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十二,Xファイル その2

「寺の竹林で見つかった死体。あれはどうやって見つけたんだ? あれも、インチキだったと、解説してくれるか?」

 姫倉はニッコリ笑った。

「企業秘密。下手なこと言ったらわたしが逮捕されちゃいますからね」

 じいっと怖い顔をしている博士に、こちらも薄ら寒い笑いになって。

「見つかった死体、松原龍男、土木建築請負業『マツバラ』社長。そのマツバラで社長のパワハラに遭って自殺した営業社員、桝岡良二。その兄で玉石前社長亡き後、建築法違反ビル始め巨額の負債の責任を負わされて自殺した桝岡良一元タマイシ社長。

 桝岡良二が大学を卒業して就職する九〇年代半ばはバブル崩壊後の超就職氷河期だった。良二も就職にあぶれ就職浪人となり、それを見かねた兄良一は、企画開発部のエースという立場を利用し、下請けのマツバラに弟を就職させてくれるよう口利きした。ちょこっとずるをして仕事を回すという約束で。桝岡良一自身にそうした不正の弱みがあったから、不祥事の責任を取らされるのが見え見えの新社長の人事を引き受けざるを得なかった。タマイシとマツバラの取引額は一見大したことないように見えるが、実は中間取次会社を利用した帳簿操作があって、公表された十倍の取引額があった。そうして兄良一が自殺すると、桝岡兄弟というパイプを通してタマイシと不正な癒着のあった松原社長は、タマイシの責任問題が自分の所に飛び火するのを恐れ、弟良二に圧力を掛けて自殺に追い込んだ。もう一つついでに教えると、マンション元住人で自殺した岡本健人。最初に彼が訴えたのはコンクリートの剥離という手抜き工事で、耐震強度不足とはまったく関係ありませんでした。構造的な強度不足でコンクリートが割れるようじゃ、それこそそんな所、とっくにボロボロに崩れていますよ。その手抜き工事を行ったのが、マツバラです。コンクリートをケチる指示をした松原社長が実は騒動の発端だったのです」

 ここに来て明かされた新事実に博士は口があんぐり開く思いがした。

「……ま、そういう悪人です、殺された松原龍男というのは。松原を殺して五百万円を奪った犯人はきっと……捕まりませんよ、永久に」

 姫倉の微笑に博士はゾッとした。

「ねえ博士。世の中には、知らない方がいい、知ってはいけないことって、あるんじゃありません?」

 博士はゴクリと固いつばを飲み込みながら、別の質問をした。

「君はいったい何者なのかね? とてもただの女子高生とも思えんが……。君とそっくりの…、紅倉美姫という女と、君はどういう関係だ?」

「紅倉美姫なんて言う女性はこの世に存在せず、ネットに流れている映像は作り物。と、以前のあなたなら単純に考えるんじゃありません?」

「単純には余計だ。存在しなかったとするには証拠がありすぎるんだよ、紅倉美姫には。彼女が過去に存在したことは、確かだ。それが本物の霊能力者であったかは別としてね」

 その後、鹿尻編集長から番組を丸ごと録画したVHSビデオテープからコピーしたDVDを送られて見た。当時の事件の記事と照らし合わせて見ても、この番組が後から作った偽物ではあり得ず、見れば見るほど紅倉美姫は姫倉美紅にそっくりだった。

「ふうん……。じゃあね、例えば。

 ある一人の少女がいました。彼女はものすごいお金持ちの家に生まれ、お祖父ちゃんは関西政財界のフィクサーと呼ばれる怖〜い人でした。

 ある時、彼女はひどい事故に遭い、命は取り留めたものの、顔も体もひどく損傷してまともな状態ではなくなってしまった。しかし彼女の家は大金持ちで、お祖父ちゃんは影のフィクサーで、彼女は会員制の秘密病院で最高の、厚生省の認可の下りていない最先端の医療を受けることが出来た。まるでサイボーグのように、肉体も顔面も完璧な再生が可能だったが、彼女は、幼少期から最高の教育を受けてIQ百七十の天才だったが、残念ながら容姿は芳しくなかった。彼女はわざわざイケテない自分を再生するのを望まず、ではどういう容姿がいいかというサンプルを見せられ、これだ!わたしはこの人になりたい!、という理想の女性を見つけた。その人の自分の年齢相当の顔、肉体に再生してもらった彼女だが、驚いたことに、お手本にした女性は、史上最強と言われた霊能力者で、しかも自分の事故と同時期に悲劇的な死を遂げていたことを知った。一度死にかけた彼女はそれまでとまったく違う死生観を持つようになっていた。まるで、その霊能力者の魂が宿ったように。彼女は本当に、彼女になることを決心した。…………

 なーんていうストーリーはどう?」

 姫倉はニヤニヤ笑いながら、しかしどこか緊張した色があり、博士には彼女の語ったストーリーがどこまで嘘で、どこまで本当か、判断がつかなかった。博士はもう一つ訊いた。

「本当のところ、今回の大騒ぎで、君はいったい何をしたかったんだね?」

「それは、」

 姫倉は今度は晴れやかに笑って言った。

「収録の中でたくさんしゃべりました。

 中学校のノイローゼ状態も収まったんでしょう?」

 その通り。あの収録が行われた翌日、DKBマンションビルが解体されると発表されてから、礎中学校で流行っていた謎の精神病は、ぴたりと治まってしまった。

「ねえ博士。魂や幽霊というのは人間が考え出した、社会の精神安定剤のような物だとは考えられません? 闇雲に事実だけを正しいとするやり方は、物事の真実を損なってしまうことにもなりかねないんじゃありません?」

 女子高生に物知り顔で諭されるのも癪だが、

「ま、そうかもな」

 と言った博士の真意は他にある。博士には、この姫倉美紅という少女と御堂美久という女が、とてもそういう合理的な説明のつく人物には思えないのだった。

 難しい話はおしまいにして、御堂が姫倉に言った。

「でも先生、あの金の仏像はもったいなかったですね? 欲しかったのに」

「しょうがないじゃない、モデルの女性たちがそんな恥ずかしい物、さっさと抹殺してくれって言うんだもん。それに、一番お気に入りはちゃっかりいただいちゃってるじゃない?」

 姫倉が明王になって復活するときに溶かして現れた一番若くてかわいらしい菩薩は、あれは撮影用に作り直した物で、オリジナルはこっそり二人の住む屋敷に運び込んである。ちなみに大日如来の玉石社長の顔も切り落として、表情を付けられる機械仕込みのロボットにすげ替えられていた。……ということになっている。

 博士が呆れ返って訊いた。

「それで、あんたは、なんだ、アイドルになるのかい?」

 映画のエンディングで歌い踊っていたアイドルデュオ「ヘヴンリービューティーズ」はこの姫倉と「ダブルトライアングル」からの卒業を発表した樺山沙希のユニットだ。姫倉の歌は、ま、そこそこという程度だが。

「うん。しばらく沙希ちゃんと芸能界で遊ぶんだあー」

「相変わらず舐めとるなあ。よく知らんが芸能界というのはそんな甘いもんじゃあないんじゃないか?」

「平気よ。ほら、わたし、こんなにかわいいから」

「・・・・・・」

 こいつは懲りるということを知らんのだなとむっつりする博士に、姫倉はニイッと子どもっぽく笑った。

「決めたんだあ、今生きているってことを思いっきり楽しむって」

「ふうん」

 博士の方は大人の顔でちょっぴり笑った。

「楽しいかね?」

「うん!」

 博士は姫倉を見るのがなんとなく照れくさく、御堂にふった。

「で? あんたは、まだこのお嬢ちゃんの秘書を続けるのか?」

「しばらくはお二人のマネージャーです」

 御堂はサングラスの代わりに二昔前の教育ママみたいな三角メガネを取りだして掛けた。けっこうシャレ好きのところがあるようだ。

「あんたも分からん人だなあ。あんたほどの人ならこんなんじゃなく、他にいくらでも有意義な仕事があるだろう?」

「こらこらー、おっさーん!」

 姫倉が半眼で抗議し、御堂は三角メガネに指を添え、

「最高の仕事です」

 と真顔で言い、思い出して不満そうに付け加えた。

「わたくしが先生を殺すなんて、あり得ないシナリオですね」

 姫倉は上機嫌で笑って御堂の首に両腕を回してじゃれついた。

「美久さんだから安心してあんな役を任せられるのよー? もう絶対的に信用してるんだからあー。わたしの体も全面的に任せてあげるー」

 御堂は片眉を上げて淫靡に微笑んだ。

「まあ好きにおやんなさい」

 博士は呆れたふりをし、

「じゃあ、もう帰れ!」

 二人を追い立てた。

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