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十三,とある心霊的風景

「お、ここだぜ、写真とばっちり」

 四人の大学生たちが朽ちた古寺を埋めるように広がる竹林の前に立ち、手にしたスマートフォンの画像と目の前の景色を見比べた。

 半年前に土建会社の社長が埋められているのを発見された現場だ。彼らが見比べている写真はそこを撮したいわゆる心霊写真だ。今よりずっとお堂は立派で竹林ももっと後退していて、その代わり写真は退色していかにも古い。竹林の地面に、生首を突き出したように恨めしそうにこちらを見ている男の顔が映り込んでいる。

「ほんとかなあ、この心霊写真を霊視して死体を掘り当てたって?」

「作り話だろう? 映画の宣伝だよ。その噂も、この写真も、宣伝のために関係者がわざと流出させたんだぜ? あざといプロモーションだよ」

「ま、いいじゃん。せっかく来たんだから証拠写真、と」

 午後の四時過ぎ、薄曇りもあって暗く陰った竹林にデジタルカメラのフラッシュが光り、丸々成長した竹たちを白く照らし出した。

「おっ、今なんか影が見えなかったか? ガイコツみたいなの?」

「馬鹿言え」

 ケタケタ笑い合い、

「宣伝に乗っかって女子たち誘って映画見に行こうぜ? この写真見せてムード盛り上げてさあ?」

「姫ビーのかなりきわどいセミヌードがあるんだろう?」

「あのフェースに美脚はそそるよなあ?」

「おまえら現実を見ろ。スクリーンの美女子高生より身近な生女子大生だろうが?」

「いいじゃん、映画館でどっちも堪能しようぜ? キャーッなんて抱きつかれたりして」

「おまえが抱きついて訴えられるなよ?」

 などと冗談を交わし、何とはなしに暗い竹林を眺め。

「んじゃ、帰るか?」

「そだな」

 と帰り掛けたとき、竹林の中をさっと夕日のような赤い光線が射した。夕焼けにはまだ早く、なんだろうと目を瞬かせながら確かめたときには光は消えていたが、


「幽霊なんていない、幽霊なんていない、幽霊なんていない、幽霊なんて…」


 と、ぶつぶつ呟く声がして、ギョッと、赤い光の焼き付いた視界で声のする辺りを覗き込んだ。ヒッと震え上がった。

 さっきまでは気づかなかった、地面に膝をついて、両手を硬く握り合わせ、頭を下げ、すぼめた肩と丸めた背中をブルブル震わせて、一心に

「幽霊なんていない、幽霊なんていない、幽霊なんて」

 と呟いている七十くらいの作業着の上着を着た男性がいた。

 何故男性がいることにさっきまでまるで気づかなかったのか、その事が四人の大学生たちを恐怖させた。

「お…、おい」

 彼らはお互い腕をつつき合い、確認し合った。

「ま、まさか、あ、あれ、こ、ここで殺された社長の幽霊なんじゃ……」

「ば、馬鹿言え、み、みんなに見えてるんだぞ? ゆ、幽霊なんて特別霊感のある奴にしか見えないものだろう?」

「で、でもさあ……、ひいっ…」

 彼らの話し声に気づいたのか、男性は唱えるのをやめ、顔を上げた。

 瞳がなかった。汚れたような灰色の白目だけの目玉をしていた。それでも彼らは男性と目が合ったように直感した。男性がわあっと幽霊でも見たような物凄い恐怖の表情を浮かべ、彼らはぞうっと戦慄し、次の瞬間、男性の姿は消えていた。

「うわわわわああ……!?」

 風が吹き、竹がカラカラと鳴った。

 一斉に、直感で、上を向いた彼らは、

「ぎゃああああああっ!!」

 大声で悲鳴を上げ、腰を抜かした。

 高々と成長した竹に串刺しされて、四体の男女の白骨体がぶら下がっていた。

 後に警察が調べたところ、それは松原社長殺害死体遺棄、金庫の五百万円窃盗の罪で全国指名手配されていたマツバラの元副社長とその妻、その娘と夫だと確認された。

 事件は解決した。容疑者死亡で犯人逮捕にはならなかったが。盗まれた五百万円の行方は分かりそうもないけれど。

 彼らの死因は白骨化が進みすぎていて分からなかった。いったいいつから空中で野ざらしにされていたのかも分からない。それまでにも現場を彼らのような野次馬がたくさん来ていたはずなのだが、頭上にぶら下がる死体には誰も気づかなかったようだ。

 現場ではその後「幽霊なんていない」と呟く松原社長の幽霊を目撃したとの話が絶えない。

 公開された映画の評判は出演する美少女二人の人気もあってまずまずであるようだ。



 了

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