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六,美少女霊能力者の正体 その2

「さっきの投稿映像に関してね、やっぱりネットで姫倉美紅は紅倉美姫の生まれ変わりではないか?といった意見が交わされているんだよ」

「生まれ変わりってなんだい? ま、これだけ顔が似ているんだから、姉妹か、従姉妹なんじゃないか?」

「そうだねえ」

「六年前に、じゃあ二十五歳だったとして、今三十一だ、姫倉美紅は十七歳だって? 三十一の母親に十七の娘は無理があるな。他人のそら似にしてはそっくりすぎるから、やっぱり年の離れた姉妹か従姉妹だ。そういう血筋なんだとか、そういう話なんだろう?」

「まあね。そうかも知れない」

「なんだい、もったいつけるじゃないか?」

 鹿尻氏はまた深刻な顔で考え込んでいたが、博士もついその沈思にのめり込んで付き合ってしまった。鹿尻氏がおもむろに口を開いた。

「突如一度だけ現れて凶悪事件を解決して闇に消えた紅倉美姫のその後については研究者の間にもいろいろ伝説があってね」

「また君のお得意の『真実を明らかにするネット活動家』のお仲間情報かい?」

「うん。そうだよ。馬鹿にするなよ?

 紅倉はこの番組の出演後、そのあまりに強すぎる霊視能力に危惧を抱いた国家公安に身柄を保護され、以後、彼らのために働かされていたと言うんだ。その具体的な活動についてはさすがにガードがきつくて伺い知ることは出来なかったがね。

 ところがそれから三年後の、今から三年前、日本を揺るがす霊能大戦が勃発したんだ。『高野山土鬼衆の乱』と言って専門家の間では有名な事件なんだが」

「・・・・・・・」

「公安が霊能的な暗殺者として使用していた高野山の地下組織が反逆を起こし、そこに所属する陰陽師たちが日本を支配しようと謀略を巡らしたんだ。公安はこの討伐に紅倉を差し向け、全国各地の大神を巻き込んだすさまじい死闘の末、両者相討ちして果てたと言うんだ」

 鹿尻氏はもちろん大まじめである。

「面白すぎるよ。君のファンタジー雑誌の記事にしたらいい」

「オカルト雑誌だ。以前特集を組んだよ。さすがにこれだけ大きな事件になると彼らも隠しおおせなかったようで、いろいろ情報が漏れ出てきてね。反響は大きかったよ?」

「ああそう。よかったね。じゃあ、紅倉美姫という女は、死んだんだね?」

「うん。ところが、そっくりの姫倉美紅という少女が現れた。僕は京都の山間のとある私立病院に行ってね、取材を申し込んだ。保険の利かない、VIP会員専門の超秘密主義の病院だよ」

「相変わらず話が飛ぶな。取材は断られたんだ?」

「いや。現在院長の細木原博士という女性がおしゃべり好きでね、お茶を飲みながらぺらぺらしゃべってくれたよ。細木原良子さんというハーバード大出で医学、薬学、免疫学、生命科学、生物進化学、コンピュータの博士で遺伝子工学のスペシャリストなんだが、君、知らないかね?」

「知らないよ、そんなでたらめな博士」

「そうか? 学会では相当有名人と聞いたが? まだ四十代のなかなか美人だったが、やっぱりちょっと普通人と違った感覚らしくてね、危ない人体実験の話とか得意そうにしてくれたよ。実はこの病院は以前にも危険な疑惑で目を付けていた所でね。五年前に北九州で大学生が四人も連続して自殺して、二人が変死、十人もの人間が惨殺された事件があったよね?」

「ああ、一時期まとまってそんなことがあったねえ。でもありゃ別々の事件だろう?」

「いや、それが全て戦時中の軍の秘密研究施設だった廃病院に巣くっていた凶悪な悪霊の仕業でね。どうやらそれを解決したのが紅倉美姫だったようなんだよ」

「…ふうん。で?」

「悪霊に取り憑かれて人を惨殺しまくっていたのは当時未成年の女子大学生だったんだが、彼女も瀕死の重傷を負って、彼女が密かに運び込まれたのがその京都の病院で、彼女を素材に遺伝子改造始め最先端の医療技術をつぎ込んで不老不死の新人類を作り上げたという話があってね」

「・・・・・・」

「彼女は強力なテレパシーを操って、脳を破壊して人を殺すことが出来るんだ。この二年ほど電車で痴漢行為をする男どもが突然狂い死にする事件が起きているだろう? それが彼女の仕業だと、『フランケンレディー』という都市伝説として噂されている」

「・・・・・・」

「その当時は院長が別の人間で取材に応じてもらえなかったんだが、今回は寛大でね、姫倉美紅のことを教えてもらったよ」

「ようやく来たか。あのお嬢ちゃんが病院とどんな関係がある?」

「ただの病院じゃないんだよ、政府黙認の秘密実験施設も兼ねているんだよ。そこでその不老不死の新人類の技術を応用して作り上げた紅倉美姫のクローンが、姫倉美紅だと、そういうわけだよ」

 朝日奈博士はさすがに呆れ返って口をだらんと開けた。驚いたかね?と鹿尻氏はしたり顔でうなずいてみせた。博士は開いた口を閉じ。

「面白すぎて笑えもしないな。君、その女博士にからかわれたっていうのが分からないのかね?」

「君は僕を馬鹿だと思っているな?」

「思っているよ?」

 鹿尻氏は困ったような顔をして、思い出したようにすっかりぬるくなったコーヒーをすすった。朝日奈博士はおかわりを勧めることもしなかった。

「君は、僕の話をまったく信じないんだな?」

「少しでも信じると思っていたのかね?」

「いや。どうせ信じやしないだろうと思っていたよ。だから細木原博士は慢心してべらべらしゃべったんだ」

「何? どういうこと?」

「だから、どうせ誰も信じないと安心しきっているんだ。でもね、木を隠すには森ということわざがあるだろう? とても信じられないような真実を隠すにはとても信じられない大法螺に紛れ込ませるということさ。いや、とても信じられない真実の森の中にということか」

 朝日奈博士は、こいつはやっぱりこういう奴なんだなと、ため息をついた。

「もういいよ。これ以上時間の…」

「御堂美久と言うんだよ」

「誰が?」

「姫倉の、黒服の秘書さ」

「ああ、あれ。あれもどうせ演出のための女優だろう? それとも姫倉がボロを出さないように見張っているのか?」

「いや。彼女の身元は分かっている。御堂美久、二十九歳、元警視庁警備部警護課所属巡査部長、いわゆるSPだよ。エリート中の、特に実戦能力の高い実力派のエリートだ。先回りして言っておくとね、ちゃんと昔の映像資料と照らし合わせて九十九パーセント本人と確認しているからね?」

 鹿尻氏はスマートフォンを取り返すと、ネットの別のページにつなげた。見たまえと博士に寄越す。

 『県知事より殺人女巡査に感謝状』というなんとも物騒なタイトルの記事で、賞状を受け取る若い女性警官の写真が掲載されている。鹿尻氏が解説する。

「二〇〇六年、県警で交番勤務だった頃の御堂美久だよ。パトロール中に繁華街で刃物を持った男が暴れているのに遭遇、男は近くにいた幼い女児を抱き上げ人質とした。御堂巡査は警告も無しに男を射殺。多数の死傷者が想定されるケースだったものの、結果的に犯人以外一人の怪我人も出さずに解決した。しかし御堂巡査の行為は明らかに服務規程違反だった。暴れた男は精神科に通っていた経歴があったものの薬物の使用はなく、人権団体からやり過ぎとの非難が上がっていた。県警、警察庁でも問題になったが、これを牽制したのが当時の女性知事で、彼女は有名なフェミニストだった。御堂巡査を県知事表彰することで凶行から市民を守った女性警官を理不尽な弾劾から守ったんだ。その後すぐに御堂巡査は警視庁勤務になり、SPになったわけだ」

 なかなかただ者でない雰囲気をかもしていた女秘書だが、そんなすさまじい経歴の持ち主とは驚きだ。写真の、当時二十三歳の御堂久美は、正義感溢れる凛々しい顔つきをし、サングラスを掛けていない彼女はやはりかなりの美人だった。

「そんな公権の元超ルーキーが秘書と称してボディーガードになっているんだ、姫倉美紅がただの女子高生でないのは分かるだろう?」

 博士はスマートフォンを返して言った。

「だから姫倉美紅を本物だと信じろと言うのか?」

「少なくとも政府がらみの大物だというのは信じてくれてもいいんじゃないか?」

 博士は手を振って立ち上がった。

「はいはい、もういいよ。続きは明日にしようね?」

「え?」

 鹿尻はきょとんとして博士を見上げ、博士は目をぱちくりして、

「明日だよ。君も、呼ばれてるんじゃないのかね?」

「何に?」

「呼ばれてないのお?」

 博士は同情的に見つめてやった。

「え? なんなの?」

「明日、また中央テレビの収録に呼ばれているんだよ。姫倉美紅の企画でね。こないだはそっちのフィールドで戦ってやったんだから、今度は自分のフィールドで勝負しなさい、ってことらしい。わたしとしても今度こそあの小娘の嘘をこてんぱんにやっつけてやろうと思っているんだが…………、そうかあ、君は…、招かれてないのかあ…………」

 今初めて話を知って鹿尻氏はひどいショックを受けていた。まあこういう奴じゃあ身内からも疎まれるかと、博士は哀れになって、言ってやった。

「いいよ、まあ長年のつき合いだ、わたしからテレビ局に君も呼ぶよう話してやるよ。ま、向こうがどう言うか知らないけど、連絡を待ってみてよ」

「そ、そうかい? いや、ありがとう」

 鹿尻氏も立ち上がり、顔をほころばせて博士の手も取らんばかりに喜んだが、博士の嫌そうなそぶりに手は引っ込めて、それでもニコニコ嬉しそうに笑った。素直な人なのである。

「じゃ、まあ、君がいたら話しづらいから、君はもう帰んなさい。運が良ければ、また明日ね」

「うん。ありがとう。恩に着るよ。今度豪華版のUFO写真集を贈呈するよ」

「いらんよ、そんな物。さっさと帰れ!」

 鹿尻氏はニヤニヤしながら出ていった。

 俺も余計な約束をしたものだとため息をつきながら、博士は思った。

 木を隠すには森とは言い得て妙だな。

 確かに、姫倉のバックに組織的な大人数が絡んでいるのは間違いなかろう。

 それが殺人事件まで利用する危険な連中だというのは正直なところ怖い。

 要するに姫倉美紅は、その組織の傀儡であった紅倉美姫の二代目女優という事だ。

 裏の組織なんて自分の専門外で知ったことではないが、そのオカルトのからくりは、自分がきっちり暴いてやる。

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