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三,検証!霊能力 その1

 「今夜復活!恐怖心霊事件ファイル・リターンズ」が放送された翌々日、金曜日。

 中央テレビの同じV6スタジオで「検証 心霊現象の是非」の収録が行われた。

 タイトルも地味だがセットも地味で、灰色基調の報道番組みたいだ。法廷のようでもあり、実際三津木プロデューサーにとってはその通りだ。奥の裁判員席に局の倫理委員を始め、普段テレビに出ることのない立派な肩書きを持つ識者が合わせて五名並んでいる。その前の左右に横長机が置かれ、向かって右に三津木プロデューサーとディレクター、そしてオカルト雑誌編集長鹿尻天一郎氏が座り、左に局の科学ドキュメンタリー番組のディレクター、朝日奈博士、博士と同じくアンチオカルトで有名なベテランタレント東風康平が座った。

 局の部長アナウンサーの司会で収録はスタートした。司会より昨今のオカルト的な物に対する世間の風潮、及び局独自の倫理的見地よりこの検証番組の制作に至った旨が説明された。予定される番組の尺は三十分ないし一時間。放送日時は未定であるがなるべく近日。半端な時間帯の放送になるのはやむを得ないが、いかにも慌てて組み込んだように見えた方が効果的だろう。

 一番問題となる「黒いお化けビル内における霊視とその結果現れたとおぼしい空中に漂う発光体=いわゆるオーブ」のシーンをモニターに映しながら、問題と見られる点をオカルト否定派が挙げ、それに対してさっそく鹿尻編集長が異議を申し立て、本物だ、いや偽物だと、他局のトークバトル番組でおなじみの不毛なやりとりを繰り広げた。

「魂は質量を持ったれっきとしたこの世の物質です。それは科学的に二十一グラムと計測されています」

 鹿尻編集長が真面目な顔で説明するのを、朝日奈博士はああ嫌だ嫌だと頭を振りつつ指摘した。

「君お得意の、ダンカンなんとか言う田舎の医者がやった穴だらけの計測のことだろう?」

「ダンカン・マクドゥーガル医師です。氏は人の死の瞬間を前後して体重が二十一グラム消失したのを確認したのです。これは呼気や汗の水分の失われた物とは異なる結果であり、その正体は科学的に解明されていません。それがすなわち魂の重量なのです。この実験結果は一九〇七年にニューヨーク・タイムズに発表されています」

「だから、その計測自体が間違っているんだよ。間違ったデータを元に考えたってそんなものしょうがないだろう!」

「それでは博士。僕が死ぬときには是非、体重の増減をあなたの手で正確に計ってください。あなたが計ってくれるなら僕は本望だ。君は自分の科学はごまかさない人だから」

「ああ分かった。あんたが望むんなら計ってやるよ。仏前に報告してやるから安心したまえ」

「ところでね、君はVTRのオーブをサーチライトを重ねて作った物だと主張しているけれど、それは無理があると思うんだよ? 例えば二本の同じ直径の円筒の光線が直角に交われば画面のような正確な光の球が出来るけれど、それが角度を変えれば当然楕円に歪むよねえ? 君が言うように数本の光源をコンピュータ制御して動かしても、これだけ正確で歪みのない球を維持するのは不可能だと思うんだよ?」

「じゃあ二本の光源を直角に維持したままお互い左右に自分の位置を移動すればいいだけだ」

「光源が二本だけならば、これだけはっきりした光球を作り出すためにはそれなりの光量が必要だよねえ? 周りが真っ暗でその光線が見えないのはおかしいんじゃないか?」

「それはだね…」

 これではらちが明かないのは分かり切っているので、VTRが終わったところで司会が打ち切った。

「ここで問題の当事者、霊能力者の姫倉美紅さんにご登場いただきます。姫倉さん、お願いします」

 セットの袖からADに案内されて姫倉がVTRにも登場していた女秘書を引き連れて登場した。

 いつもなら若い女性で華やぐ観覧の雛壇は今回は若者から高齢者まで男女半々の割合で座っていたが、そんな構成のお客さんからもこういう番組の雰囲気にも関わらず姫倉が登場した途端一種のどよめきが起こった。

 まるでダイヤモンドをまとったような、というのが彼女の場合文学的な比喩ではなくストレートに画的な見たままだった。

 スタジオの強い照明にシルバープラチナの豊かな巻き毛がキラキラハレーションを起こすほど輝いている。印象より背が高く、百六十五はありそうだ。にょきっと脚が長く……今日も現役女子高生のセーラー服を着ているが、スカートの裾が校則で定められるよりかなり短い。今日は生脚だ。意外に太ももとふくらはぎがむっちりして、ハイヒールを履いているわけでもないのに根元はきゅっと引き締まって、メリハリのあるセクシーな美脚だ。張りのある長いまつげに縁取られた大きなぱっちり開いた目の瞳が、エメラルドの透明なグリーンをしている。一般的なフランス人形よりちょっぴりお姉さんの顔立ちが、反則的にかわいい。

 ほー……、とため息をつくようにさざめく観客席がその可憐さに一目惚れしたのは間違いない。

 姫倉は入場の際人形のように無表情だったが、客席を向くと、ニコッと愛想良く微笑んだ。客席にふわあっと桃色が散った。これで観客は一気に姫倉の味方になった。

「姫倉さん、こちらへ」

 ステージ中央にテーブルが置かれ、その被告側の椅子に姫倉は座らされた。最初椅子は一つだけだったが、ADがもう一脚運んできて、黒服黒サングラスの女秘書が姫倉の奥側斜め後ろに座った。

「姫倉さん、わざわざお越しくださいましてありがとうございます。失礼ですがまず確認させていただきたいのですが、あなたは本物の、いわゆる霊能力者なのでしょうか?」

 姫倉の可憐なバラ色の唇が開いた。

「そうよ。わたしは正真正銘、日本最強、世界最強、いえ、人類史上最強の霊能力者よ」

 人を食ったセリフを多少鼻に掛かった甘ったるい声で言い、オカルト否定派からは不愉快と呆れ返るのとあからさまに馬鹿にした笑いが上がった。朝日奈博士が今度は直接面と向かって言った。

「お嬢ちゃん。だからそのセリフ、どの悪いおじさんに言えって言われたの?」

 姫倉がムッと瞼を半分下ろしてムカつくように言った。

「あんた嫌ーい。呪うわよ?」

 朝日奈博士はあざ笑った。

「いいよ。やれるもんならやってごらんなさい。どうぞ、遠慮しないで」

 姫倉は秘書に何やら囁かれて面白くなさそうに肩をすくめた。

 司会が両者に注意した。

「これはまじめな検証番組ですから、節度ある発言をお願いします。

 姫倉さんはご自身を霊能力者であると主張なさるのですね?」

「そうよ」

「嘘偽りはありませんね?」

「ない!」

「それでは…」

 司会の言葉を受け継いで検察側から科学番組ディレクターが立ち上がった。

「そういうことでしたら我々からこの場でそれを確認させてもらっていいですか?」

「ウェルカム」

「では」

 ディレクターはADからプレートを受け取り、姫倉の前のテーブルに置いた。

「ここに十枚の写真があります。いわゆる心霊写真という物ですが、その内何枚かは分析の結果はっきりインチキだと分かっている物、また何枚かは我々テレビ局の技術スタッフが人工的に作った物、何枚かが、分析の結果も原因が分からない、いわゆる霊能師ということを職業にしている方が本物と主張しているいわゆる本物の心霊写真と認められる物です」

 後ろで朝日奈博士が「そんな物ないけどね」と茶々を入れた。

「姫倉さん。この中から本物の心霊写真を選び出すことが出来ますか?」

 後ろでまた朝日奈博士が言った。

「全部偽物と言いなさい。そうすれば正解に間違いないから」

 味方の科学ディレクターまで度重なる茶々にうんざりした苛立ちを見せたが、姫倉は博士にニヤッと意地悪に笑って言った。

「あんたも説明できない写真が混じっているんでしょう?」

 博士はカッとなった。

「うるさいなあ。そんな物偶然の産物に決まっているよ!」

「博士」

 司会にたしなめられた。姫倉はざまあみろと赤い舌を出し、博士は目を剥いた。

「姫倉さん。ではお願いします。鑑定してみてください」

「ふん」

 ロケのVTRでも見られたように急に姫倉の目つきがふてぶてしくなった。写真は一三〇×一八〇の2Lサイズ、絵は縦横両方あった。姫倉は上から手に取ってチラッと見ると、ポイッと床に投げ捨て、ディレクターが慌てて拾い上げる間に次々ポイポイ捨てていき、怒った顔のディレクターが腰を上げるとテーブルのプレートの上には二枚の写真だけが並べられていた。

「この二枚が本物の心霊写真と言うことで、よろしいですね?」

「もち。エクザクトリー」

 姫倉を後ろから見守る三津木プロデューサーはひどく苛立っていた。彼はここまで発言を求められていない。鹿尻がしゃしゃり出て一人でべらべらおしゃべりするせいもあるが、おそらくは、決定的に不利な証拠を提示しておいて、その上で「やらせ」を認めさせ、責任を追及するつもりなのだろう。

 姫倉の選んだ二枚をカメラマンが撮し、裁判員後方の大型モニターに映される。

 どちらも横の絵で、一枚はどこか高台の展望所から眼下に広がる街の夜景を背景に男女のカップルが笑顔で映っているスナップ写真で、一枚は右四分の一にお寺のお堂らしき建物が後ろ半分映り、その境内らしき竹林を撮した昼間の写真。ただしかなり古い物らしく、灰色に退色している。

「ではこの写真のどこにいわゆる霊的な物が映り込んでいるか、説明してもらえますか?」

「んじゃまずこっちの夜景。バッチリお化けが映ってます」

 姫倉の細い指先が指すカップルの左の空間に、赤っぽく、うっすらと女性らしき人影が立ってこちらを見ているように見える。

 姫倉の指摘に気づいて客席の若い女性たちから悲鳴が上がった。

「もう一枚は?」

「竹林の顔」

 姫倉が指さす、竹と竹の折り重なる間に、根元近く、陰に紛れるように小さな男の顔だけが恨めしそうにこちらを睨んでいるのが映っている。また客席から若い悲鳴が上がった。

 ディレクターは姫倉の答えに頷き、

「では正解発表したいと思います。

 我々が暫定的に本物と認めたのはこちらの写真です」

 モニターに「正解」が映し出された。三枚。海水浴の子どもの写真、高校生たちの修学旅行の集合写真、姫倉の指摘したカップルの夜景。寺の竹藪の写真は含まれていなかった。

 検察側東風康平は持ち味のニヒルな笑いを浮かべ、朝日奈博士は呆れたようにふんぞり返り、客席から残念なため息が漏れた。科学ディレクターが解説する。

「こちらの三枚はコンピューター解析などの科学的な調査でも偽物とは断定できなかった写真です」

 画面の写真にそれぞれ心霊現象の現れている箇所が赤丸で囲まれた。海水浴の子どもの写真には波に洗われる岩に肘から先の生白い人間の腕が乗っかり、修学旅行の集合写真では一人の男子生徒の左半身がまるで一刀両断されたように肩からスパッと消え、左半身のあるべき場所に背景のモニュメントがはっきり映り、カップルの夜景は姫倉の指摘した赤い女の影だった。いずれも強烈な心霊写真に観客席からキャアッという女性たちの悲鳴が上がった。科学ディレクターは冷静に淡々と続ける。

「後はすべてインチキと、スタッフによるCG合成です。姫倉さんが本物と断定した竹藪の怨霊の顔は、CGです」

 その証拠であるコンピューターによる作業工程が映し出された。オリジナルの何も怪しい物の映っていない竹藪に、別のフレームから切り取って持ってきたかなりはっきりした男性の顔を、縮小し、位置を調整し、さらに色を落とし、画像を荒くして、背景の陰に馴染むように加工して、CG心霊写真が完成した。観客のがっかりしたため息は決定的になった。

「いかがですか?」

 科学ディレクターは冷静に姫倉を問い詰めた。

「これは明らかに我々が作った偽の心霊写真です。あなたのいわゆる霊視は外れました」

 東風康平がこのタイミングを待って言った。

「君さあ、タレントでしょう? あっちの番組スタッフに霊能力者を演じるように言われていたんでしょう? もうインチキがばれちゃったからさ、本当のことを言いなさいよ? タレントの君に罪はないからさ」

 ここで俺の出番か、と三津木は暗く自嘲した。全部俺の仕込んだことだと吊し上げて、この茶番劇を幕引きするつもりだ。頼みの姫倉が外してしまった以上どう頑張っても無駄か………


「怨霊の仕業です」


 突如高い声が上がり、虚を突かれたスタジオは一瞬『え?』と固まり、声の主姫倉に視線を集中させた。

「その竹林に埋められた男性の無念の思いがわたしに自分の存在を訴えるためにスタッフに心霊写真を作らせ、わたしに見させたのです」

 スタジオは呆れ返った。悪あがきが過ぎる。姫倉のルックスの可憐さに味方に付いていた観客たちまで白けて、反感をあらわにした。その空気を感じて姫倉は思いっきり不満の顔を向けた。

「信じないの? 本当よお?」

「君ねえ、いい加減に」

「まあいいじゃないか」

 怒る東風を、ニヤニヤしながら朝日奈博士が制して言った。

「それを墓穴と言うんだよ。じゃあその場所を掘ってみて、何も出てこなかったら、一〇〇パーセントこの女子高生君の言うことがでたらめだと分かるじゃないか?」

 博士としては今度はどんな言い逃れをするつもりだ?というつもりで言ったのだろうが、姫倉は受けて立った。

「いいわよお〜。死体が出てくればわたしの勝ちね?」

 自信満々の様子にニヤニヤしていた博士はカアッと顔を怒らせた。姫倉はニヤニヤして

「ほら、ブチッと行っちゃうわよ? 気を付けなさい?」

 と自分の頭を指さしからかった。博士はますます怒り、激高した。もう我慢ならんと立ち上がり。

「そうやって大人を舐めてるとひどい目に遭うぞ? こんなどうせ偽物しかないテストなんかするまでもないんだ、君の霊視なんてのはみんな嘘なんだよ!

 君、あのマンションを、墓地を潰して建てたって言ったよなあ?

 それは、間違いだ。よおく調べたつもりだろうが、裏目に出たな? 確かにあそこは近所の寺の所有だったが、墓地じゃあなく、寺の経営する幼稚園があったんだよ! それが経営していた住職が高齢になって、近所に新しい幼稚園ができたのを機に経営をやめて、土地をあのビルを建てた不動産会社に売却したんだよ! 残念だったな? 昔の資料で土地が寺の名前になっていたのをてっきり墓地だったんだと早合点したんだろう? 浅はかだったな? ま、君のミスじゃないよ、その台本を書いた大人がへまをしたんだよ。こっちはきちんと確認したよ、あそこには一つも墓なんてありゃしなかった、墓を潰されたことに怒る怨霊なんていやしないんだよ!?」

 スタジオは博士の決定的な指摘を受けて、すっかり諦めた非難の目で姫倉の様子を注視した。博士は声の調子を落として続けた。

「この間違いをどう説明するんだ? さっさと認めた方が身のためだぞ? 今なら君にそうさせた大人のせいに出来る。だが、写真の場所に死体が埋まっているなんてでたらめを言って、さすがにそれは人のせいには出来ないぞ? さあ、認めなさい、自分が霊能力者を演じていただけのただのタレントだって」

 博士はすっかり落ち着いて、大人が子どもを叱るように、諭すように言った。それに対し姫倉は。

「死体はあるもん」

 とふてくされたように言い、博士は再びイラッと怒りを走らせたが、無言で、もういいとばかりにドスンと椅子にふんぞり返った。

 そのやりとりの間に科学ディレクターが収録のディレクターを呼んで相談していた。その結果を報告する。

「残念ながら確認は無理です。この写真はライブラリーから選んだ古い物で、撮影場所のデータがないそうです」

 チッ、命拾いしたか。それともそれを見越していたか?、と否定派が不愉快な視線を向けると姫倉が、

「地図。場所、教えてあげるわよ?」

 と言い、ディレクターたちを驚かせた。

 さっそくネットの地図サービスに接続したタブレットが持ち込まれ、姫倉はお隣S県の地図を呼び出し、拡大を続け、

「ここ」

 と詳しい町内地図の一点を指さした。

 「竹琳寺」とある。ディレクターが地図の縮尺を広くし、場所を確認した。

「S県K市ですね」

 私鉄沿線の市だが、大分外れの山の方だ。

「昼間の今なら……いや、うちの協力プロダクションに依頼すれば一時間と掛からずに現地に到着できると思いますが……」

 視線とインカムでサブコンの藤森プロデューサーに意向を求めた。藤森は「GO」を出した。ディレクターは忙しげに携帯電話で連絡を取りだした。スタジオは再びすっかり緊張が高まり、ことの成り行きを見守った。電話を終えたディレクターが皆に報告した。

「幸い手が空いていてすぐに行けるそうです。到着までに約五十分。その間にこちらからもスタッフを向かわせて、お寺の方とも連絡して竹林を掘る許可をもらいます」

「必要ないわよ」

 姫倉が言った。

「どうせ誰もいないから」

 ディレクターは恐い顔で姫倉を睨むようにし、

「連絡先を捜します」

 と、再び携帯電話を操りだした。その様子をカメラはドキュメントし続けている。連絡先はなかなか見つからないようで、ディレクターは苛々した様子でブースの方にも「竹琳寺」の連絡先を捜すよう依頼した。上でもさっきから大騒ぎしている。

 姫倉は手を口にあくびをした。

「時間掛かるんでしょう? どっか遊びに行ってていい? なんか歌番組の収録とかやってないのー?」

 忙しいディレクターに無視されて姫倉は肩をすくめた。

 結局連絡先は見つからなかったようで、ディレクターは携帯電話を尻ポケットにしまった。

 騒然とした雰囲気を残しつついったんスタジオは落ち着き、じりじりと竹林調査の始まるのを待った。

 一人、異様な関心で姫倉を見つめている者がいた。もちろん三津木も姫倉の大胆すぎる発言に度肝を抜かれ複雑な表情で見守っていたが、「恐怖心霊事件ファイル」ディレクターを挟んでその隣、オカルト雑誌編集長鹿尻天一郎氏もまた、三津木以上の驚きに一種呆然としながら、まるで何かに憑かれたように一心に姫倉の横顔を後方から覗き込んでいた。

 その異様な熱心さに気づき、三津木プロデューサーが不思議そうな視線を向けた時だ、

 間に挟まれる三十代の、ロケを指揮していた現場ディレクターの彼が、おずおずと手を挙げた。気づいた司会者が「なんですか?」と発言を促すと。

「あの、実はあの廃マンションのロケで、報告しなければならないことがあります……」

 喉を痛そうにつばを飲み込みつつ緊張した面もちで言った。

「実はあのロケで、ちょっとした演出をやったんです……。その…、合図があったら、待機しているADにシャボン玉を一つ吹くように、と…………」

 彼は誰に遠慮してか身を縮めるようにして、その発言の意味に息をのんだスタジオはまた騒然とした。

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