぁ、こいつわざとやってるな、と氷雨は内心あきれる。

この間も氷雨は身だしなみのチェックを怠らない。

「ていうか、ヒサメが気にしすぎなだけじゃない?さっさと撮っちゃおうよ」

「……以前、ハウトはフェイと一緒に撮影してたのを覚えていますか?」

「覚えてないよ」

「どうして嘘をつくの!嘘をつくの!話が進まないじゃないですか!」

「なんで二回言ったのカナ?なんで二回言ったのカナ?」

「そういう問題じゃありません!あなた以前よりひどくなってませんか」

「たしかに私の胸は壊滅的にひどいかもしれないが……」

「胸の話などしていませんわ!?」

「胸の話しようぜ☆」

「しませんわよ!というかそう言う話し方してると別の方思い出すからやめてください!」

「意識してその方を思い出させようとしているのよ」

「やめてください!というか話を戻しますわよ。以前、お二人で撮影してましたよね。

 その時、なにか記録に残ることを領主としてできたらな、と思ったから、

 今回は私とあなた主導で撮影をおこなうことにしたのよ。

 こう言うことはあなたの方が手慣れていると思ったのですから」

まくしたてるように一気に話す。

こうしないときっと話が進まないからだ。

「あ、ヒサメ。準備できた?」

「聞いてませんの!?」

「じょーだんじょーだん♪ちゃんと聞いてたよ☆」

「……先行きがとても不安ですわ」

「それじゃ、そろそろ撮影といきますか」

「わかりました。まずはどこに行きますか?」

「んー、ここでいいんじゃない?」

「じゃあなんでセッティングしてた機材を解体したんですの!?」

「いやぁ、もしかしたら他の場所を指定するかもしれないじゃない」

「たしかに私は他の場所に行くものだと思ってたわけですし……」

「他の場所にする?」

「いえ、ここでいいですわ。というか私、すでに疲れてきましたわ……」

「まだ始まったばっかりなのに情けないな~」

「誰のせいだと思ってるんですの!?」

そんなこんなで、サディア領紹介ムービーの撮影が始まった。

1話


「みなさん、おはようございます。このような動画をご覧いただき

 ありがとうございます。本日は、私が暮らしている領、サディア領の

 紹介をおこなっていきたいと思っております。

 進行は領主である私、雨宮氷雨と――」

「副領主のハウト‐ジェリー」

「この二人でおこなっていきたいと思います。まずは、私の仕事部屋でもあります、

 執務室からお送りしてます。私はここで領主としての書類整理を私の手伝いをする

 風見未来、イルナダ‐ストロギアとともにおこなっています。その他には、

 私は特製の符作りもしております。サディア領の重要な資金源にもなってます」

「言葉遣いに違和感を感じたらそれは――」

「余計なチャチャを入れないでください!」

「お、そんなことしてるうちに、噂の未来ちゃん、イルナダさんが来ましたね」

執務室のドアが開き、猫耳に二尾のしっぽが特徴の少女、未来に、赤茶色のローブと

顔の左半分に赤茶色の文様が描かれた少女、イルナダが現れる。

「ヒサメ様、なにか用ですか?」

未来が氷雨に尋ねる。

「えぇ、これから撮影をしますので、いつも通り仕事してくださいな」

「え、撮るんですか」

「わかりました、いつも通りでいいんですね?」

未来が戸惑ってる間に、イルナダはささっと自分の仕事をし始める。

「ヒサメ様、書類を持ってきました」

「あ、今日は私は撮影を主にやるので、重要案件以外はあなたたちでやってちょうだいな」

「ですが、それ以外はすでに私と未来で終わらせているのでここにあるのは

 重要案件だけですよ?」

「……」

氷雨が何とも言えない表情をしている。

無理もない、この撮影のために何日も領民に交渉したりしていたのだ。

当然その間は重要案件を片付けることはできない。

「ハウト、私はしばらく書類を片付けますから、撮影は一人で行ってきなさい」

「なに言ってるんですか。仕事の様子を撮影するにきまってるじゃないですか。

 もちろん書類の中身まで詳細に――」

「それを撮ったら大変なことになりますわ!?いいから他の所に行きなさい」

「じゃあ書類の中身は撮らないから仕事の様子くらいはいいでしょ?」

「うーん、しょうがないですわね……」

氷雨が頭を唸らせながら悩む。

「ヒサメ様、私たちはすることがないので、ヒサメ様のあられもない姿を鑑賞……

 もといハウト様の監視をしています」

「イルナダ!今本音が漏れましたよ!」

「イルナダさん、そう言うことは言っちゃだめですよー」

氷雨と未来が揃ってイルナダを非難する。

「では、私はなにをしたらよいでしょうか?」

「……いいからハウトの監視をしてなさい」

「わかりました。ヒサメ様のあられもない姿を――」

「それはもういいですわ!」

心なしか、氷雨の背中がやつれているように見える。

ヤられているように見えるだと本当にあられもない姿をさらしているかもしれない。

しばらく撮影していると、

「ヒサメ、仕事早いねー」

「ヒサメ様はすごい方ですから」

そんな会話が聞こえてくる。

数百枚はあったと思われる未確認の書類が、

ものの三十分足らずで残り十枚ほどになっていた。

常人離れした目の動き、動作で、一枚一枚本当に確認しているのか疑問なくらい――しかしちゃんと確認している――な速さで書類に目を通し、必要事項をきちんと記入している。

なぜそれがわかるかというと、イルナダが書類の確認をしているからだ。

決して注意したのに無断で撮影しているからではない。

もし無断に撮影すると国際問題に発展してしまうので非常に危険だ。

ちなみにイルナダはヒサメが作業を始めるなり、ハウトの監視を未来に押しつけて

書類のチェックを勝手にしていた。それはいいのだろうか?

「……よし、終わりましたわ」

「おお、これなら撮影の影響もほとんどなさそうだね」

氷雨が肩を鳴らしながら立ち上がる。

「さてと、次の場所、私が決めてもいいかしら?」

「構わないよ、食堂以外なら」

「なんでダイレクトに私の要望を除外したんですの!?」

「休憩などさせないよ☆」

「少しは休ませてください!お茶の一つでも飲ませてください!」

「それなら私がパソコン部品入りの特製ドリンクを――」

「素直に媚薬と言いなさい!というかそんなもの飲まさないでください!」

「まったく、ヒサメは注文が多いなぁ」

「誰のせいですの、誰のせいですの!」

なんで二回言うのカナ?なんで二回言うのカナ?

「あ、未来ちゃん、イルナダさんはこれからどうする?」

「わたしは部屋でのんびりしようと思います」

「私は未来の部屋でいろいろなことをしようと思います」

「わたし、それだとのんびりできないよね!?」

「じゃあ未来の部屋でひっそりとしようと思います」

「まぁおとなしくしてればいいですよ……」

「じゃあさっさと未来の部屋に行って下着探ししましょう」

「ひっそりする気ないよね!?」

さっきから未来が珍しく大声でツッコミを入れている。

ハウトは機材を片付けながら未来たちに声をかける。

「私たちは食堂行ってくるから、またね」

「結局食堂に行くんですのね」

「だってヒサメが行くって言ったんじゃん」

「誰かさんに除外されましたわ!」

「??」

「なんでそこで不思議そうな顔をするんですの!」

「いいから早く行こ☆」

「はぁー、わかりましたわ」

氷雨はハウトと組んだのは間違いだったと思い始めていた。

そんなわけで、舞台は執務室から食堂へ……。

2話


ハウトと氷雨は食堂に入るなり、お茶を要求した。

氷雨は疲れているからだが、ハウトは特に理由もなく要求した。

その間にハウトは機材をセッティングしていく。

「さてと、調理中だから一人ずつ呼んで紹介しようと思うんだけど、異論はない?」

「ないですわ」

「じゃあ呼んできて」

「なんで私が……。さっきまで仕事したりあなたの相手したりして疲れているのですが」

「私の相手をするとみんなグヘヘヘヘってなるからね☆」

「なんか怪しい人になってますわ!それとなんでそんなに誇らしげなんですか!?」

「??」

「だからどうしてそこで不思議そうに首を傾げるんですの!?」

「いいから撮影始めないと、今日中に終わらないよ?」

「あなたが話をそらしたんですわ!」

氷雨は満足にお茶を飲むこともできずにツッコミを入れている。

ハウトは、そんな氷雨のことを特に気にもせず、撮影に向けて一人で動いていた。

「あ、リース。ちょうど良かった。これから撮影なんだけど、最初の人、いい?」

ちょうど新しいお茶を持ってきた、金髪をサイドにあわせて四つのドリルにしていて、

真っ白の厨房服に身を包んだリースに声をかける。

「え、わたしですか?」

「たしかに一番適任かもしれませんわ」

「じゃ、じゃあ、わたし、やろうかな」

「そんじゃ、カメラ回すよー」

「「はい」」

食堂での撮影が開始された。

3話


「私たちは今、食堂にいます。ここでは、多くの領民たちが夕食を食べていますわ。

 なぜ夕食だけかというと、私たち半魔や魔族の方は人間と違い、三食必ず食べなくとも、

 大気中のマナ、この世界ではリアと呼ばれるものを自然と摂取することで、

 健康を維持できるからです。ちなみに、食堂の下は厨房になっております」

「ヒサメ、厨房から一人拉致って来たよ」

「そう言う言い方しないでください!」

「え、えっと、こんにちは~」

リースがおずおずしながら現れる。

「この胸がペッタンコの女の子はリース‐デンバー。なんと、この領の料理長でがふっ」

語尾が変なのはリースがハウトのことを引っ叩いたからである。

「ハウトだって対して変わらないじゃないの!」

「いたた、全力で殴るかね、普通」

「もーっと殴られたいですかー?」

「やめて、私がMに目覚めちゃう!」

「いっそのこと目覚めちゃえばいいですわ」

氷雨がハウトを冷たく見放す。

「あ、そういえば、最初に私たちの紹介するって言ってたけど、するの忘れちゃったね」

「もう私必要なさそうです!」

「あ、次の人呼んできてがふっ」

語尾が変なのはリースがハウトのことを殴ったからである。

「扱いひどすぎないですか!?」

「グーで殴ってから言わないで!?」

「リースさんは、怒るととても怖いので皆さんも注意してくださ、おっと」

「避けられた!?」

「フフフ、私に殴りかかるとは良い度胸ですね、リースさん」

氷雨が笑顔でリースを脅す。

「……すみません、調子に乗りました」

「わかればよろしい」

「氷雨はリース以上に怒るととても怖いので皆さんも注意してね☆」

「……まぁ、否定はしませんわ」

「じゃあ、わたしは別の人呼んでくるね」

「いってらっしゃーい」

「さて、私たちの紹介ですけど、こんだけ目立ってれば必要ないんじゃないんですの?」

「それは違うぞヒサメクン。もっと素の自分をアピールしてだなぁ――」

「その鬱陶しいキャラやめてください!私は十分ですからハウトだけでも

 今のうちにやったらどうですの?」

「こんにちは、私はハウト。ハウト‐ジェリーよ。みんな、よろしくね☆」

「じゃあ次の人が来るまで待機してましょう」

「オッケー!」

そうして、しばらく待っていると、真っ白の厨房服に身を包んだとてもガタイの良い男が

のっしのっしとやってきた。

「おぅ、撮影現場ってのはここか?」

「げ、お前か」

「気持ちは分からなくもねぇが、言葉に出すなよ……」

「ま、まぁ、昔と違って、真面目になったんだから大丈夫よ、ハウト」

「だといいけど」

ハウトが前回の鬱陶しさを思い出して辟易する。

「まぁいいわ。この男はジェガース‐M‐デンバー。なんと!

 あのリースの旦那さんなのよ!こんちくしょー、先に結婚しやがって!」

「人間に換算するとまだ二十代くらいですから焦らなくても大丈夫ですよ」

「通常換算だともう百歳近いけどね!」

「まぁ、俺が言うのもあれだが、気にすんな」

「ちなみに、半魔の寿命は二千年、魔族の寿命は二万年と言われてますが、

 実際そこまで生きてる人がいないので真相は定かではありません。

 外の世界ではもっと寿命の短い半魔や悪魔、妖怪もいますからね。

 なお、この世界では悪魔や妖怪のことを魔族と一括りにしています」

「説明乙」

「だからそういう言い方はやめてください!」

「ていうか、さっきから登場する人物ほったらかしてなんか別の説明してるよね?」

「俺は気にしてないから構わないぞ?」

「家庭を持ったら随分と殊勝な態度になったね」

「恥ずかしい父親にはなりたくないのでな」

「ふーん、そういうもんなんだ。あ、そろそろ次の人呼んでもらってもいい?」

「あぁ。どうせなら二人同時でも良いか?」

「えぇ、構いませんよ」

「りょーかい。ちょっと待ってな」

そういうと、ジェガースはまたのっしのっしと厨房へと去っていった。


ほどなくして、厨房服に身を包んだ二人組がやってきた。

一人は金髪をルーズカールにしている女性、もう一人は茶髪のショートヘアの男性だ。

「こちらでよろしいですか?」

「あ、うん、こっちで大丈夫だよ」

金髪の女性が尋ねたのでハウトが答える。

「こちらの金髪美人がシフティ‐オーウェン。

 隣にいる茶髪の青年がウィーン‐オーウェン。

 名前からもわかる通り、お二人は夫婦です」

「ど、どうも」

「なんか反応が普通すぎるわね。もっとなんか、ドカーンと面白いことを――」

「無理させないでください!それにこの子たちは普段から目立つことを嫌ってますのよ」

「じゃあ今から目立つことを好きになろうぜ☆」

「だから無茶言わないでください!ほら、二人が呆気にとられてるじゃないですか!」

「あ、あの、そんな、面白いこと、できないです、よ?」

ウィーンがおろおろしながらそう発言する。

「あなたたちも無理してやらなくて大丈夫ですわよ。

 ハウトが勝手に言ってることですから」

「じゃあ、そろそろ私たちは次の場所に行ってくるね」

「一人で勝手に話を進めないでください!」

「じゃあ、そろそろ私たちは次の場所に行く?」

「なんかコピペ見たいな言い方ですわね……。

 シフティたちはこんな紹介で大丈夫ですの?」

二人は顔を見合わせてから、

「「大丈夫ですよ」」

そう言った。

「そう。なら、私たちは次の場所に行ってきますわ。夕食、楽しみにしてますわよ?」

「「は、はい!」」

二人は返事をすると、厨房の方へと帰っていった。

「じゃあ、次の場所に行きますか」

「そうね。次は大広間だったかしら?」

「ヒサメの部屋じゃないの?」

「……ハウトさん、私の部屋になにしに行くんですの?」

「もちろんナニしにげふっ」

語尾が変なのは氷雨がハウトを殴ったからである。

「……ハウトさん、あっちの人だと勘違いされますわよ?」

「たしかに百合か薔薇かと聞かれれば百合よりだが」

「そんなことは聞いてませんわ!いいから早く次の場所に行きますわよ!」

「へーい」

こうして、舞台は大広間へ……。

4話


大広間へ着くと、早速ハウトは機材の設営に取りかかる。

氷雨は次の出演者を呼びに行ってここにはいない。

ハウトは設営が終わると、おもむろに椅子を取り出して、逆さまにした状態で器用に座る。

「うわっ!なにしてるんですか、ハウトさん!?」

そこへ大広間で最初の出演者である、青白い髪の毛に裸の上に毛皮のコートを纏った、

ポール‐メルビンがやってきて衝撃を受ける。

「いや、なんか暇だったから」

「暇だからでそういうことしないでください!ほら、撮影始めますわよ」

「へーい」

「さっきからやる気が無くなりすぎですわ!もう少しやる気出してください!」

「よっしゃあヒサメ、ここの撮影はこの俺様に任せなああぁぁ」

「無駄なやる気は出さなくて結構です!」

「じゃあどうすればいいのよ?」

「……あなたには普通に、という言葉はないのですか?」

「ないよ?」

さも当然のことをと言わんばかりに答えるハウト。

「嘘おっしゃい!昨日とか普通に過ごしてたじゃありませんの!」

「あ、あの、いい加減始めないとメイド長とすご……掃除する時間がなくなっちゃいます」

「ポールさん、本音が漏れ出てますわよ」

「べ、別に、メイド長と一緒にいたいからじゃないんだからな!」

「お、ノリいいねぇ」

「まったく……。ハウトさん、撮影始めますわよ」

「もう撮ってるよ」

「「!!!!!」」

ハウトの発言に衝撃を隠せない氷雨とポール。

「今のやり取りはそのまま紹介に使えそうね」

「やめてーーーーーーーーーー!!!!!!!」

ポールが悲痛な叫びをあげる。

「ポール、諦めなさい。ハウトはやるといったら必ずやるわ」

「そ、そんな、いや、まだ間に合う。メイド長!すがふっ」

語尾が変なのはハウトがポールのみぞおちを殴ったからである。痛い。

「さ、次の人呼びましょ☆」

「ポールさんが不憫でなりませんわ……」

「さ、次の人呼びましょ☆」

「……わかりましたわ」

そうして、次の人を呼びに行く氷雨。

ポールを引きずりながら……。


次に現れたのは、金髪のショートカットに赤色のコートを着ている青年だ。

「お、次は予想通りの子が来たわね」

「なんかポールが泣いてたけど何をしたんだ、お前ら?」

「なにもしてないわよ☆」

「なにもしてませんわ」

ハウトと氷雨が声を揃えて言う。

「いや、でも――」

「なにもしてないわよ☆」

「なにもしてませんわ」

ハウトと氷雨が声を揃えて言う。

「あぁ、わかった、何もなかったんだな?」

「「わかればよろしい」」

「でだ、カメラまわってるってことは以前あったみたいなことだろ?」

「そうね、できれば、自己紹介していただけると助かりますわ」

「そうか。俺はハミルトン‐ディアード。この領の清掃員ってところか。

 料理人のジェガースとはマブダチだぜ。まぁ相方はすっかり子煩悩になっちまったがな」

ハミルトンはカメラに向かってキザったらしくポーズを取りながら喋る。

「あ、カメラ回してなかった」

「え、ちょ、おい!今の俺の紹介を残してないのかよ?」

「ハウトさん、いくら残したくないからって、嘘は良くないですよ」

「ホントだよ?」

「……本当なんですの?」

「ホントダヨ?」

「なんで片言になってるんですの!?怪しいですわ……」

「あのー、撮れてないんならまた自己紹介しますよ?」

「じゃあ撮れてるよ」

「じゃあ、てなんですか!?初めから撮れてると言えば良いじゃないですか!?」

「俺のことを鬱陶しいと思うのは良いが、あまり氷雨さん困らせるなよ……」

「あ、ヒサメ。次の人呼んできて」

「ちょ、扱いひどくね!?」

「安心しなさい、他の方もほとんど変わらない扱いですわ……」

何かをあきらめたかのように氷雨がハミルトンに伝える。

「ヒサメ、次の人を――」

「はいはい、わかってますわ」

「あ、じゃあ俺も呼びに行くの手伝いますよ」

「そう、助かるわ」

そう言って、二人は次の人を呼びに行った。


次に現れたのは、メイド服を来た人型ロボットだ。

「フォルタ、忙しいのにごめんなさいね」

「いえ、ヒサメのご指示であれば、なんなりと」

「お、やってきたね、超ハイテク機械のフォルタさん」

フォルタさんは長い金髪を靡かせながら優雅にやってくる(ハウトの主観です)。

「さ、自己紹介お願いね」

「かしこまりました。私の機体コードはAT04、アサルトタイプ4号機です。

 マスターから頂いた名前はフォルタ‐エイティです。フォルタとお呼びください」

「さすがフォルタさん、今までと違って紹介も完璧だ」

「恐縮です、ハウト」

フォルタが丁寧にお辞儀をする。

「ちなみに私やハウトのことを呼び捨てにしてるのは、

 先代マスターのご指示によるものですわ」

氷雨がカメラに向かって説明する。

フォルタは氷雨が話し終わるのを待ち、

「現在はお屋敷のメイド長として働いております。料理のお手伝いもしますが、

 メインワークは屋敷の掃除をおこなってます。また、掃除を担当する二名、

 料理を担当する四名のシフトを考えるのも私の仕事に含まれてます」

「丁寧な紹介ありがとね」

「いえ」

ぺこりと頭を下げるフォルタ。

「それにしても、今回は随分とおとなしいわね、ハウト」

「フォルタさんは敬意を払うだけの人と判断してるからね」

「いつもこれくらい殊勝なおこないをすれば良いですのに」

「それじゃあつまらないじゃん」

ハウトが唇を尖らせながら言う。

「申し訳ありません、私のデータではなにか気の利いた一言を発することができず……」

「あ、気にしなくていいのよ。フォルタはこのままが一番だから」

「そうですわ。面白いフォルタもちょっと見てみたい気持ちもありますが、

 今のあなたは十分魅力的ですよ」

「そう言っていただけると助かります。では、そろそろ仕事に戻ります」

「うん、いってらっしゃい」

フォルタは丁寧にお辞儀をすると、掃除をしに戻っていった。

「さて、次は屋敷内のフリーの人を捕まえますわね」

「りょうか~い」

氷雨は次の獲物を探しに屋敷内を散策し始める。


「ハウトさん、フリーではないですが屋敷内にいたので連れてきましたわ」

「おい、研究の真っ最中に突然やってきて拉致るとはどういうつもりだ?」

「あ、フェイ」

「ん?あー、そういうことか。そういえば今日だっけか」

けだるそうにやってきた、白のワイシャツに藍のネクタイの上に白衣、

黒のスーツズボンを着用した、銀髪のショートヘアの青年、フェイが

カメラが回してる状況を見て即座に理解する。

「違うよ?」

「「なんで否定するんだよ(ですの)!?」」

「うわ、息ぴったり」

「「……」」

「うわ、息ぴったり」

「ヒサメさん、無視していいですか?」

「ええ、構いませんわよ」

「ひどっ!」

「自業自得だ」

ハウトの行動に振り回されるのを拒否した氷雨とフェイに衝撃を受けるハウト。

ハウトに始まりハウトで終わっているが特に意味はない。ないんかい。

「ところで、奥さんは連れてこなくてよいのかね?」

「どんなキャラだよ……。イルティスは出演依頼ノーじゃなかったか?」

「あ、そのメガネ似合ってるね」

「話聞いてねぇ!まぁ、研究中はメガネをかけるのが常になってきたからな」

「ちなみに、フェイさんはマナの研究に勤しんでおります。ご自身が発症している、

 マナ欠乏症でしたっけ?それの研究を自身の体験を交えながらおこなっています」

「説明ありがとうございます、ヒサメさん」

「いえいえ」

氷雨の丁寧な説明に感謝を示すフェイ。

「ちなみにイルティスさんという人はフェイの奥さんで、私はフェイの彼女です☆」

「説明をはしょるな!」

「はしょってないよ?」

「まったく……。あー、元々はハウトの彼氏だったんだが、ハウトは……てこれ、

 カメラの前で言っていいのか?」

「構わないわよ☆」

「だから☆を付けるな」

「構わないわ」

「ん。ハウトは、子どもが産めない体なのと、ハウトがフェイも子供作ったら?と

 進めた経緯があってな。オレに好意を持っていたイルティスにすべて話したうえで

 婚姻した、という話だ。まぁ、普通ではない事情と価値観があるからできたわけだが」

「私たちの世界では男性が少ないこともあって、一人の男性が複数の女性を愛することを

 公認してるところがあるのよ。先に登場したリースも、昔は私と一緒にフェイのことを

 好きだったこともあるくらい」

「ただし、リースさんはやや独占欲が強かったので対立したことがあるんでしたよね?」

ハウトとフェイが自分たちのペースで話していたため、なかなか話す機会を

見いだせなかった氷雨がここぞとばかりに答える。

「あぁ。だが、そのことはあまり話したくないな」

「あら、そうなんですの?」

「ヒサメさん、結構シビアですね……」

「うふふ」

「ヒサメー、そのこと話すと長くなるからまた今度、ね?」

「わかりましたわ」

「じゃあ、オレはそろそろ失礼するよ」

「うん、じゃーねー」

小さく手を振るハウト。

「あ、フェイさん」

「ん?」

氷雨の呼びかけにフェイが足を止める。

「ついでにラナヴェルさんに来るように言ってもらえるかしら?」

「ええ、構いませんよ」

「ありがとうございます」

「いえいえ」

そう言って、屋敷の奥へと去っていった。


しばらく待っていると、白のワンピースを着た、

灰色の髪をおかっぱにした少女がやってきた。

「……フェイに呼ばれた」

「あ、ラナちゃん、やほー」

「……やほー」

ハウトがテンション高く挨拶すると、少女、ラナヴェルも返事をする。

「この子はラナヴェル‐ナン。フェイの研究の手伝いをしている、という形ですが、

 実際はこの子がいるから研究が成り立っているといっても過言ではないですわ」

「……私の力、マナの動き読むのに必要」

「ちょっと無口だけど話すのが嫌いなわけじゃないよ」

「……」

ハウトの言葉に無言で頷くラナヴェル。

「ハウトさん、ラナちゃんには何かしないんですの?」

「心外だなー、人をまるで変なことをする人みたいに」

「さっきまで散々変なことしてたじゃありませんの!」

「ラナちゃん、あーいう風になっちゃダメだがふっ」

語尾が変なのは氷雨がハウトを思いっきり殴ったからである。

その影響で数メートルは吹っ飛んだハウト。

「ちょっと!もう少し加減してよ!さすがに死ぬよ!」

「あなたには良い薬ですわ」

「……自業自得」

「ラナちゃんにまで言われた!?」

「……ハウトは頑丈だからこの程度じゃ死なない。良い薬にするならもっと強く――」

「ラナちゃん、ガチでやばいからそれ以上は言わないで!」

「……クク」

ラナヴェルが不敵に笑う。

「ていうか、ラナちゃんこんなキャラだったっけ?」

「カメラ回してるからじゃありませんの?」

「……映像作品に虚構は付き物」

「ぼちぼちラナちゃんには退場願おうか?」

「ハウトさんを振り回すとは、なかなかやりますわね」

「……ブイ」

カメラに向かってブイサインをするラナヴェル。

「ありがとう、ラナちゃん。もう戻っていいですわよ」

「……わかった」

ラナヴェルは返事をすると、とてとてと屋敷の奥へと消えていった。

「さて、そろそろ場所を移りましょうか」

「お、ついに大浴場に行く気になったか」

「そんなところに行く気になってなどいませんわ!

 というかハウトはそこでなにを撮るつもりですの?」

「ヒサメのあられもない姿をブシッ」

語尾が変なのは氷雨がハウトを尋常じゃない強さで殴ったからである。

吹き飛んでいる途中で体勢を立て直したハウトがカメラのある位置に飛んで着地する。

「ハウトさん、冗談はほどほどに、ね?」

「ワカリマシタ、ヒサメサマ」

「うふふ、それでいいのよ、それで。では、門の前に行きますわよ」

「ワカリマシタ、ヒサメサマ」

氷雨はどこか壊れた機械のように話すハウトを引き連れながら、門の前へと向かう。

5話


氷雨とハウトは門の前に立つと、機材のセッティングを始める。

その後、ハウトは現場で待機、氷雨は門番をしている人に出番が来たことを説明する。

「――では、お願いしますね」

「ワカリマシタ、ヒサメサマ」

「あの、ハウトさん、なにかあったんですか?」

ハウトの不思議な様子に声をかけずにはいられなかった、黒髪をポニーテールでまとめ、

赤の袴に上半身はさらしのみという露出度高めの女の子。

その隣では、茶色がかった黒髪に椿の形をしたヘアピンをとめて、ピンクの着物に

紫の袴を着た女の子が苦笑いをしている。

「良いのですよ、雫さん。そのうち正気に戻るでしょうし」

「はぁ……」

「ハッ、私は今までなにをしていたんだ?」

「ほら、戻りましたわ。ハウトさん、これから撮影ですよ」

「あ、そうなんだ、ごめんね。なんか、意識飛んでたわ」

「フフ、良いのですよ」

ハウトは一度頬をバチンと両手で叩いて気を入れる。

「じゃあ、撮影開始といきましょうか」

「えぇ」

こうして、門の前での撮影が始まる。

6話


「ただいま私たちは、門の前に立っております。私たちの屋敷では、

 いつも門番が立ってくれています。外敵はほとんどいなくなったので

 不要と言えば不要なのですが、有志によっていまだに存在しています。

 また、朝から夕方にかけての方と、夜の方がいますので、

 屋敷は常に門番がいる状態を保っております」

「やたらおりますを使ってるけどそれって――」

「ハウトさん少し黙っててください。まずは、本日の門番を担当している

 お二方をご紹介します。ポニーテールの女の子が花咲雫。

 ショートカットの女の子が花咲小雪。お二方は姉妹で門番をしています」

カメラの外で待機していた二人が現れる。

「「どーもです」」

「さすが姉妹、一挙手一投足が瓜二つだ」

「いや、そこまで似てないと思いますが……」

雫がおずおずとハウトの言を否定する。

「雫さん、もっとスパーンと突っ込んで良いのですよ?」

「いや、そんな恐れ多いことできないです」

「やっぱり、お姉ちゃんでもお二方の前だと委縮しちゃうんだ」

「当たり前だろ、この領の領主様と副領主様だぞ」

「そう!そういう普通の会話が欲しかった!」

ハウトがパチンと手を合わせながら叫ぶ。

「たしかに、畏まり過ぎたお二人を撮ってもあまり意味ないですからね」

「「は、はぁ」」

「よし、二人で好きなように会話するといいよ。それをばっちり撮ってあげるからね」

「うえぇ!?」

雫が戸惑った驚きを上げる。戸惑っているのに驚いているのは多少変かも知れないが

気にしないでおこう。それでいいのだろうか……。

「ハウトさん、そろそろ次の方をお呼びした方が良いのではなくて?」

「んー、もうちょっと二人の日常会話撮りたいけどなー」

「今はこの程度で大丈夫でしょう。あまり時間が経つと夕食に間に合いませんわよ」

「ヒサメが仕事ためてなければいけたんじゃね?」

「だったら交渉する時にもっと手伝ってください!

 あなたなにもしなかったじゃありませんの!」

「いやぁ、領主の許可なしに勝手に撮るなんて失礼じゃん」

ハウトが極上のドヤ顔を披露する。

「なんでそんなにドヤ顔なんですの!?」

「あ、じゃあ私たちは次の人呼んできますね」

雫がピリピリした空気を裂くように会話に割り込む。

「あ、そうね、お願いしますわ」

「40秒で支た――」

「やめなさい!いいかげんにしないとまたオトすわよ!?」

「ハイハイ、わかりましたー」

「まったく……」

氷雨はハウトとのやりとりに大分疲れているようだ。

そんなこんなしているうちに、次の出演者がやってくる。

金髪を靡かせながらやってきた二人はなにやら会話をしながら来ているようだ。

「……で、今日は撮影、つって私らの様子とるんだと」

「へぇ、そうなんですか。でも、その話しぶりからすると、以前もあったんですか?」

「あぁ。その時はちょこっとしか出てないけどな」

「ふむふむ」

どうやらこれからの撮影について話をしているようだとハウトは思い、

カメラを無断で回そうか悩んだが、金髪の片方、白のシャツに

赤のロングスカートをはいていて、頭に二本の立派な角を持った鬼、

ライの反感を買うのを恐れて回すのを諦めた。

「こんにちは、ハウトさん、氷雨さん」

「こんにちは、レストラン」

レストランというのは飲食店のことではなく、金髪のもう片方、

全身に鋼の鎧を着こんだ人の名前だ。

「こんちは、ライさんにレストラン」

「おう」

「あんまりレストランって連呼しないでほしいかも……」

レストランは自身の名前の意味を知ってから自身の名前があまり好きではなくなっていた。

「まぁ諦めなって」

「ですかねー」

鬼の女性、ライがレストランを励ます風に諦めを促す。励ます風というのは

励ますようにしながらまったく励まさないことを言う。じゃあ励ましてないじゃないか。

「それでは、撮影を再開しますね」

「こっちも準備OKだよ」


「えー、こちらにいらっしゃいますお二人は、先ほどご紹介した門番のうちの二人、

 鬼のライさんと、レストラン‐シャイン‐ソランジュさんです」

「おう」

「こんにちは」

「ライさんはこの領で最も強い方でもあり、私やハウトもいつも助けられてます」

「私はライさんに修行してもらってるのよ☆」

「まぁ、最近だとシルの相手ばかりで私との修行はほとんどしてないがな」

ライがにやにやしながらハウトに告げる。

「ごめんね。でもあの子をきちんと育てたくてさ」

「別に構わんよ。私はいつでも待ってるからな」

「うん、ありがとう」

「いやに素直じゃないですか」

「そりゃ、ライさんの前だからね」

「ハウト、また好き勝手やってたのかお前は……」

ライはあきれ顔だ。

「ほら、それでこそ私じゃん、みたいな?」

「前回も言ったと思うが、あまり迷惑をかけるんじゃないぞ?」

「はーい」

「さて、今日は非番だから、部屋でゆっくりさせてもらうよ」

「あ、私も自分の部屋に帰りますね」

「うん、ありがとね」

そういうと、ライとレストランは屋敷の中へと入っていった。

「ハウトさん、あまり迷惑をかけるんじゃないぞ、だそうですよ」

「フフフ、この私がそれで大人しくなると思っているのかね?」

「思ってないですが知りませんよ、後がどうなっても」

「ま、相手は選ぶわよ」

「やれやれ」

氷雨はため息交じりにつぶやく。


「撮影会場はここでいいのか?」

「うわっ!?びっくりした!」

後ろから突然声をかけられたハウトが驚いて飛び退く。

ハウトの後ろにいたのは、黒髪を無造作に放っている女性と、

茶髪をセミショートのストレートで整えている女性だ。

二人とも白衣を着ているが、黒髪の女性はボタンをだらしなく開いていて

中に着ているややくたびれた白のワイシャツと灰色のこちらもややくたびれた

スーツズボンが見え隠れしている。

「春奈さんに夏美さん、どうしてここに?後で研究室に向かう予定でしたが?」

氷雨が疑問に思ったことを二人にぶつける。

「あー、面倒になったから他の奴に聞いてこっちから出向いた。

 それと、あー、自己紹介とかした方がいい感じか?」

「そうだけど随分ダルそうだね?」

「あー、寝不足だ。私は、あー、鮫島春奈。機械系の研究をしている。

 で、あー、こっちの人は鮫島夏美。私の妹で、あー、助手だ」

「よろしくお願いします」

茶髪の女性がぺこりと会釈する。

「ハウト、撮影してますか?」

「ばっちり☆」

「そう、ならいいですわ」

「あー、もう帰っていいか?」

春奈がけだるそうに問いかける。

「お姉ちゃん、いくらなんでも適当すぎだよ」

「とはいえ、紹介することなんぞ他にないぞ?」

「それは、そうだけど……」

「もう三日寝てないんだ。今日は寝かしてくれ」

「はいはい。夕飯はいらないって伝えておくね」

「おう、頼む」

そう言って春奈はあくびをしながら屋敷へと戻っていった。

「さて、妹さんはどんなことをしてくれるんだいグヘヘ」

「なんか変態みたいになってます!?」

「ほら、早くその上着をへぶっ」

語尾が変なのは氷雨がハウトを引っ叩いたからだ。

「あまり変なことすると春奈の実験に付き合わされますわよ?」

「うっ、それは勘弁……」

春奈の実験は精巧な義手を作ったりすることもあるので、実験に付き合わされると

もれなく腕が一本義手に変わります。義手とは一体……。

「それじゃあ、私は食堂に行って、お姉ちゃんが来ないこと伝えてきますね」

「いってらっしゃーい」

「またあとでね」

夏美は手を振りながら屋敷へと入っていった。

「あ、師匠、こんなところで何やってるんですか?」

「ん、シルか」

夏美と入れ替わりやってきたのが薄い蒼髪に黒のホルターネックのシャツに、

ジーンズの短パンをはいた女の子、シルと、

白の帯のようなものが胸辺りから垂れ下がっていて、

足のところで重力などないかのように上を向き、色は黒へと変わっていく

不思議な服装をした見た目は少女の男の子がやってきた。

「お二人とも、ここでなにをしてるんですか~?」

間延びした口調の少女風少年が質問する。

「今はここで二人の様子を撮影してるんだよ」

「げ、マジで!?師匠、それ先言っといてくださいよ」

ちょっぴり乱れた髪を整えるシル。

「いまさら焦ってもしょうがないよ~。でもなんで急にそんなことを~?」

「ルイルさん、私この前説明してOKしてましたよね?」

氷雨が頭を抱えながら確認する。

「そんな昔のことは忘れました~☆」

「あ、ルイル。☆は私の特権だよ☆」

「それはすみませんでした~」

「なにやら私には理解できない会話をしていますわ……」

「しょうがないですよ、私とかルイルとか馬鹿ですから。

 師匠のは私も理解できないですが」

「お、シルちゃんそんなこと言っていいのかなぁ。明日たっぷりとしごいてあげようか?」

「横暴だ!」

「フッフッフッ、師匠の命令は絶対なのだよ、シルくん」

「サーイエッサー!」

「よし、次の人を呼んできなさい!」

「サーイエッ……てちょっと待って、次の人わからないよ!?」

「次の人を呼んできなさい!」

「無茶だ!」

「シルさん、無視していいんですよ?」

「師匠の命令は絶対であります!」

「……」

氷雨がとてつもなくあきれている。

「ヒサメ様~、誰を呼んで来ればいいんですか~?」

「あ、ルイルさん。えーと、クノンさんとカナミさんを呼んできてもらってもいいですか?」

「お安いごよ~です~。お姉ちゃん、一緒に行くよ~」

「あ、ルイルも来てくれるの?助かるわー」

「あ、遅れたけど紹介を。シル‐デンバー。リースの長女。私の弟子。

 ルイル‐デンバー。リースの次男。我が領随一の治癒士。よし、行って来い!」

「師匠、紹介雑っす!行ってきます!」

「行ってきま~す」

バタバタとしながら二人は屋敷の中へと入っていった。

「あ、ヒサメ様~、二人の部屋ってどこですか~?」

と、ルイルが戻ってきて質問してきた。

「知らないで駆け出していったんですか!?まったく、私もいきますわ」

「二人に行かせた意味ねぇ~」

「ハウトはここで待っててくださいね。

 く・れ・ぐ・れ・も・変なことしないでくださいね!?」

「ウンワカッタ、よし、別のカメラを大浴場にがふっ」

語尾が変なのは氷雨が掌底打ちをかましたからである。

「い・い・で・す・ね!?」

「はい」

そうして、氷雨は屋敷にいるクノン、カナミを迎えに行った。


「……」

「……」

「……」

「……だーもう、誰かしゃべりなさいよ!」

しびれを切らしたハウトが大声で叫ぶ。

今この場にいるのは顔に大きなレーダーを付けた緑髪のアンドロイドの

クノン‐エイティと、露出度の高い忍装束を纏った、

黒髪をポニーテールにしているカナミ‐サクラバ、ハウト、氷雨の四人だ。

命令が無いと喋らないクノンと、元から寡黙なカナミと、あえて喋らない氷雨のせいで

撮影しているにも関わらず誰も喋らない事態となっていた。

「カナミさん、なにか話してください」

「特に話すことなどない」

「ていうかクノンと一緒の時、なにか話したりしないんですか」

「……しないな」

「クノンもなにか話さないの?」

「デシタラナニカワダイヲテイキョウシテクダサイ」

「今日の天気は?」

「ミレバワカルダロ」

「ヒサメー、会話にならないー!」

ハウトが氷雨に泣きつく。

「まぁこの二人は話すのが得意ではないですからね。

 ちなみにお二人は夜の門番を担当しています」

「もう次いっていい?」

「お二人はよろしくて?」

「かまわん」

「カマイマセン」

「では、お二人とも、お忙しい中ありがとうございます」

氷雨がお礼を言うと、一礼して屋敷へと入っていく二人。

「ていうかあの二人、今日は非番だよね?」

「細かいことは気にしない方が良いですよ」

「……だね」

「後紹介してないのは――」

「外出組と今日の夜門番の人たちだけだね」

「ふむ。なら、まずは長期外出中の二人を呼びますか」

「りょーかい、連絡しとくよ」

「お願いしますわ」

ハウトは懐からケータイ(電気ではなく魔力で動きます)を取り出し、連絡を取る。

「あ、リュートさん?理央くんとレルクくん連れてきたいけど大丈夫?

 うん、うん、大丈夫なのね。じゃあ、今から迎えに行くね。うん、またあとで」

電話での会話を終えると、

「じゃあ、私、二人を迎えに行ってくるね」

氷雨に外出する旨を伝える。

「えぇ、待っていますわ」

氷雨はハウトを送りだし、しばしの休息をとる。

7話


「あ、ヒサメ、連れてきたよ」

「あら、おかえりなさい」

「お久しぶりです、氷雨さん」

「俺、まだ修行の途中なんですけど……」

ハウトが連れてきた二人、黒髪ストレートのショートヘアーで、

青と白のチェック柄のTシャツに濃い灰色のチノパンをはいた青年、村雨理央と、

濃い蒼の髪を同じくストレートショートヘアーにしている、

ほど良く筋肉の付いた体を隠すことなく見せてる上半身と、

薄茶色のワイドカーゴパンツを着た青年、レルク‐デンバーが思い思いの意見を述べる。

「紹介終わったらすぐに帰ってもいいのですよ?」

「そう、オレはレルク‐デンバー。母さん、リースの長男だ。もう帰っていいか」

「ダメ」

「ヒサメさん帰っていいって言ってたよね!?」

「ハハハ……」

「簡単に帰すわけないじゃん、せっかくの獲物を」

「獲物!?」

「あ、ほら、きっと、ハウトさんのトークの相手じゃないかな」

「理央くん達観してるけどあなたも獲物よ」

「ですよねぇ……」

理央が遠い目をしている。

「えー、お二人は現在、別の領にて修行中です。レルクくんが剣術、理央くんが魔術の

 修行をしています。今日は予定を作ってもらい、わざわざ来てもらいました」

「無理やり連れてこられただけだがなげふっ」

語尾が変なのはハウトがレルクを引っ叩いたからである。

「レルクくん、あんまヒネないの」

「……わかった」

「あ、じゃあ、僕は自己紹介しようかな」

「お、理央くんわかってるねぇ」

「僕の名前は村雨理央。名字は元々は田村だったんだけど、

 雨宮の雨をもらって、村雨って名乗るようにしてるんだ。

 田村って聞くと、いろいろと思い出しちゃうから……」

「はいそこ!話を暗くしない!」

「あ、すみません、つい」

理央がぺこぺこと謝る。

「そろそろ解放してあげてもよろしいんではなくて?」

「んー、わかった。よし、帰っていいぞ」

「じゃあ、僕たちは帰りますね」

「フン」

「だからレルクくん、ヒネないの。強くなるんでしょ?」

「わかってるよ」

「うん、それじゃあね」

理央は手を振り、レルクは片手をスッと上げて、二人は立ち去っていく。

「さて、そろそろ――」

「私の出番ですか?」

「うおっ、びっくりした!」

突然背後に現れたのは、吸血鬼で黒のマントで全身を覆っているラック‐ブラッドだ。

「一足先に夕食をいただいて門番しに来ました」

「あら、少しばかり早いのではないですか?」

「撮影があるから予定をずらしたんですよ」

「そーなんだ」

ラックさんは笑顔で頷く。

「そういえば、ヴェレウットは来ないの?」

「彼女は定時に来ると思いますよ」

「そか」

そんな話をしているうちに、前方から人影がやってくる。

「あら、イザヨイも帰ってきたみたいですね」

「だね」

十六夜と呼ばれたその人影は、襟と縫い目が赤い白衣と緋袴の巫女装束を纏い、

綺麗な白髪を重力が無いかのように横に広がったポニーテールにしている女性だ。

「「おかえり、イザヨイ」」

「ただいまでござる」

「今撮影してるのよ」

氷雨がいつもと違い砕けた話し方をする。

「そうでござるか」

「ヒサメとイザヨイはなにを隠そう、親友なのだよ」

「そうですね」

「そうでござるな」

「それで、イザヨイは街の警察隊に所属していて、お昼はいないのだよ」

「なにキャラですの?」

「細かいことはー、気にしなーい」

「ハハハ、ハウト殿は相変わらずでござるな」

「イザヨイはさすが寛大だね☆」

「まるで私が寛大ではないみたいに聞こえますわね」

「ヒサメは、ほら、うん……」

「なんでどもるんですの!?」

「ヒサメは寛大さより厳しさを持ち合わせているでござるからな」

「もう、イザヨイまで……」

氷雨がちょっと悲しそうにつぶやく。

「あまり気にするな、ヒサメ」

「そうね、イザヨイがそういうなら」

「こうやってみると二人は親友って言うより恋人って感じだよね」

「そうですね」

ハウトとラックが揃って頷く。

「んー、否定できないくらい仲良いでござるからな」

「イザヨイ、そこは否定しなさいよ」

「仲が良いことは良いことでござるよ」

「まぁ、そうだけど」

「ラックさーん、二人が惚気そうなので撮影終了しても良いですかー?」

ハウトがげんなりしながらラックに尋ねる。

「構わないんじゃないですか?」

「そうね。そろそろ夕食も出来上がってる頃だし、お終いで良いのではないかしら」

「では、ハウト殿。片付けるの手伝うでござるよ」

「うん、ありがとう」

「皆さん、いってらっしゃい。私は引き続き門番の仕事をしていますので」

「「「いってきます」」」

ハウトと十六夜は機材を片付けに、氷雨は食堂へと向かっていった。

「ところで、ハウト殿。進行のハウト殿とヒサメの撮影は終わったでござるか?」

「あ、私の紹介まともにやってない気がする。まぁいいか。

 副領主ってことだけど、仕事らしい仕事してないし」

「フフ、いずれ話す機会があるかもしれないでござるな」

「さすがにないわよ、そんなこと」

雑談を交わしながら機材を片付け終え、二人も食堂へと向かう。


かくして、サディア領の紹介が、これにて終わりを迎える。



初めましての方、初めまして。

いつも読んでます、読んでるよ、読んでるんだからね、という方、

ありがとうございます。偽の妹です。

今回はギャグテイストで作ってみましたがいかがだったでしょうか?

ギャグのスタイルはとある作家さんの影響を多分に受けてまして、

まずは自分にできることは模倣かな、とも思い、

このようなスタイルになりました。


次回作は10月末をめどに作成しようと思っています。

今後ともよろしくお願いします。

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